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9.初仕事だけど……

 次元収納に下着を仕舞うと、冒険者ギルドに向かった。

 両開きのスイングドアを開け、中に入る。

「アセナ、どれをやる?」

「マルス、読めないのが多い」

 泣き顔のアセナ。

 こんなふうに依頼が読めないから、まともな依頼ができなかったんだろうな。

「やっぱり、今晩から公用語の勉強だな」

「えっ?」

「読めなきゃ依頼が受けられないだろ?」

「読めなくてもマルスが読んでくれるから……」

「俺は公用語が読めるアセナがカッコいいと思うけどなぁ。

 颯爽と依頼を受けて去っていく白狼族。

 んー、あこがれるね、余計好きになるね」

 俺が持ち上げると、

「そうだな、マルスが好きになるというのなら、仕方ないな」

 アセナは頷いた。


 チョロいね。


 機嫌がいいアセナを横目で見ながら、何をしようかと、掲示板を見る。

 そこにで見つけた、

「神樹の実。どなたでも構いません、手に入れた方、お持ちください」

 という依頼。

 既に何年も経っているのかもしれない、髪は茶色に変色していた。

 それを千切ると、昨日の受付嬢の所に向かう。

「えーっと、すみません。神樹の実って何ですか?」

「神樹の実とは、ダンジョンに生息するトレント系の最上位の魔物、神樹が実らせるという赤い実でして、ごく稀にドロップされると言われています。

 その実はその者を一瞬にして全快にすると言われています。

 実際にダンジョンがあるかどうかもわからず、この街の冒険者ギルドで百年ほど前に一度だけ扱った記録があるだけです」


 激レアアイテムの赤い実ねぇ……。

 はて、どこかで聞いたことがある話。 

 あんとき、ヤケド治ったよなぁ……。

 神樹の実って、バケモノの木の実じゃね?


「そんな実をなぜ?」

「その依頼主はこの街の豪商で、ラルフ・ペンドルトと言います。

 ラルフ氏の娘は幼い時に病気を患ってしまい、あらゆる薬を手に入れ治療法を試してみたのですが、完治とはいかず、病状を安定にも至っていません。

 大金を積み治癒師に治療させてはいますが、なんとか病状を悪化させないのが精いっぱいらしく、この依頼を出したようなのです。

 このギルドにあった百年に一度の記録に縋って出した、金貨三百枚の依頼。

 金額に目がくらみ、多くの冒険者が依頼を受けようとしましたが、誰のカードをかざしても水晶は赤く光り、依頼さえ受けられない始末。

 結局神樹の実は今まで見つからないまま……。

 掲示板にはあるものの焦げ付いた状態になっています」

 とのこと。


「それ、受けるよ。カードでチェックしてみて」

 俺とアセナのカードを差し出した。

「えっ?」

「受けられるかどうかは水晶が決めるんでしょ?」

「そうですが……では一応」

 依頼用の水晶にカードをかざすと、水晶が白く輝いた。

「これで受けられますね」

 受付嬢は俺たちを見て驚いていた。

「神樹の実はラルフ・ペンドルトさんの家に持って行けばいいんですか?」

「えっ、ええ」

 俺とアセナのカードを差し出しながら、受付嬢は言った。

「場所は?」

 俺が聞くと、

「昨日紹介した宿の前になります」

 と教えてくれた。


 ありゃ、意外と近い。


「終わったらどうすればいい?」

「えっ?」

「だから、終わったらどうすればいい?」

「この書類へ依頼主のラルフさんにサインをもらってきてください」

 と書類を差し出す。

 受付嬢が作った書類を受け取ると、俺たちはラルフ・ペンドルトさんの所へ向かうのだった。



「どんな依頼を受けたのだ?」

 言葉がわからず、依頼内容がわかっていなかったのか、アセナが俺に聞く。

「『神樹の実をとってきて欲しい』だってさ」

 アセナの顔色が変わり、

「何! そんな無謀な物を。

 神樹などどこに生えているかさえわからないのに?

 魔物がドロップするとしても、強い魔物だぞ!」

と大声を上げた。

「知っているのか?」

「話はな……」

「心配してくれてありがと」

 俺の言葉に、

「我が夫に死んでほしくないからな」

 当然というようにアセナが言う。

「でも俺、神樹の実を持ってるんだ。だからそんな危ないことは無い。

 親父の遺産の中に入ってる。

 ズルいかもしれないが、これも有りだろ?」

「ズルくはない。運だ!

 それにしても良かった!」

 安心したようにアセナが言うと俺の目の前に大きなものが二つ現れギュッと抱きしめられた。



 確かに宿の前。

 ちなみに、宿の名は暁のドラゴン亭。

 その斜め向かいにデカい店。

 馬車が何台も出入りしている。

 俺は近くにいた店員に冒険者ギルドの書類を渡すとめっちゃ驚き、「旦那様―! 旦那様―!」と叫ぶとすぐに俺たちを奥に連れて行く。

「何だ!」

 と大きな声で恰幅の良い中年男性が居た。

 心労のせいか、髪の毛が寂しい。


「冒険者ギルドから、神樹の実の依頼で冒険者が来ました!」

「何!」

 ぎろりと俺を睨むラルフさん。

「本当なのか?」

「これが間違いないのなら」

 俺はズボンのポケットからバケモノの木の実を出した。

「これが……神樹の実」

 連れられて行った部屋には、やせ細った同い年ぐらいの女の子。ゼーゼーと息苦しそうに呼吸をしている。その横には老齢の魔術師のような男が居た。

 必死に両手を女の子にかざしている。

「僕も神樹の実かどうかはわかりません。

 ただ、この実のお陰で自分自身が死ななかったこともありますので、試してみてください。

 実際に効果がなければ、依頼を受けた手前、別の物を探してきます」

 ラルフさんは実を受け取ると、

「食べられるか」

 と女の子に差し出した。

 コクリと頷き、カプっと小さな口で実を食べると、果汁が染み出す。

 そして、女の子の体が薄青く輝いた。

 ハムハムと全てを食べきった時には、やせ細っていた体が年齢相応の肉付きに戻っている。

「あっ……、辛くない」

 小さな声で呟いた。


「効いたみたいですね。

 店員に渡した書類にサインをお願いしたいのですが」

 俺が言うと、

「君……、ありがとう!」

 そう言ってオッサンに抱き付かれる。

 若干脂ぎった頬が俺の頬に触れる。


 苦痛……。


「おっ僕は依頼を受けただけなので、たまたま持っていた実が役に立ってよかったです」

 苦笑いでオッサンに言うのだが、感動で聞こえないのか、頬を摺り寄せてくる。


 ぐぅ……いい加減にサインを……。


 すると、ラルフさんは娘に抱き付いて、同じことをし始めた。

 

 順番逆じゃね?

 

 そのあと、父と娘、そして母親まで混じって泣いている。

 

 まあ、良かったんだろうけどね。


 すると、

「助かったのか?」

 アセナが獣人語で聞いてきた。

「そうみたい。

 サインを貰える感じじゃなくてね。

 まあ、神樹の実だけなら何百もあるから……」

「え゛」

 アセナが俺を見て固まった。

 まあ、実際、それぐらいは持っている。

「内緒だぞ」

 コクコクとアセナは頷いていた。


 なかなか感動が収まらないようなので、放っておいて宿に戻る。

 宿に戻る道中、

「いいのか?」

 アセナが聞いてきた。

「ん? 別に金が欲しい訳じゃないし、依頼を受けようと思ったらたまたま目についただけだし、アセナと一緒に風呂に入る方がいいかなぁ」

 油も落としたい。

(われ)もそれでいいぞ」

 結局宿に帰ると、夕食をとって風呂に入って寝るのだった。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたら、指摘していただけると助かります。

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