ポンコツ
そのまま、亮くんは家まで送ってくれた。
「亮くん、送ってくれてありがとう」
「ううん。それよりも、結構濡れてたから風邪を引かないようにね」
優しく笑ってくれた亮くんに手を振り、家の中に入る。
「ただい、はっくしょん!」
自分で思ったよりも大きなくしゃみが出て驚く。それと同時に思い出したように、悪寒がした。うー、これは、早くお風呂に入った方がいいかもしれない。
「朱里!? びしょ濡れだね。どうしたの」
くしゃみの音で私に気づいたお兄ちゃんが、リビングから玄関に顔を覗かせた後、慌ててタオルを持ってきてくれた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
このまま家の中に入ると、濡らしてしまいそうだったので、助かった。
「とりあえず、お風呂、わかしてくるね」
「ありがとう」
何から何まで申し訳ない。お風呂がわいている間に、ふかふかなタオルで体をふく。うん、こんなものかな。
「言ってくれれば、傘をもって迎えにいったのに」
「ありがとう。でも、途中から傘の中に入れてもらったから」
だから、もっと濡れずにすんだ。亮くんには、感謝しかない。
と、そんな話をしている間にお風呂が沸いたので、有り難く入らせてもらう。温かいお湯は、私の身体をほぐした。
今日は色んなことがあったなぁ。
でもやっぱり、お兄ちゃんと愛梨ちゃんが付き合いだしたこと、が一番の驚きだった。お兄ちゃんのことが好きだと気づいたけれど、私、ちゃんと義妹になれるかな。ううん、ならなきゃ。もう、お兄ちゃんは、愛梨ちゃんのモノなんだから。お風呂から上がったら、お兄ちゃんにおめでとう、って言おう。
そういえば、お兄ちゃんの好きな人って誰だったんだろう。
まあ、誰でももうお兄ちゃんは愛梨ちゃんのことが好きになったんだろうし、関係ないよね。
■ □ ■
「なに、やっぱり別れたい!?」
俺は、また、紙パックのコーヒー牛乳で、盛大にむせた。
「……朱里に笑って、おめでとう、って言われた」
優の顔色は真っ青だ。これ、がちへこみのやつだな。
「それはまぁ、朱里ちゃんの性格なら嫉妬よりもそうなるのは、目に見えてた、というか! それに、朱里ちゃんに嫉妬してもらいたいがために付き合うなんて、中原さんにも失礼だろ」
「それが、彼女、全部わかった上で付き合いたいって言ってきたんだよ」
「どういうこと?」
優の話を聞くと、どうやら中原さんは、優が朱里ちゃんのことを好きだとわかった上で自分を利用しろと言ってきたらしい。
「その手のタイプは、別れようって言ってもまず、別れないぞ。俺は、自棄になるなと忠告したからな!」
と、嵐はやってきた。
「小鳥遊先輩、一緒にお昼ご飯食べませんか?」
断ろうとした優が強制的に引きずられていくのを見ながら、優って、計算高く見えて、朱里ちゃんのことになると、計算ミスをするポンコツなところあるよなぁ、とどこか遠くで思った。




