夏祭り
ついに、お祭りの日がやってきた。亮くんとは、神社の前で待ち合わせだ。
「ごめんね、亮くん。遅くなっちゃった」
慌てて走りながら、亮くんに謝ると、慣れない下駄をはいたせいか、転びかけた。そんな私を優しく抱き止めて、亮くんは笑った。
「全然待ってないよ。その浴衣、似合ってるね」
「ありがとう!」
遅れた原因は浴衣にあった。帯を結ぶのに、時間がかかってしまったからだ。それでも、亮くんはそんな私を責めることなく、代わりに、浴衣を褒めてくれた。その優しさが、嬉しかった。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
お祭りは、この辺りで行われるものでは大きな規模であることもあってか、たくさんの人でごった返していた。
「わっ」
人波に押されて、亮くんとはぐれそうになって、亮くんの服の袖を慌ててつかんだ。
「ごめん、服伸びちゃったかも」
謝った私に、亮くんは笑った。
「大丈夫だよ。今日は一日こんな感じだろうし、はぐれるほうがもっと心配だからつかんでで」
「ありがとう」
お言葉に甘えさせてもらい、亮くんの服をつかませてもらう。
「あっ、亮くん」
「どうしたの?」
「あれ、やってもいい?」
カラフルなヨーヨーを指差す。子供っぽいかもしれないけど、ヨーヨー好きなんだよね。
「もちろん」
百円で一つのこよりをもらい、ヨーヨー釣りに挑戦する。私が狙ったのは、黄色に様々な線が入ったヨーヨーだ。けれど、こよりはヨーヨーが釣り上がる前に切れてしまった。
「もう一回お願いします!」
もう百円渡して、こよりをもらう。狙うのは、さっきと同じヨーヨーだ。けれど、また、だめだった。もう百円渡して、同じヨーヨーを狙う。けれどまた、途中で切れてしまった。残念だ。
肩を落としていると、お店の人に一つだけ好きなヨーヨーを貰っていいと言われたので、ずっと狙っていた黄色のヨーヨーを貰う。
貰ったヨーヨーを見つめていると、亮くんがふいに吹き出した。
「亮くん?」
「ごめん。あんまりにも、朱里ちゃんが不服そうな顔でヨーヨーを見てたから」
そんなに悔しさがにじみ出てしまっていただろうか。慌てて、顔に手をあてると亮くんがさらに吹き出した。
「もう、亮くん」
「ごめん、ごめんって。朱里ちゃんは、お腹空いてない? 俺、何か小腹に入れたいな」
「私もお腹すいたよ」
というわけで。それからは、暫く、唐揚げや、フランクフルト、ポテトや、焼きそばなど、様々なジャンクフードのお店を回り、完食した。
「あっ、射的やってもいい?」
ご飯を食べ終わったあと、二人でぶらぶらと、出店を見て回っていると、亮くんが立ち止まった。
「もちろん」
亮くんの射的の腕前はとてもすごかった。次々とお菓子などを打ち落としていき、そしてなんと、クマのぬいぐるみまで、落としてしまった。
「はい、これ」
亮くんが、クマのぬいぐるみを私に差し出す。
「さっき、ずっと見てたから欲しいのかと思って」
「! ありがとう!」
亮くんのいった通り、そのクマは私が可愛いなぁと思って、見つめていたクマだった。もしかして、私の為に、射的をしてくれたんだろうか。なんて、自意識過剰かな。
その後も二人で様々な出店を回っていると、アナウンスが入った。
『まもなく花火大会が開催します』
そう、このお祭りでは、花火大会もあるのだ。むしろ、それをお目当てに来ている人も多いかもしれない。
「花火が、見られるところに行こうか」
「うん!」
移動すると、早速花火が打ち上げる。とても、綺麗だ。約八百発の花火が打ち上げられ、その中には、ハート型のものや、人気のキャラクターをモチーフにしたもの。今年流行った音楽と合わせた花火など、様々な花火が上がった。
「綺麗だね」
花火に照らされた亮くんの横顔は、どこか、寂しげに見えた。
「……うん」
花火も終わり、出ていた出店も片付けをしだした。
「送っていくよ」
「ありがとう」
二人で他愛ない話をしながら、帰り道を歩く。私の下駄の音が、からころとやけに響いた。
私の家まであと数十メートルのところで、亮くんは立ち止まった。
「……返事を、聞かせてくれるかな」
ついに、この時がやってきてしまった。
「……うん」
深く息を吸い込む。
「ごめん、私、好きな人がいるんだ」
「……そっか。その人は、諦めたつもりだった、って言ってた人?」
「うん」
誠実な亮くんに誤魔化したり、嘘をついたりはしたくはなかった。私が頷くと、亮くんはまた、そっか、といった。
「これは、俺の勝手なお願いなんだけど、」
亮くんと目が合う。
「一度諦めかけたってことは、何か事情があるんだろうけど。でも、諦めないでよ、朱里ちゃん」
「え──」
亮くんの意外な言葉に驚く。
「それで、俺の付け入る隙がないんだっていうくらい、その人と幸せになって」
「……亮くん」
お兄ちゃんは、この世界のヒーローで、結ばれるべきは、ヒロインの愛梨ちゃんで。優しいお兄ちゃんの邪魔はしたくなくて。でも。
それでも。
「幸せ、になれるかはわからないけれど。諦めない。私、頑張る」
私がそう強く言い切ると、亮くんは嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
「あのね、亮くん、いっぱい優しくしてくれて、ありがとう。私、すごく嬉しかったし、幸せだった」
「俺も朱里ちゃんと付き合えて幸せだったよ、ありがとう」
自分勝手な私は、そのどこまでも優しい言葉に泣きそうになる。それを何とか押さえて、その代わりに、笑った。
「ばいばい」
「うん、また学校でね」
──そうして私たちは、ただの友達に戻ったのだった。




