009.手を振る女
「手、振ってんな、あの女の人。」
「あ?よく見えるな。」
二人の会話でふと前を見ると、そこには手を振る女性がいた。
「振っとこうぜ」
悪ノリをいつもする吉田は、その女性に手を振った。なぜか、俺も振っていた。
「お、おい、やめろよ。」
そう言って手も振らずに俺たちの背中を引っ張って誘導する。
「なんだよたけちゃん、つれねーな。」
そんな会話をした次の日だった。
ピリリリと鳴るスマホをとり、吉田からの電話に応える。財布かなんか落としたか?
「あのな、落ち着いて聞けよ、たけちゃんが昨日死んだそうだ。」
009.手を振る女
は?
「冗談じゃねぇからな。」
でもなんで?別れた後になんかあったのか?
「お、おい、聞けよ。」
「なんだよ」
「なんかな、女がなこっち向いてな手、振ってんだけど。」
「お前昨日振り返した人なんじゃないのか?」
「そんな人いたっけな?」
さすがに酔いすぎだと思った。
「じゃあまた、葬式の日、また教えるから。」
たけちゃんなんかあったのかな。
今日は休日でやることないなー。適当にSNS見てるか。
ん?
[速報] 男性が謎の死を迎える。
なんだこれ、っていうか!これ、吉田じゃねーか!
「意味わかんねぇ」
そう言ってスマホを壁に投げつけた。
むしゃくしゃした今の気持ち。気分転換に空気の入れ替えをしよう。
窓に手をかける。2回の窓から見えたのは、いつもの風景と、歩く人々、そして
手を振る女。