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居住地〜嫌よ嫌よ、それでもやっちゃう元社畜〜

報酬の申請の為ギルドに入ると、今日はナターシャがいた。

こっちを見てニヤニヤしてる、嫌な予感しかしない…

とはいえ、報酬の申請をしに来たわけだが、他の受付嬢はどうやら他の冒険者の相手に忙しそうだ。

受付嬢には固定のファンが居るようだ、随分と口説き文句が聞こえてくる。

人の恋路に口を挟む気はない、仕方なくナターシャに声をかける。

「報酬の申請を」

そういうとナターシャは、事務的に手続きを行う。

「昨日は随分と派手に狩ったみたいだな、今日はどうだったのやら、楽しみだ。」

「31匹、残弾が心許ないなかったんでね。今日はほとんどレナさんの戦果さ」

最後の一言は、恐らく彼女がレナに対して一番心配している事であろうと思い伝えた。

へぇー、という目で俺とレナを交互に眺めるナターシャ。正直いい気分ではない。

「2日目で大した進歩じゃないか、あんなにモンスターを怖がってたのに。今日のほとんどか…トシもどうやってレナにゴブリン退治をやらせたんだよ」

「そいつは企業秘密だ」

「そうかよ。でもよ、残弾が心許ないって買えたんだろ?弾。あの頑固爺が認めるってのはたいしたもんだよ、実際」

この言い方、俺が爺さんに認められるとは思ってなかった訳だな。冗談かなにかのつもりだったか。

「商売っ気がないから、在庫が無かったんだよ。あるだけ貰ってきたが無制限って訳にはいかないさ」

肩をすくめて答える。段々とふてぶてしいキャラになってきたが、もしかするとコレが俺の本来の姿なのかもしれない。

「じゃ、これ報酬な。ゴブリン昨日41匹分に今日の31匹。一匹当り銅貨1枚増しで計銀貨2枚、銅貨16枚。あーそれと、ゴブンリンの森に行ったんだよな、何か変わった事なかったか?」

登録の時から感じていたが、仕事モードの彼女はスムーズだ。恐らく最後の質問は何かしらの厄介事が起きている故のものと考えるのが無難だろうな。

厄介事はゴメンなんだが。

「弓兵型が森の外まで出てきてた。解毒剤無しじゃリスクが高いからな、それで早めに切り上げたってのもある」

隠しだてする理由はない。

素直に事情を説明すると、ナターシャの表情が曇る。

「まぁ、お前らなら言っても良いだろな。弓兵型は基本森の奥から砦までが活動範囲ってことになってるんだが、最近Dランクの奴らがゴブリンの砦にチョッカイを出してるらしいんだよ。それもギルドを挟まずにな、そのせいで俺らは管理責任問われるしよ。頼むからお前らは変な事に首突っ込むなよ」

「わかった、あと5日気をつけるよ。わざわざありがとう」

「初心者の支援は仕事のうちだ、気にすんな」

とはいえ、その顔は険しいままだった。


「ナターシャさん、なんか大変そうでしたね」

レナも何か思うところがあったようだ。

「そうは言っても、ギルドの受付嬢は基本的にBランクの冒険者だそうだ。僕達Eランクができる事は無いと思うよ」

正直ギルド相手に喧嘩を売るメリットは、一攫千金かどこぞへの士官くらいだ。一攫千金はともかく、ギルドを飛ばして士官するとなると、冒険者登録抹消されてそれまでの経歴がパーになる上に、ギルドと士官先の関係悪化…関係悪化、Dランク。

初日に調べた内容だが、このスタディオからさほど遠くない場所に隠遁者の居住地とされる場所がある。

もしその居住地絡みだとすれば、ナターシャがいやギルドが真剣になるのも理解できる。

なにせ、その居住地はギルドとの関わりを徹底的に避けている。

「ま、僕達が考えてもしょうがないですよ。明日も今日と同じの待ち合わせで良いですか?」

「わかりました、明日も頑張ります!」

今日の討伐で自信をつけてくれたのはいいが、倒したのはゴブリン。俺の知識では下級の下級、倒せて当然レベルの相手だけに過信はして欲しくないが。

水を差しても悪い、それは黙ってギルドの入り口で俺はレナと別れた。


別れてから報酬を分けるのを忘れたのを思い出したものの、レナの滞在先が分からない以上どうしょうもない。まずは明日の準備だ。

道具屋により、回復ポーションと解毒剤、あとは着替えを2セット程購入する。

回復魔法が希少なこの世界では、解毒剤よりポーションの方が圧倒的に高価だ。

下級ポーションで銅貨30枚は、正直冒険者からみても高いと思う。上乗せ抜きでゴブリン15匹分だぞ?解毒剤が銅貨2枚と比較すると尚更だ。とりあえず、4つずつ購入しておく。

レナのヒールがあるとはいえ、今日のように弓兵型に不意を打たれた際の保険は必要だ。

タバコとマッチも購入した。

無いことも想定していたがあって助かる、吸いなれた銘柄じゃないのが残念だが。

そんな事を思いながら居住地の資料を求めて図書館に向かう。


宿は明日の晩までの契約だったが、後5日はこの街でゴブンリン狩りをすることになった為、その分を追加して同じ部屋を押さえてもらう。重要なのは同じ部屋という点だ。

元の世界での経験上、一晩毎に部屋が変わるのは落ち着かず、それはしっかりとした休息が取れるかどうかにもかかわる。冒険者をやるのならば体が資本である、そこは出来る限り気を配りたい部分になる。

因みにその事をおかみさんにお願いし銅貨40枚を渡すと、

「先払いのお客さんって珍しいのよね〜。そういうお客さんならウチとしても有り難いわ。同じ部屋がいいって言うお客さんも珍しいけど」

「そうなんですか、まぁそういう性分なんで。もしかすると急に不泊になることがあるかもしれませんけど、その分返せとは言いませんから」

と伝えると、途端に愛想が良くなったのは実に分かりやすくていい。

とはいえ、ホテルのネット予約と同じで先払いが基本だと思っていたからな、その辺も含め色々と俺は欠けてるようだな。学ぶ、にしても今はクエストを抱えるしな…

部屋に戻り、シャワーを浴びてから買ったばかりの服に着替える。スーツ特有の堅苦しさから開放され休む体制に突入する…ベッドに横になり首をまわす。自然と部屋を見渡す形になり、ハンガーに掛けたスーツ1式を見てハッとする。

洗濯をどうするか、だ。全自動の洗濯機などこの世界には無い。となると手洗いか、面倒くさい。

それにワイシャツはともかく、ジャケットとスラックスはこの世界の物と明らかに作りが違う。

捨てるという選択肢もあるが、この世界の服装は道具屋で見た限り運動性重視…ポケットの数が少ないのは不便になりそうだ。

元の世界では、財布にスマホ、身分証と定期券は全部スーツに納めていた為、最悪身一つで出勤して差し支えない状態だった。俺としてはザックや鞄など持ち歩きたくない。

ま、この世界に移動した段階で全部抜かれてたけどな。

この世界に合わせるにしても、予備の弾を入れるポケットは最低でも欲しいところだ。

実際購入した服も上には胸ポケット、ズボンもポケットが3つ付いている物にしている。

連鎖的に今日使った弾を補充していなかった事を思い出し、ベッドから立ち上がる。

スーツの横に吊るしてあるホルスターから、左の銃を抜き、机の上に取り出しておいた予備弾をマガジンとチャンバーに装填する。

ついでに明日の道具を確認する。

まずは銀貨と銅貨に分けてある2つのズタ袋。銀貨は最初に入っていた分と今日の報酬を含めて21枚、銅貨は宿代アイテム代等で使った残りが8枚か。

討伐の証拠を入れるズタ袋が一つ。この辺は山賊から失敬した。

下級ポーションと解毒剤が各4つ。

武器のカトラスとダガー、生命線の銃2挺。

確認を終えると、ポーションと解毒剤を空のズタ袋を放り込む。

少し悩んでスラックスからベルトを抜き、それに3つのズタ袋を結びつける。

準備はこんなもんだろ。

スラックスから先程買った煙草を取り出し、火をつける。

何冊か借りてきたが、予想通りギルドと居住地は反目している。その上で戦力は未保持とされる、か。


頭を使いすぎた。時間も丁度いいので、夕食を食べに食堂に降りることにした。

すると何やら言い争う声が聞こえる。

「ウチにゃ冒険者は泊まってない!他を当たりな!」

声を荒げてるのはどうやらおかみのようだ。

「そう声を荒げんで、銅貨30で紹介してくれんかのぉ」

痩せこけた老人が気にせず言い返している。

「連れて帰れないとアタシもカシラに怒られるんですよぉ、頼んますよぉ」

なんとも嫌らしい喋り方だ、営業時代にあんなのが来たら確実にクレーム入れるな、確実に。

元の世界を思い出したせいで、食事が不味くなりそうだ。

おかみもその喋り方が気に触るらしく、

「とっとと失せな!出来たてのスープぶちかけられる前に!!」

なかなか過激なおかみ、あと十年若かったら惚れてまう。

じゃなかった、スープが無くなるのは困る!

なんの為に俺がこの宿に泊まってると思ってるんだ。

俺が出ていけば押し問答も終わるだろ。

「おっかみー、なんの騒ぎ?」

シレッと出てくると、おかみの顔は苦い顔になる。それは予想の内だ。とぼけながら、

「夕飯を貰えるかい」

と、おかみに声をかけると案の定老人が話しかけてきた。

「へへっ、おかみ居るじゃないですかー。旦那にいい話をもってきたんですよー、話だけでも聞いてくだせぇ」

完全に下っ端のチンピラだな…不快感を顔に出さず近づいてくる

「話を聞くのは良いが、俺はコレから飯を食う。邪魔をするな」

取り敢えず牽制する。止まらんだろうがな。

「そんな手間は取らせませんよ、すぐ終わりますんで…」

予想通り、気にせず話しかけてくる。

確かにコレは苛つくのわかるよ、おかみ。だから、そんな目で見ないで

おかみは険しい顔でコチラを見ているが、

「飯の前に仕事の話をする気はない、俺は一時間したら公園に出ていく。そこで話を聞いてやる、だから今は消えろ」

静かに、だが怒りを隠さずにジジイを牽制する。が、気にもとめずに口を開こうとする…勿論そんな事を許すつもりはない。

シュ!そんな音と共にジジイの額に銃口が突きつけられる。

「ひぃ」

これみよがしにカチっとセイフティを外す。

「一時間後に公園だ。言葉で二度、行動で一度の警告を無視して口を開くなら、この場で撃ち殺す。ギルドには強盗が来たとでも言うさ」

血の気の引くジジイ。タダでさえ青い顔が蒼白となる。

「わ、わかったよ、一時間後に、こ、公園だな」

泡を食って飛び出して行った。

おかみは俺が銃を抜いた辺りから調理場に入っているのを確認している。

「全く…人の話を聞けないくせに、自分の話は聞け。か、どこにでも居るんだなあんなタイプ」

独り言を呟くと、おかみが夕飯の乗ったプレートを持ってきた。

「年に何回か来るのさ、冒険者を紹介しろって。何回相手しても慣れないよ、ホントに」

「接客専門のおかみにそこまで言わせるとは…」

呆れ笑いが溢れる。

「アンタが降りた来たときはどうしようかと思ったんだがね。逆に追っ払ってくれて助かったよ、これは金払いの良いお節介な客への礼さね」

を、別料金メニューのワインが一杯注がれている。

「じゃ、ありがたく頂くよ。」

グイッと煽る。

「しかし、ホントに行くのかい?辞めた方がいいと思うけどねぇ」

「どうせロクな話じゃないのは分かってるよ、ただ今日は少し”運動不足”なんだ」

笑顔で答えると意図を察してくれたようだ。

美味い飯に、アルコール。至福…


まぁ、食事前に一悶着あったがそんな事は気にせず、時間まで今日あった事を反芻する。


まずは、レナ。可愛らしい女の子がメイスを振り回す姿は変な絵面だが、懸念していた攻撃面はゴブンリン狩りなら問題は無さそうだ。弓兵とホブゴブリン対策辺りを伝えればこの仕事は完遂出来るだろ。

とはいえ、過信にならないように俺の目が届く内に難敵に当たる必要がある。

問題があるとすれば、自称女神への対策だが思考が読まれる以上これは手詰りだ。

それでもセオリーから言えば、召喚者は何らかの見返りと共に厄介事を押し付けて来るだろう。

魔王討伐、は流石に無いだろうが。

幸い300年程前に伝説の勇者なる一行が魔王は討伐している。


次は、森の外まで出てきた弓兵型のゴブリンだ。脅威度はただのゴブリンより遥かに高いが解毒薬を持っていれば二人揃って死ぬことはない。気になるのは本来ゴブリンの森の奥にしか出現しないらしいが、俺達が襲われてのは森の外だということ。

イレギュラーの発生は恐らくナターシャが言っていた、Dランク冒険者たちの暴走が原因だろう。


居住地としか記されていない、その場所の輩が絡んで居るだろう。

借りてきた資料によると始まりの街と呼ばれるこのスタディオから近いにもかかわらず、冒険者ギルドを毛嫌いしている。ギルドを信用していないどころか、窓口の設営も頑なに拒んだそうだ。

因みにこの世界の2大都市、聖都と王都もギルドとは競合する所があるが窓口の設営を許可されている。

この居住地の質の悪い点は、聖都や王都の様に自前の戦力がなく、トラブルが発生すると非公式な依頼を冒険者に直接しているらしい点だろう。冒険者は基本自己責任とはいえ、ランクという形で立場をギルドが保証している面もある。都合のいい時だけ擦り寄ってきて、勝手に使われるのはギルドとしては確かに面白くないだろう。

おそらくそういう事情を知らない、低ランク冒険者を上手く利用しているのだろうな。

ただの直感に過ぎないが、さっきのジジイはこの居住地の人間だと俺は判断した。

だから、敢えて話を聞くとは言った訳だ。引き受けるとは言っていないしな、何か有意義な情報が得られれば、それをギルドに伝えて予防策を立ててくれるだろう。ギルドの印象は良くなるだろうし、ゴブリンは狩りやすくなるしいい事づくめだ。


おかみ:宿屋の女将。恰幅のいいおばちゃん。因みに宿の名前は"飯あります"


爺:痩せこけた喋り方のいやらしい爺。居住地の人間?

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