一人
「1年5組の仲原小春さん、至急職員室まで来てください。」
3時間目の授業中、突然放送で呼び出された。
職員室に行くと、いつもより老け顔に見える教頭先生が私が来るのを待っていた。
歳の割に短いスカートを履いてる教頭先生の違和感が妙に気持ち悪かった。
「仲原さん、落ち着いて聞いてね。」
?
「お父さんが、交通事故で亡くなったって。今、お父さんが勤務されてた病院から電話があったの。
私が運転するから、一緒に病院行きましょう。」
?ちょっと、待ってよ。
なんで交通事故?なんでお父さんが交通事故にあうの?
何も、考えられなかった。教頭先生に言われるまま、自分のバッグを持って車に乗り込んだ。
死んだのは自分なんじゃないか。って思うほど、頭の中も、私の顔も身体も全部真っ白だった。
冷たかった・・・何もかもが。
お父さんも、私も、空気も、音も、色も、世界の全てが……
目が覚めると、私は病院のベッドの中に居た。
無機質な天井を眺めながら、涙が零れて右耳が溺れた。
本当にひとりになっちゃった。家族が・・・
皆、いなくなっちゃった・・・
「龍馬さん、もうすぐ着くみたいですよ。」
おりょうは揺れる船上で、自分に寄りかかって寝ている龍馬を優しく起こしていた。
「う~ん、もーちょっと~」
そう言いながら、おりょうの膝の上に頭を乗せ、おりょうの匂いをクンクン嗅いでいる。
「こら!」ペチンと龍馬の頭を軽く叩く。
「もー、おりょうのケチー。」
口を尖らせた龍馬が、おりょうを後ろから抱きしめた。
「おりょう!夫婦ぜよ!ずっと、ずーっと一緒やき、こんな事しても良いがやろ?」
「そやかて、くっつき過ぎやぁ」
嫌がりながらも、おりょうは頬を赤らめながら笑っていた。
「よ~来やった、待ってもした〜!龍馬さん、おりょうさん!!」
港に着くなり、薩摩の藩士達が二人を出迎えた。
その迎えが嬉しかった龍馬は、いきなり歌いながら踊りだした。
「さぁさぁさぁさあ、着きもーーーしたっ!さぁさぁさぁさあ、薩摩ぜよぉぉぉぉおっ!」
「まずは温泉か?上手い飯か?はぁ、楽しみやのぉ!」
「おりょう!楽しみ過ぎて小便行きとーなった!」
「はっ?」
「もー、呆れるっ!うちは、先に宿に行ってますから!」
と、言い残し本当に藩士達と去って行った。
龍馬は、足早に港の木陰に隠れて用を足すと、少し海辺の方に歩き太陽の光を全身に浴びていた。
一瞬、光が強くなり思わず目を綴じた。
ドスン!!
眩しさが和らぐと、音のした方を向きながら銃に手を掛ける。
そっと、近づくと髪の長い女が見た事のない着物を着てうずくまっていた。
龍馬は銃から手を離し、声をかけた。「おまん、大丈夫か?」
「こん着物はどーしたがや?足の出てしもーとるき、寒かろ?」
女はえらく震えていた。寒さからではなく、恐怖で震えていた。全身からビリビリと死を感じるほどに・・・