好きな人
いつもの喫茶店で、彩月ちゃんと話しながら、パフェを食べる。今日は、蜜柑のパフェにした。
「……それで、協力することにしたの?」
「うん、まぁ」
特に断る理由もなかったし。そもそも協力するって、何をしたらいいのかわからないけど。私が頷くと、彩月ちゃんは呆れたようにため息をついた。
「朱里、バカなの?」
「あっ、彩月ちゃんひどい!」
躊躇いもなく言われた言葉に、頬を膨らませると、彩月ちゃんは心配そうに私を見た。
「朱里は、小鳥遊先輩のことが好きなんでしょう。それになのに、協力するなんて言ってどうするの」
「だから、『優くん』からは、もう卒業したんだってば」
もうお兄ちゃんをそんな目で見たりしない。そう言いながら、パフェを一口すくう。うーん、とっても美味しい。
「卒業、ねぇ。そのわりには、一緒に水族館に行ったみたいだけど」
彩月ちゃんがお土産で渡した、イルカのストラップを見せる。
「うっ。それは、だって、家族で水族館くらい普通だって、お兄ちゃんが」
「『兄妹』じゃなくて、『家族』っていうところが先輩らしいわね。……それに朱里、協力するって言っても恋はお互いの気持ちがないと始まらないのよ」
それは、痛いほどわかってる。お兄ちゃんのことをずっと好きで意識して欲しかったけれど、お兄ちゃんが私を見る目が変わったことはなかった。
「それに先輩に、もう好きな人がいたらどうするの」
「えっ! 彩月ちゃん、何か心当たりがあるの!?」
今までそんなこと考えたこともなかった。けれど、そうか。お兄ちゃんがすでに誰かに恋をしている可能性はあるんだ。
「火を見るように明らかだと思うけど」
「えぇ! そんなにお兄ちゃんの好きな人ってわかりやすい!?」
あんなに近くにいたのに、全く気付かなかった。私って、もしかして、すごく鈍感なんだろうか。
あまりの衝撃に愕然としているうちに、彩月ちゃんはパフェを全て食べ終わり、
「じゃあ、塾だから」
といって、帰ってしまった。
──お兄ちゃんの、好きな人って、誰だろう。やっぱり、ヒロインである愛梨ちゃん?
でも、うーん、それなら彩月ちゃんはあんなに協力することに渋い顔なんてしないよね。漫画で、お兄ちゃんにヒロインの他に好きな人いたっけ。
脳内で、ストーリーを反芻してみるけれども、さっぱり思い出せない。基本的にお兄ちゃんの心情って、あまり明らかになってない部分が多いんだよね。主人公目線で物語は進むし。
「うーん、謎だ」
でも、そんなにわかりやすいならお兄ちゃんを観察したらわかるかな? とりあえず、お兄ちゃんを観察してみよう。