幕末バレリーナ
鳥のさえずり、川の流れる音、森の葉が風で触れ合う音・・・
小春は、それらの音を聞きながら目を覚ました。
幕末の世界に来て、何日目の朝だろう・・・
私はすっかり、幕末でバレリーナになっていた。
踊りはまだまだ下手だし、音楽も無いけど・・・
龍馬さん達の前では、バレリーナになれた。
あの日、舞ちゃんから貰ったレオタードを着て、おりょうさんに見てもらうと凄く綺麗だと褒められた。
これなら、龍馬さんに見せてもOKらしく、庭で少し私の踊りを見てもらった。
それから、毎日お昼過ぎから龍馬さん達が縁側で見守る中、狭い庭を舞台に公演を行った。
お代は、甘いお菓子♪
そして、二人からの「可愛い♡」「凄いなぁ!」という言葉だった。
私は、人生で1番幸せだった。
たとえ、夢の中の世界だとしても。
たとえ、死後の世界だとしても。
自分の踊りを見て、笑顔になってもらえたのは龍馬さん達が初めてだったから。
お母さん、おばあちゃんにも見てほしかったなぁ。
お父さんにも・・・
結局、お父さんにも見てもらえなかった。
それでも、感謝してるんだ。お父さんにとっては、見るのも辛いバレエを、私に習わせてくれたんだから。
でも、龍馬さん達みたいな両親だったら私も・・・
小春はガバッと身体を起こし、頬を両手でパンパンっと叩いた。
ダメダメ!夢の中で、夢みたいな事考えるな!!
小春は目をぎゅっと瞑りながら、頭を左右に振った。
「小春ー、まぁた変な事してる~」
おりょうさんが、ニヤニヤしながら襖を少し開けて入って来た。
「もー!おりょうさん、びっくりしたじゃないですかぁ!」
小春が布団を、ポンポン叩きながら怒っていると、おりょうが優しく小春の髪の毛を撫でながら言った。
「小春、今日は山登りするからね?早く支度して、行くよ♪」
「や、や、山登りぃ?」
い、嫌な予感しかしないよぉ・・・
もー、あんなキツいのやだよーーーーーーっ!!