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鹿児島

夜明け前に目が覚めた。昨日のどんちゃん騒ぎが嘘みたいに静かだ。小春は縁側に座り明るくなっていく景色を眺めながら、これまでの事を思い出していた。


2013年2月3日お父さんが死んだ。

私はショックで倒れ、目を覚ましてからも人と話せず、食事も喉を通らなかった。

お父さんが死んじゃった事は何より苦しかったし、辛かった。

でも、1番ショックだったのは自分がバレエの練習をしていないのに平気でいる事。むしろ叱られないで済むと少し安心している自分に、心底呆れていた。毎日、バレエの事ばかり考えて練習しない日なんて無かったのに・・・自分自身が気持ち悪くて仕方なかった。



二日後、お父さんの兄だという人が私の病室を訪れた。

「小春、覚えちょっか?鹿児島の叔父さんだよ?」


・・・


「一人で大変やったやろ?葬式までは東京ですっで、そん後は鹿児島ん叔父さん家に、お父さんと一緒に来たやよかじゃ。」


・・・


「うん、うん!

早かよなぁ。まだ早すぎるじゃ。なんで、人を助ける先生が死なんといけんど!なぁ!!こはるぅぅぅ!!」


叔父さんは、溜まっていた涙を全て出して泣いていた。


その2週間後、私は必要な物だけをスーツケースに入れ、鹿児島行きの飛行機に乗った。


叔父さんの家は温泉で有名な地域にあり、硫黄の匂いがしていた。去年リフォームした家は新しく綺麗だったが、私に与えられた部屋は物置部屋だった。

ダンボールや扇風機、畳まれたテント、それらが部屋の半分を占めていた。


私はここまで来ても尚、どうして良いか分からなかった。

ただ、いなくなりたかった。

この世界から。


私は、どうして生まれてきたの。こんなに、人に迷惑ばかりかけてしまうのなら、いっそお父さんじゃなくて、お母さんじゃなくて、おばぁちゃんでもなくて、私が・・・

居なくなれば良かったのに・・・

ねぇ。お母さん、お願い。ジゼルになって私を死後の世界に連れてって・・・

毎日、そう祈りながら眠りについた。



ある晚、トイレに行こうとリビングの横を通ると叔父さんと叔母さんの声がした。


「いつまで置いとっん?あん暗か子!侑は受験生じゃよ?自分の家に知らんおなごん子が毎日、居るって思うたら勉強に集中出来んって!」

「そげん事言うなじゃ!おいん姪っ子を!」


「で??いつ東京のマンション売るんよ?高く売れたらうちにも少しはお金入るんやろ?」


「まぁな、小春も喋れんで、うちん養子にすりゃ幾らかは貰えるかもしれん・・・」


・・・


小春は恐ろしくなった。震えが、止まらない。

お父さんの事を思って泣いてた叔父さんが・・・

そんな事を思ってたなんて・・・

心臓をナイフで刺された様だった。

『 本当にお前は要らない存在だ。』

そう、言われた気がした。


気が付いたら、泣きながらバレエのレッスンバッグに洋服と下着、洗面道具、タオル、財布、携帯を入れて窓から外に出ていた。

鹿児島に来て以来、ろくに外に出て無かったから道なんて分からなかった。だけど、硫黄の匂いのしない方に走った。


一晩中走った。泣きながら走り続けた。

いっそ、暴走した車が私を轢いてくれないかと期待しながら・・・

だけど、鹿児島の夜は不気味なほど静かだった。



辺りは、うっすらと明るくなっていた。硫黄の匂いは消え、潮の香りがする。


小春は、小さな港まで来ていた。船は漁に出た後なのか港は静かに夜が明けるのを待っていた。


防波堤にバッグを抱えて座ると、疲れが一気に全身を襲う。

太陽の光が小春を包み込んでいく。


一瞬、光が強くなり目を綴じた。

瞬間・・・


小春は光と同化する様に身体が熱くなり、身体が浮いた。


ドスン!!


光が無くなると、急に身体が冷えて重力が戻り、小春は尻もちを付いた。


目を開けると、全く別の世界だった。

おかしい。

防波堤がない。

漁港の建物がない。

道路がない。

ってか、何で私は藪の中に居るの?


目眩がする。怖い。な、何が起こったの?

私は、生きてる?

それとも・・・

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