水族館
待ちに待った水族館デート。今日はいつものネックレスとイヤリングと練り香水の他に、リップもつけて、かなり背伸びをしてみた。
どうかな。ちょっと、リップピンクすぎたかな。変じゃないかな。そんなことを考えながら、お兄ちゃんの元に行くと、お兄ちゃんはリップに気づいてくれて、可愛いね、と言ってくれた。
どうしよう、すごく嬉しい。たぶん今なら一センチくらいなら、浮かれて浮きそう。
お兄ちゃんと手を繋ごうとして、お兄ちゃんが神妙な顔をした。
「ごめん、朱里」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
もしかして、私、手あせが凄かったかな。それで、手を繋ぐのが嫌だとか?
「僕は、去年、朱里にひとつ嘘をついた」
「えっ、そうなの?」
何の嘘だろう。お兄ちゃんに嘘をつかれた記憶がないんだけどなぁ。頭のなかで去年の記憶をざっとさらうけれど、わからなかった。首をかしげた、私に、お兄ちゃんは言った。
「去年も水族館に行ったの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。冴木先輩がチケットが二枚余ったからって、くれたんだよね」
「それが、嘘。あのチケット、僕が買ったんだ」
えぇっ! でも、そういえば、冴木先輩にチケットのお礼を言ったとき、微妙な顔をされた気がする。
「でも、なんでそんな嘘を?」
「あの頃、朱里は僕のこと避けてたでしょう。だから、素直に僕が誘ったんじゃ、朱里は来てくれないかと思って」
確かに。あのころは、優くんを卒業しなきゃってことばかり考えていたから、お兄ちゃんに誘われても断っていたかもしれない。
「嘘ついてごめん」
「いいよ、もう過ぎたことだし」
それに、その嘘で誰も傷ついてないし。お兄ちゃんが気に病むような、ことじゃない。そういうと、お兄ちゃんは、ほっとした顔をした。
「ありがとう、朱里」
気を取り直して、今度こそ、お兄ちゃんと手を繋ぎ、いざ、水族館に出発だ。
「うわぁ、綺麗だね」
水族館では、様々な魚たちが優雅に水槽の中を泳いでいる。黄色ピンク青紫……様々な色の魚がとってもカラフルだ。
「うん」
「あっ、でも、お兄ちゃんも大好きなイルカのショーは、今日はお休みみたいだね。残念」
「イルカは、可愛いとは思うけど、朱里みたいに特別好きって訳じゃないよ」
「え?」
あれ、お兄ちゃんも、イルカのショー好きだと思ってたんだけど、違ったのかな。
「えっでも、去年、イルカのショーをみたとき、お兄ちゃんすっごく優しい顔をしてたよ?」
そんなお兄ちゃんの顔に見とれてたのは秘密だけど。水族館を見て回りながら、私が首をかしげると、お兄ちゃんは、笑った。
「……ああ。あれは、はしゃぐ朱里を見てたんだよ」
「え」
そうだったの。ぜんぜん気づかなかった。私本当に何も見えてなかったんだな。鈍感な自分にがっかりする。
「それは、朱里には、僕の想いにもっと気づいてほしいって思うこともあるけど。でも、朱里は十分すぎるくらい僕のことを見てくれてるよ」
「本当?」
私、ちゃんとお兄ちゃんの本当の姿、見ることができてるのかな。
「うん、本当。もう、朱里に嘘はつかないよ」
それなら良かった。
「あっ、お兄ちゃん、カバの赤ちゃんこっちだって」
「わかったよ」
カバの赤ちゃんはとってもかわいかったし、泳いでいる魚やイルカたちを見ながらフードコートで食べるご飯もとっても美味しかった。
彩月ちゃんや、お父さん、お義母さんにお土産をかって帰ろうとよった、ショップでとても可愛いストラップを見つけた。ペアのストラップだ。
彩月ちゃんは、彼氏の小塚くんとペアリングしてるって聞いてから、私もお兄ちゃんとおそろいの何かが欲しかったんだよね。でも、お兄ちゃん、こういうの、嫌かな。
うーん、とストラップの前で唸っているとお兄ちゃんが顔を近づけた。
「どうしたの、朱里」
「うわあぁ!」
びっくりした。思わず大きな声を出してしまい、周囲の注目を浴びてしまう。会釈をして、うるさくしてしまったことをお詫びして。
「ええっとね、お兄ちゃん」
いってみるだけならタダだよね。
「これ、お揃いでつけたいなって、思って。でも、お兄ちゃんはこういうの──」
「いいよ」
「そうだよね、恥ずかしい……え?」
意外な言葉に耳を疑っている間に、さっさとお会計をすませて、お兄ちゃんは、はい、とペアストラップの片方を私に渡した。
「ありがとう、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、いやがるかと思ってた。こういうの、重いかなって」
「朱里のことを重いだなんて思わないよ。むしろ、もっと、束縛してほしいくらい」
そうなの? 意外だ。
「朱里になら、束縛したいし、束縛されたい」
何だかお兄ちゃんの言葉は、危険な香りが……、気のせいかな。気のせいだよね!
でも、お兄ちゃんとおそろいのストラップ、嬉しいな。私がスマホカバーにつけると、お兄ちゃんもスマホカバーにつけてくれた。つけてる場所までおそろいだ。
「嬉しい、ありがとう」
帰り道、スマホカバーのストラップをながめながらにやにやしながら歩いていると、ふいにお兄ちゃんが立ち止まった。
「お兄ちゃん?」
私もつられて立ち止まる。すると、お兄ちゃんの顔がゆっくりと近づき──。
私の顔が真っ赤になる。お兄ちゃんの顔も真っ赤だった。口にするのは、初めてだ。
「朱里が可愛くてつい」
そういって、お兄ちゃんは視線をそらした。
初めてのキスは、レモンの味はしなかったけれど、とても気恥ずかしい味がした。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!
もしよろしければ、ブックマークや☆評価をいただけますと、今後の励みになります!!




