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備えあれば憂いなし〜スキル発動〜

レナと別れ、一人武具屋に足を運んだ。

「へい、らっしゃ…お?おまえさんか。今日はどうした?」

店員のリアクションを見る限り俺が来るのは、ギルドから知らされていたようだ。それでも建前上理由は聞かないといけない、か。律儀な事で。

今朝方ナターシャに書いてもらった紹介状を見せる。

店員はそれを確認すると、自分の後ろの壁を少し押した。回転式の隠し扉か。

「あぁ、先に言っとくぞ。大概何処の街も銃を売る奴はプライドが高いもんだが、家のはその中でも飛び切り頑固だ。売られなくても文句は言うなよ」

その言葉に頷くと店員は回転扉を回した。扉からすぐ階段になっており無言で俺は階段を降りる。階段を降りると分厚い金属の扉が真正面に現れる。

あの店員の態度から察するに、今迄紹介された連中はほぼ全滅だろう。

ふぅ…とため息をついて扉をノックする。

「開いてるぞ」

と返事が帰ってきた。

とりあえず中には入れてもらえるようだ。

気負うことはないと自分に言い聞かせて、

「失礼する」

と中に入った。

中は上の武具屋の倍はあるかという広さの部屋だった、特に奥行きが広いというか長い。

射撃場か?

「お前さんが、新しい銃師か…」

部屋に気を取られて気づくのが遅れた、既に眼光鋭い老人が俺を値踏みするかのように睨みつけている。

「散々聞いてるだろうが、ワシは自分が認めた相手にしか売らん」

売る気はサラサラないという態度だ、ふと会社員の癖で下手に出そうになったが、

「どーすればアンタに認めてもらえる?」

なんとか一触即発の雰囲気まで持っていく、ピリピリという空気だ。心臓に悪い。

「大半の連中は試す価値すらない…が、お前さんは試してみる程度の雰囲気は纏っておるようじゃの」

「そうか、で?俺は何をすればいい。」

「威勢がいいのー、そうじゃな。そこに銃が3挺あるだろ。好きなのを選んでそこのラインから150m先の的、その的の急所に全弾当ててみせろ」

普通に考えれば無理だ。確かに弾は小口径の拳銃弾でもキロ単位で飛ぶが、あくまで飛ぶだけ。湿度や風などの環境要因でその距離は前後する。狙ってドンの射程は拳銃なら腕の良い奴向けに設定しても3〜40m。

図書館で調べた通りなら、銃師のスキルを使えばその分距離は伸びる。しかし、スキルを使ったとして元々の銃が想定している距離の2倍先、俺のスキルレベルは不明だが山賊の始末、ゴブリン退治での感覚は的にそれなりにスキルレベルは高いはず。3倍狙えれば御の字か…

そうなると余程いい品でないと150mは不可能といえる。しかし、手持ちの弾が無い以上、補給線は確保しなくてはならない。

こういう駆け引きは嫌いなんだがな、仕方がない

「撃つ前に銃を握る位はさせてもらえるのか?」

尋ねた俺には、一瞬老人の目が光ったように見えた。

「好きにやってみろ」

と返されたので、遠慮なく銃を手に持つ。コチラも銃の目利きには自信がある…スキルのお陰だが。

まず1挺目、一番大振りの6インチを手に取る。バレルの長さはあり、聞きかじりの知識だけの素人ならコレを選ぶだろうが、残念ながら造りが粗い、狙えて80m。スキルを使っての飛距離としては全く話にならない。

2挺目2.5インチを握る。1挺目より丁寧な作りなのが分かる、明らかに先程の6インチより良くできている。使い手の腕もそれなりに要求するな、残念ながらコレもスキル全開でギリギリ120m。選択肢としては、多分コレが正解だろと考えるが、念の為。

3挺目に手をかける。先程同様の2.5インチ2挺目と同じく丁寧な作りだが、やや重量バランスが悪い。というよりおそらく初心者向けだ。コチラも全開で100mが精々。銃を置く。

とてもじゃないが3挺とも150m先の的を狙える代物ではない。

「どれを使う?」

銃を見定めた俺に老人が尋ねる。

俺は静かに首を横に振った。

「どれも150m先の的には届かない、仮に届いたとしても急所は外れる。邪魔したな」

諦めたフリをして俺は扉に向かう。

「そう焦るな。お前さんの言うとおり、その3挺どれも150m先は狙えんよ。」

予測通り、引き止められる。

賭けの第一段階はクリアしたようだ。

最初に試してやる、とは言ったがおそらく紹介者全員にやらせてるのだろう。そして、的に当たらず不合格としてきた、という読みはあながち間違いでは無さそうだ。

老人は続ける、

「一つ問う、その3つの内最長何mまでなら急所に全弾当てられる?」

「真ん中の銃で120m」

「そうか。ならやってみせろ、そしたら欲しいものを売ろう」

怪訝そうな顔を老人がする、恐らく 120mという俺の言葉を信用していないのだろう。

さてらここまでは読み通り。賭けの本番はココから。さぁどうなるこの一手。

的を150mから120mの位置に張り替える。

老人はその間に取り出したであろうイヤーマフを差し出すが、だからなんで剣と魔法の世界にあるんだよ。受け取り耳を塞ぐ。

リボルバーはダブルアクションで撃つと銃がブレるらしい、ココに飛ばされる前の聞きかじりだがリスク回避として、全弾シングルアクションで撃つと決める。

後は、自身の集中力を極限まで高める。

的と銃の間に一筋のラインが薄く見える。

スキルは無事に発動したようだ、とはいえ初めて意図的に発動させ、その上限界領域でのスキルの使用。

問題は6発撃つ間この集中力が続くかどうか…

慎重に引き金を引く。

カチ、ぱん…カチ。ぱん…カチ。ぱん…カチ、弾は吸い込まれるようにラインに沿って人型の的、その頭部に飛んでいく。3発、あと3発と粘るが頭がキリキリ締め付けられるような痛みを覚える。

それでもまだラインは見えている。

ぱん…カチ。ぱん…カチ。

不意に可視化されたラインが更に薄くなる。恐らくスキルの限界、言い換えれば集中力の限界に来ているようだ。

あと1発…というところで限界か。

いやダメだ、不意にこの世界に来る前の事が頭を過る、嫌な事辛い事から逃げていた臆病者の記憶が。

薄くなったラインが、更に薄く、ともすれば消えてしまうギリギリ。なんとか深く深呼吸をする。

今まではそんな無理は全力で避けてきた、けど今はこの試練を避けるわけにはいかない。銃がなければあの子を助けられない…

「また明日」

その言葉を思い出し、もう一度深呼吸をする。ラインはまだ見えている、なら…

ぱん。6発目を撃つと同時に集中力が完全に途切れ、全身の力が抜けるのが分かる。

ふらつく俺は隣で見ていた老人に支えられて立っているのがやっとだ…

「お前さん、馬鹿か!この銃は作ったのはワシじゃ、そのワシでさえ銃師が使っても90m先まで当てられれば御の字のだと考えてる物で何つー無茶をしとるんじゃ」

どうやら、俺のした無茶に怒っているようだった。

スキルには2種類あるという、一つは使用者の限界に達すると完全に使えなくなるある種のセイフティが掛かったもの。例えば魔法は魔力切れになれば呪文を詠唱しても発動しない。

もう一つは使用者の限界を向かえても使用可能なモノ…使用の代償は生命力。

どうやら銃師のスキルは後者なようだ。

「馬鹿はアンタだよ、その馬鹿に見せたくなったんだ。アンタの作った銃はちゃんと使ってやればこのくらい出来るってな。」

驚きの顔を浮かべる老人。支えを振りほどいて自分の足で立つ。

なんて言えたのは、最後の1発の直前に、この老人が楽しそうに銃を作っているイメージが脳に流れ込んできたからだ。

「それに勉強になったよ、今の俺じゃ5発までしか銃の全力を使ってやれないってな」

あ、やっぱ立ってらんねー…まぁ、座るくらいなら大丈夫だろ。そのまま尻を床につける。

「一つ聞かせろや、爺さん。なんで銃を作るのをやめたんだ」

素直な疑問を老人にぶつける。

「そこまで気づくか…簡単じゃ。自分の限界を勝手に決めて、勝手に降りた。それだけじゃ…」

この世界に来る前の俺みたいなもんか。いや、誰だっていつかは自分の限界を察するか。

「ま、そこはあんたの自由だ。俺がどうこう言うこっちゃねえな、忘れてくれ。」

「なんにせよワシの負けじゃ、これ以上ない完敗じゃな。まっとれ、お主の欲しいもん準備してくらぁ…その前にワシからも質問じゃ。なんでそこまでムキになった。命のリスクを負ってまで。正直100mでもワシは認めたぞ」

単に銃師のスキル特性を知らなかっただけなのだが、

「そうかもな。ただ臭い事を言えば、あの銃が俺に訴えてきたんだよ。本当の力をアンタに見せたいってな。あの銃アンタの最後の子か?」

実際楽しげに銃を作るイメージと裏腹に感じたのは悲しさだった。

木の棚から45口径の弾を取っているのだろう、どんな感情なのか背中からは伺うことは出来ない。

「聖銃師の生まれ変わりか、貴様。大方正解じゃ。そいつはワシが本気作った最後の銃よ。

ほれ、お前さんお望みの45口径だ。最近眼鏡に適う客が無かったからな。3箱60発で勘弁してくれ」

ふぅと一息ついて体の状態を確認する。

もう大丈夫そうだ、立ち上がりモノを確認する。そう、45口径。俺が1番信用する弾がそこにあった。

「で、幾らだ。」

「今日は要らん、曲芸に免じてな。コレからも買いに来るんじゃろ。3日以内には仕入れておく、その分から1箱銅貨30枚、それで勘弁してやる。」

老人は何かが吹っ切れたような、そんな風に感じた。

爺さん:ガンメイカー(銃の製造者)、本名不詳の老人。

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