覚悟
最後のポーズを決めた小春は、舞台の中央へと行き龍馬達の方を向くと丁寧にお辞儀をした。
「ブラボー!」
龍馬がいつもの様に、大きな拍手をしながら叫んだ。
その横で、おりょうも感動した様子で小春に拍手を送っていた。
「龍馬さーん!おりょうさーん!大好きぃぃい!」
そう叫びながら、小春は二人に抱きついた。
二人は少し驚きながらも、笑顔で小春を褒めながら撫でた。
龍馬は、興奮した様子で声をかけた。
「そん靴を履いて踊るとげに、天女のようやったぜよ!」
その言葉に頷きながら、おりょうも「うん、うん!本当に、この世の物とは思えんくらい美しかったぁ。」
「ありがとうございます!」
一歩引いて、頭を下げながら小春は二人に伝えた。
小春は、二人の正面に座るとトウシューズを脱ぎ始めた。最後、舞台全体の端をぐるっと大きな円を描く様に、自分自身も高速でターンしながら回る時に少し、滑ってしまったからだ。
足は捻ったりしていないみたい。
大丈夫。
トウシューズを脱ぐと、龍馬が身を乗り出して見ていたので、小春は龍馬にトウシューズを手渡した。
小春の呼吸と心臓の鼓動が、少しずつ落ち着いてくる。しかし、小春の心の中には灰色のモヤモヤした物が渦巻いていた・・・
「小春?
うちらに、伝えたい事があるなら言ってごらん?」
おりょうが優しく声をかける。
小春は深呼吸をした後、こう言った。
「私、私・・・
死神、って言われていたんです。」
小春は、淡々と小学生の頃の話しをした。
そして、自分自身もそう思っているという事も……
「小春、それは考え過ぎでしょ?」
おりょうの言葉に、小春は俯きながら首を横に振った。
「だって、だって・・・
龍馬さん、死んじゃうもんっ!」
馬鹿だ。馬鹿だ!何でそんな事言うのよ!
黙ってよ!私の口!!
小春は泣きながら、声を震わせ言った。
「私、歴史のテストとか全然ダメだったけど、それでも有名だもん!ドラマとか、テレビとかでやってたもん・・・」
小春の呼吸がまた、早くなる・・・
「龍馬さんは、おりょうさんと鹿児島に新婚旅行に行って、その後、何年後か分からないけど京都で、殺されちゃうんだもん!
やっぱり、私のせいで私と仲良くしちゃったから!二人の幸せを、私が、私が!壊しちゃったんだよ・・・」
小春は怖くて、恐ろしくて、顔を上げる事が出来なかった。
はぁ、はぁ、はぁ。
「ごめんなさい。ごめんなさいっ!!
急に、こんな事言ってごめんなさい!!」
小春は、俯いたまま叫んだ。
少し間を置いた後、おりょうが小春の両頬に手を当て、目を合わせながらこう言った。
「小春が謝る事じゃない。
大丈夫!龍馬さんが命を狙われてる事くらい知ってるし。実際、切られたしね。うち、そんな覚悟も無く、龍馬さんと夫婦になった訳じゃないからね?」
おりょうさんは笑顔だった・・・
あんな酷い事言っちゃったのに・・・
「小春、私は?私もすぐに死ぬの?」
「・・・分からない。知らないです。ごめんなさい・・・」
小春はまた、ぽろぽろと涙を流していた。
「小春、だったらうちが証明して見せる。
何がなんでも生きてやる。
どんな事をしても長生きするから。
だから、あんたは死神なんかじゃない!
誰も不幸になんかしない!
だって、あんたは光り輝く天女様なんだから!!
小春の踊りを見て、うちは本当に幸せだったんだよ・・・
龍馬さんと毎日、小春の踊りを見て笑い合ってさ。
うちの人生の中で1番、幸せな日々だったんだから!うちらの事、勝手に不幸になるとか決めつけないで!」
小春は、初めておりょうの涙を見た。
「小春、わしゃ先の世でそがに有名なんやな!」
龍馬は、いつもの笑顔でそう言った。
そして、
「小春、もうひと踊りしてくれんか?」
と優しく小春にお願いをした。
小春は、ゆっくりと頷くとトウシューズではなく、先が柔らかいバレエシューズを履き、舞台の中央へと歩く。
その後ろ姿を見ながら、龍馬は震えるおりょうの肩を抱き寄せ、力強く抱きしめた・・・