とある一日2
「おはよう、朱里」
「おはよう、彩月ちゃん」
教室に入ると、彩月ちゃんがひらひらと手を振っていた。私も、彩月ちゃんに手を振り返すと、彩月ちゃんは笑った。
「今日も、先輩とラブラブだったね」
彩月ちゃんが窓を指差す。どうやら、見られていたみたいだ。
「……うん、まぁ」
ほんとは、学校まで手を繋ぐのは、嬉しいけれど恥ずかしくもあり。でも、結局繋いでしまうのは、お兄ちゃんのことが大好きなのと、愛梨ちゃんに負けたくない思いもあった。愛梨ちゃんはやっぱり、ヒロインらしく、私たちが付き合い始めても、さっきのよように諦めない、と宣言されたのだ。
正直いって、愛梨ちゃんはとても可愛いので、モテる。唯一の欠点としたら、少々ドジなところだけれど、男子から言わせれば、そんなところも可愛いらしい。物語は、二人が結ばれればハッピーエンドで終わるけれども、私の人生はお兄ちゃんと付き合いだしてからも続いていく。
もちろん、もう愛梨ちゃんがヒロインだからと言って、お兄ちゃんを諦めることはしない。だけど、私が、焦っていることは、事実だった。
「……朱里?」
下を向いた私に、心配そうに彩月ちゃんが声をかける。
「う、ううん! なんでもないよ」
「そう? そういえば、もうすぐ、ホワイトデーだね」
笑った彩月ちゃんの言葉にはっとする。ホワイトデー。バレンタインデーがあったんだから、いつかはやってくるよね。最近の生徒会は、予算を組むのに忙しいからすっかり忘れていた。
「ホワイトデーは、三倍返しっていうし、小鳥遊先輩はすごいことしてくれそう」
「どうだろう? いつもは、飴だけど」
ここ数年私が何をあげても、お兄ちゃんは毎年瓶詰めの飴をくれるんだよね。なんで、飴なのかわからなかったけど。毎年貰った飴の瓶はとってある。私がそういうと、彩月ちゃんがにやにやとした。
「前から思ってたんだけど、それって──」
「?」
彩月ちゃんの言葉の続きを聞こうとしたけれど、そこで、担任の先生が入ってきたので、話は打ちきりとなった。
放課後。今日のぶんの生徒会の仕事は終わったので、お兄ちゃんと一緒に帰る。やはり……というか、もちろん、手は繋いでいる。やっぱり、ちょっと嬉しいけど、恥ずかしい。そんなことを考えていると、ふと、お兄ちゃんが、立ち止まった。
「そういえば、朱里は、ホワイトデー空いてる?」
「う、うん! 空いてるよ!!」
思わず、大きな声を出してしまった。そんな私にお兄ちゃんはくすくすと笑った。今年のホワイトデーは、お休みだ。
「じゃあ、どこか出掛けようか」
「やったー!」
お兄ちゃんは、受験勉強で忙しく外でデートは最近はあまりない。だから、嬉しいな。
「どこがいい?」
「えーっとね、うーん」
どこがいいだろう? 水族館もいいし、また映画館もいいよね。
「あっ、ええと、それじゃあ遊園地がいい」
「じゃあ、遊園地にしようか」
「うん!」
ホワイトデーが楽しみだ。その前に、期末テストがあるけど。期末テストも頑張って、お兄ちゃんと楽しいホワイトデーを過ごすぞ。




