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お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?  作者: 夕立悠理
お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?
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攻防戦

いつもより、三十分早く目覚まし時計をセットして寝る。お兄ちゃんのことを考えていたからか、その日は、初めてお兄ちゃんに会った日の夢を見た。



 「僕の名前は、優。よろしくね、朱里ちゃん」

そういって、背を屈めて目線を私に合わせ、お兄ちゃんが優しく微笑む。その笑みに顔が真っ赤になるのがわかった。きっと、王子様がいるのなら、こんな姿をしているに違いない、とそう思った。


 そのとき、私が感じた印象は、間違いなかった。お兄ちゃんは、本当に王子様みたいに私に優しくてかっこよかった。


 ──その優しさを自分に向けられたものだと勘違いしてしまっていた。


 お兄ちゃんは、私に優しいのではなく、すべての人に優しいのだと、前世を思い出した今ならわかる。


 「優しいお兄ちゃんの邪魔はしたくない」

だから、まずは、登下校を別々にしよう。私は鳴り響いた目覚まし時計のアラームを止め、ベッドから、飛び起きた。





 あっれー。おかしいなぁ。私が首をかしげていると、お兄ちゃんが優しく微笑む。

「おはよう、朱里」

「おはよう、お兄ちゃん」


 お兄ちゃんは朝が弱いから三十分早く起きれば、確実にお兄ちゃんよりも早く出れると思ったんだけど。お兄ちゃんって、こんなに早起きだったっけ。いやいや、今日はもしかしたら生徒会の用事があるから、早く起きたのかも。


 けれど、もう朝食をすませていたらしいお兄ちゃんは、優雅に食後のコーヒーを飲んでいて、まったく急ぐ気配がない。


 だったら、私が急ごう! もったいないけれど、お義母さんの作ってくれた朝ごはんをかきこみ、お皿を洗って、支度する。


 お兄ちゃんをちらりとみると、お兄ちゃんは新聞を読んでいた。よしよし、まだ一面だから、大丈夫だよね?


 なるべく気配を殺し、リビングから玄関へいく。

「いってきまーす」

「いってきます」


 ぴったりと重なった声に首をかしげると、お兄ちゃんが靴を履いていた。


 「おおお、お兄ちゃん! 新聞はどうしたの!? まだ読んでる途中だったよね」

「新聞なんて一面だけみれば十分だよ」

そういうものなのだろうか。いつもテレビ欄しかみない私にはなんとも言えない。


 でも、ここで諦めちゃだめだ。私は玄関を飛び出すと、はや歩きで、通学路を歩く。


 「ぜぇはぁ。ここまで、頑張ればだいじょう……!?」

しかし、後ろを振り向くと、すぐ近くでお兄ちゃんがにこにことしていた!


 なんで!? と思ったけれど、冷静に考えてみれば、私とお兄ちゃんは身長差がある。はや歩き程度では、お兄ちゃんの歩幅を大きく越えることなどできない。


 しまった! 走るべきだった。けれど、後悔してももう遅い。疲れてしまって、もう走ることもできない私は、諦めてお兄ちゃんの横に並んだ。


 「あれ、いいの? 別々、なんでしょう」

「今日だけ! 今日だけ特別なだけだから! 明日からは本当に別々だからね」

私がそういうと、お兄ちゃんは私の頭を撫でた。


 「朱里は本当に、ばかわいいなぁ」

!? お兄ちゃん、私のことバカっていった!? いやいやいや、聞き間違えだよね。優しいお兄ちゃんが、そんなこというはずない。



 その日は釈然としない思いを抱えながら、お兄ちゃんと一緒に通学路を歩くことになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が巡り巡ってツンデレになっている流れが微笑ましいですね。まさに「ばかわいい」 [一言] はじめまして。連載中の作品が面白かったので過去作を読んでいます。
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