4.終わりの始まり
死ぬこともなく、魔素を取り込むことに専念していると、いきなり俺の腕と足にあった枷が壊れた。
急に体が軽くなる。
何だ?
バケモノの木の前に行くと、バケモノの木がしなる枝で攻撃してくる。
今まで見たことがない速さだ。
俺はそれを避けると、
「何でだ!」
と声をあげた。
「言っただろう。俺を殺させるため
その枷が外れるのは、儂の魔力ではお前を押さえることができなくなった時」
バケモノの木は今までに見たことが無いような恐ろしい顔をする。
「そんなこと言われても、俺はアンタに育てられた。
だから、親代わりなんだ。
たった二人の生活だが、楽しかった」
俺は盾で枝を防ぐ。
「それでもだ。
儂は死にたい。
自分が原因とはいえ、強くなってしまった。
お前が降ってきて、強く育って行く姿を見てうれしかった。
この者は儂を倒す者になると実感できたからな。
無駄な時間を過ごしてきた儂に希望を与えたお前。
お前は儂を倒す者。
お前の役目を果たすんだ。
無為な時間を過ごした俺を殺してくれ!」
バケモノの木は枝の先から超高圧の水を吹き出した。
あれに当たると俺の手足が千切れるのは間違いない。
体を貫かれれば死だ。
ただ、枷の無い俺の体は軽く、容易に躱すことができた。
外れた水で床が削れている。
そして、バケモノの木の隙を見つけ思わず反応した一撃。
幹を貫いていた。
なぜかバケモノの木は俺を見て笑っていた。
「殺す気で攻撃しないとお前は俺を殺さないだろう??
外の戦いで鍛えられ、心より先に体が反応したみたいだな。
お前に着けていた枷。それはお前の能力を大きく制限するために着けていた。
お前の魔力能力が大きくなるほど、お前の魔力を吸い取って重くなるようにしていた。
それで鍛えさせていたのだ。
しかしダンジョンマスターの儂の能力でさえ、お前を拘束することはできなくなった。
その枷が外れた時点で、すでに儂より強かったのだよ」
そう言った後、
「ありがとう、儂を殺してくれて。
お前を育てた間、変化があって楽しかった。
儂を倒したお前には、体がなくなった後に、宝箱が出るだろう。
それを手に入れて、ここを去れ」
一方的な言葉だった。
「俺はどうすれば?」
「儂を倒すほどの力を持っているだろ? だから儂は気にしない。
さっさとこんなじめじめしたダンジョンは出て行け!
そして、外の世界に暮らすんだ。
こんなクソッタレな場所に居ちゃいけない」
そう言うと、バケモノの木は消え始めた。
「せめて名をつけろよ!」
俺が言うと、
「そうだな……マルス。
儂の仮想敵だ」
光る塊になったバケモノの木が言うと、スッとその光が消えた。
俺はこうしてマルスになった。
バケモノの木の枝についていた実が落ちている。
俺はそれを拾うと、次元収納に入れた。
拾い終えると、豪華な金色の宝箱が現れた。
それを開けると、中には金銀財宝。
俺は中身を確認せずに、次元収納に入れる。
ダンジョンマスターが居なくなるとダンジョンは下から上へと徐々に消えるらしい。
そして、魔物はリポップしなくなる。
俺は最後の大掃除として魔物どもを全て倒しながら上へ向かうのだった。
魔物も弱くなってきたので、俺は服と木剣だけにする。
上層に近くなったのか、敵も弱くなった。
そしてすべての魔物と全ての宝箱を回収してダンジョンを出るのだった。
この世界で初めて陽の光を浴びる。
眩しさに目を細めた。
目が慣れてくると、鬱蒼とした森。
さて、バケモノの木にこの世界の基本情報は教わらなかった。
その辺の情報が欲しい訳で……。
その辺の情報を提供してくれる人物って居ないかね?
目に意識を集中させると、周囲の状況が俯瞰で見える。
半径で二キロぐらいだろうか。
五百メートルほど先に馬に乗った男とその後ろに手枷をつけられた女が見えるのだった。
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