瀕死の白鳥
どうしよう・・・
何であんな事言っちゃったんだろう
もうすぐ、自分は死ぬ。旦那さんは死ぬ。って言われてさ、明日から普通に生きれる?
私だったら・・・
ごめんなさい。ごめんなさいっ!!
小春は、龍馬達の方を向けずにいた。
龍馬達に背中を向けたまま、最初のポーズに入る。
龍馬さんとおりょうさんは私に、とっても優しくしてくれたのに。
どうして私は、いつもいつも人に迷惑ばかりかけてしまうのだろう。
後悔しかないけれど、それでも願ってしまう。
少しでも長く生きてほしい。おりょうさんが言うように、しぶとく生き延びてほしい。
最後の最後まで。
羽が動くまで足掻いてほしい。
愛する人の為に……
小春は肩甲骨を剥がして、そこから白鳥の羽を生やしはじめた。
つま先立ちで、細かく両足を動かし続けながら先ほど生やした羽をゆっくりと動かしていく。
小春は、瀕死の白鳥を踊っていた。
有名な白鳥の湖と間違われやすいが、これは全く別の作品で、ある有名なバレリーナの為に振り付けされたもので一羽の傷ついた白鳥の、命が尽きるまでを描いた作品だ。
傷ついた白鳥が、懸命に羽を動かす。
チェロの哀しい音色と共に、まだ羽を広げたい。
空を飛びたい。そう願っているかの様に、最後の力を振り絞って羽を動かそうとする。
だけど、だんだん羽が動かせなくなり、肩甲骨から羽が取れていく。
苦しくて、もがく姿さえ美しかった。
最後まで美しい白鳥は、生きたい。という気持ちがあるからこそ美しいのかなぁ。
そう思えた。
私は、何がなんでも生きたい!そう思った事は今まで一度も無かった。
でも今、私は生きたい。生きたい!
まだ羽を動かしたい。
踊りたい!そう思いながら踊っている。
踊りながら気がついた。
美しい最後なんかじゃ無かったことに。
生きたいのに、生きれなくなるって。
全然美しくなんかないよ。
ただ、ただ哀しいだけだ。
小春が龍馬達の方を向いて最後の力で羽を動かした瞬間。
強い光が辺りを包んだ。
小春の身体の重力が無くなっていく。
おりょうさん!
小春は、引き寄せられる物に反発しながら龍馬達を探した。
『バンッ!!』
突然、ピストルの音が辺り一面に響き渡り、やまびこのせいでいつまでも音が鳴っている。
眩しさを我慢しながら開けた小春の目に、ピストルの銃口を向けた龍馬の姿が見えた。