亡霊ウィリー
「小春ちゃんのお母さんってさぁ、亡霊ウィリーなんじゃない?」
小学5年生の秋頃、学校で掃除の時間、同じバレエ教室に通う女の子がクラスメイト達に向かって突然そう言い出した。
学校では、目立たない存在でいつも1人でバレエの本を読んでいた私は、その時も1人教室の隅でゴミを袋に集めていた。
教室にいる女の子達が一斉に、その子に群がる。長い髪をツインテールにしている彼女は身長が低く、あっという間に姿が見えなくなった。
彼女が何を話しているのか大体、想像する事が出来た。
亡霊ウィリーとは、ジゼルに出てくる役名。
第一幕で、ジゼルがお互いに想いあっていた青年は実は、公爵令嬢の婚約者だった。
その事実を知ったジゼルは、ショックのあまり命を落としてしまう。
第二幕、ジゼルのお墓のある森には、ウィリーという精霊達が暗闇の中真っ白な衣装で踊っている。
ウィリーは、結婚前に命を落とした女の子達の亡霊なのだ。
そして、ウィリー達はその場に来た人間達を無理矢理踊らせ、死の世界に連れて行ってしまうのだ。
きっと彼女は、ジゼルの物語を大まかに説明した後、こう言うの・・・
「小春ちゃんのお母さんがウィリーになって、小春ちゃんのおばぁちゃんを死の世界に連れてったんだよ!」
そして、それを聞いていた誰かが言うの・・・
「ねぇ、小春ちゃんと仲良くしてたら私達も死んじゃうの?」って。
教室の真ん中に集まっていた女の子達が、一斉に私の方を向く。
私は、未だにその場面を覚えてる。
私に向けられた、たくさんの目を。
まるで、サバンナで群れていたハイエナ達に見つけられた餌のような気持ちだった。
その日から、私のあだ名は亡霊とか、ウィリーとか死神とかになった。
私は、反論しなかった。
だって、私も同じように思っていたから。
バレリーナになりたかったお母さんが、この世に
未練を残して死んでしまって、死後の世界に1人でいるのは寂しいから。
おばぁちゃんを連れて行ったのかな…
私とお父さんも、お母さんの元へ行くのだろう…
漠然と、そう思っていた。
学校でのイジメは、毎日心をえぐられ本当に辛かった。
だけど、私にはバレエがあった。踊っている間は、イジメの事もお母さんの事も忘れて、空っぽになれた。
お父さんが死んじゃうまでは・・・
お父さんが死んでから私は、私が
私こそが、ウィリーであり、本当に死神みたいなものなんじゃないか。って思うようになった。
お母さんは、私を身ごもってしまったから死んでしまった。
おばぁちゃんは、私を育てたから死んでしまった。
お父さんは、私にバレエを習わせたから死んでしまった。
皆、私のせいで・・・
だから、私に温かい気持ちを教えてくれた二人には、死んでほしくない。
ずっと、ずっと二人で笑顔でいてほしい。
小春は、大きな木の幹に包まれながら、そう強く願っていた。
「おーい!」「小春ー!」
龍馬とおりょうが、笑顔で手を振りながら小春の元へ歩いて来た。