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第1話 正しさ

アニメや漫画でよくこんな場面を目にする。


「ここは親切に席を譲ってあげるべきよ!

あのおじいちゃんも座りたいと思っているはず!」


「いーや、そんなことはない。ここは座っておくべきだ

そもそも次の駅で降りるかもしれないし、話しかけたところで『年寄り扱いするな』と怒られるかもしれないぞ?」


主人公は両肩にいる白くて健美な天使と黒く気高い悪魔が互いの持論をぶつけ合っているところをやれやれといった様子で見つめている。


この手の下りは基本的には天使の意見が採用される。


おじいちゃんに席を譲り、感謝されて平和に終わる。


しかし私は思う。果たして本当に現実はそうだろうか。

こんな場面は日常を生きていてそれなりの頻度で遭遇する。


もちろんどちらが正解でどちらが間違っているという話ではない。


それなのに何故か悪魔の意見を尊重するような演出を見たことがない。


これは世の中という生きずらい空間が、親切心=美徳

という方程式を作ってしまっているからだ。


「はぁ、恋愛ドラマやアニメってどれもかわり映えがなくてつまらないよ。」


私は憂鬱になりながら、テレビの電源を切り、リモコンを投げ捨てた。


夕日のまばゆい光がカーテンをすり抜け、部屋を淡い色で満たす。


ベッドに横になり制服を着たままであることを思い出す。


まだ真新しいブレザーとスカートを壁にかけシャツを脱ぎ捨てる、スカートのポケットから家の鍵と「松本 沙耶」と書かれた名札を机の上に置く。


だらだらと部屋着に着替えた私はふわふわと浮かぶ2匹の妖精に語りかける。



「ねぇ、ルル、シャーナ、今のどう思う?」


ルルとシャーナは私と一緒に暮らしている天使と悪魔だ。


聞く話によると、この子達は何か罪を犯して天国と地獄から追放されて人間界に落とされたらしい。


どんなことをしたか聞いてみたことはあるが、それはあの世の事情があるらしく教えてくれないらしい。


天使と悪魔自体非現実的なものなのだから今更動揺したりはしないが(現にこの子達は私にしか見えていないらしいし)あの世にもルールや上下関係があることには少々驚いた。


そこで居場所を無くしたルルとシャーナは、私の部屋のベランダで寝ていたところを私が保護したのだ。


天使と悪魔に「保護」などと上から目線もいい所なのだが当の本人(と言っても人ではないが)達もそこまで気にしてもいないみたいだし寝泊まりする場所を見つけ都合が良いのだろう。


私は日々生きることにうんざりしていた。


そう聞くと、何か問題を抱えているような言い草ではあるが客観的に見てそうではない。むしろ恵まれている方であるとさえ思う。


平凡な日常、繰り返される日々、退屈な毎日に私は嫌気が差していた。


家族も友達もちゃんといるし、自分の欲しいものは基本的には買ってもらえるし、お小遣いで事足りるのでバイトもしていない。


周りと比べて不自由なところを探す方が難しいぐらいだ。


不満というものがあるとするなら一人っ子なことぐらいだ。


両親は共働きであまり家におらず、孤独な時間が多かった。


そんな中、ルルとシャーナは私の話し相手になってくれた。


天使と悪魔と言うのだから人間には想像もつかないようなぶっ飛んだ思考力と考え方を持っているのかと思っていたが意外とそうでもなかった。


ルルは天使なのに黒い。


どんな風に黒いかと言うと、背中に生える小さな翼や生えている毛が真っ黒なのだ。


ルルが言うには

「私がなぜ黒いのかって?

じゃあ逆に沙耶はなんで私が白いと思ってたの?

天使なんて見たことないくせに人間たちが勝手なイメージで私たちを白いものだと思ってただけでしょ?

天使っていうものは黒いものなのよ。」


と、なかなか天使らしくない棘のある答えが返ってきた。


言われてみれば確かにそうである。


天使が白いというイメージはいつからあるのだろう?


存在するかも分からない、言わば空想上のモノたちに色をつけたのは一体誰なのだろう。


でもどうやら天使のイメージは間違っていたらしい。


ドンマイ、天使を白に塗ったどこかのお偉いさん。


逆にシャーナは悪魔と言うのに白い。


シャーナは

「んー?なんで白いのかー?

そんなこと考えたこともなかったなー。

でも沙耶も自分の体の色が肌色なことに疑問を持ったことあるー?

それと同じだよー。」


なんともまぁ面白い悪魔だ。


私が見てきたアニメや映画に肌の色が緑だったり、青だったりした人物が出てきたことがある。


それを疑問には思わなかったが、よくよく考えてみれば人間は肌色なのが普通であるという固定概念が世の中に染み付いている。


別に他の色になる可能性はいくらでもあったと思うし、肌色でないといけない理由もないはずなのに。


かと言って紫とかになるのはなんとなく嫌だけど。


まぁそんな感じでルルとシャーナは私と一緒にのんびりと暮らしている。




私がさっき流れていたドラマのひとくだりの感想を聞くと最初にルルが答えた。


「悪魔の言ってることがご最もだと思うけどな。

電車で歳をとった人間に席を譲るのはマナーであって

ルールでは無いわけでしょ?自分が損するリスクの方が高いのにわざわざ見返りもないことすることないでしょ。」


冷静に感想を言うルルが口を閉じるとシャーナが答える。


「私は天使の言うことも分かるけどなー。

結局のところ親切心っていうのは誰かが持たないと世の中は回っていかないし、他人への気遣いはいつか自分に帰ってくるとも言うらしいし?感謝されて嫌な気持ちになるやつなんていないし、あしらわれて嫌な気持ちになる人は他人を気遣った自分が好きな自己満足野郎なんじゃねー。」


相も変わらず鋭いことを言う。


確かにどちらも正しい気がするし間違っている気もしない。


でも、正解のない問題に正解はないけど、それが問題としてある以上、明確な答えというものが存在しているような気もする。


正解がなくても考えることは私達にはできる。


何が正しくて、何が間違ってるのか。


この子達と一緒なら、退屈した日々に価値を見いだせる、そんな気がした。


「ふーん、まぁ私はどっちでもいいけど。」


「「なんだそれ!」」


私の視界で文句を言うルルとシャーナから視線を外し、

もうすっかり光が無くなった部屋を後にした。







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