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王は今日も、憂鬱

作者: k

勢いで書いてしまったので、読みづらいかもです

「王よ!我ら民をお救いください」


これで何人目だろうか、救いを求める民に対し俺は声をかける


「あい、わかった」


自分は王だと言い聞かせて、憂鬱な気分に蓋をする


◆◆◆


偉大なる賢王と呼ばれた男の息子に生まれた俺は、当然のごとく次代の王として期待されていた。


「王太子様」


そう呼ばれてばかりで自分の名前すら忘れてしまいそうだった。


唯一俺の名を呼ぶのは、民に見せる慈悲などない無感情な父だけだ。


それ以外の者は母ですら、王太子様と呼んでいた。


16歳を迎える頃に王が病で亡くなり王位が転がり込んできた頃には俺の名前を呼ぶものは誰もいなくなった


◆◆◆


「陛下、次の執務が」



そう言われて謁見の間を出る



知っている、名を呼ばれない事など大した悩みでは無いと


王として多くを見てきた、貧困に苦しむものも、病気によって苦しむものも


この国は前王のお陰で荒れる事もなく、暗殺の危険もない


知っている、名を呼ばれないことなど贅沢な悩みだと



◆◆◆


次の執務は貴族との社交会だった


貴族達の集まりは俺にとって最も憂鬱なものの一つだ


俺は隣国の姫と婚約を結んでいたが、隣国との関係悪化に伴い解消されたのだ

急に王妃になれるチャンスが恵んできた貴族達は張り切って各々の自慢合戦を始める


「陛下、私の娘は優秀でして…」


俺にとって興味のない自慢話が延々と続くから社交会は憂鬱なのだ


親達の話が終わり、令嬢達に囲まれ今度は令嬢達による自慢話が始まる


ふと目を外に向け物語の様な出会いを期待したが、外には誰もいなかった




◆◆◆


今日も今日とて繰り返される民の謁見に耳を傾けて、玉座に座る


ふとここで大声を出してみようかな、なんて考えるが 気が狂ったと思われて終わりだろう


ここには色々な人間が来る、彼らには俺が何に見えているのだろうか


俺だって普通の人間だ

空は飛べないし、火も吐かない、毒を飲めば死ぬし、ナイフで刺されても死ぬ

そんな奴に救ってくれとそう言う者達には俺が神にでも見えているのだろうか?


それでも俺は王であり、命令すれば救えてしまう

命令すれば殺せてしまう


俺には何の力もないのに、王という剣が強すぎて

彼らは俺に救いを求める


目の前のこいつに斬りかかったらどうなるかな?なんて思う俺は、おかしいのだろうか?


そんな事を考えながら、今日も執務を乗り切るのだ



◆◆◆


「陛下、今日の社交会で婚約者を決めていただきたく」


側近にそう言われた俺は、特に何も思わず社交界に出る


婚約者など誰も同じだろう、そう思いながら令嬢達を見渡すがやはり同じに見えた



結局決まったのは公爵家の令嬢だった


別に誰でもいいので、候補で一番有力だと言われていた者を選んだだけだった


「よろしくお願いします陛下」


そういう彼女に俺も声をかける


「よろしく、婚約者殿」


そこからは形式だけの手紙を送るだけだった

隣国の姫ともこんな感じだったのでこれでいいのだろう


◆◆◆


すぐには結婚せず、王妃教育で四年の期間が設けられたが、一年経った今も特に関係は変わらなかった


王としての執務も変わらず、憂鬱な日々を過ごしていた


ただ唯一良かったのは婚約者狙いの令嬢がいなくなった事だ


その代わりに今度は婚約者との茶会が設けられたが


どうでもいい話を右から左へ受け流しながら茶会を済ませ


次の執務に移る


「陛下、本日は城下の視察です」


城下に行っても、俺が王である事は変わらない


誰もが頭を下げる、知らない人だろうが頭を下げる


気のいいおばちゃんだろうが性格の悪い嫌われ者だろうが、頭を下げるのだ


きっと俺は王なんか辞めて、普通に生きたいのだ


そんな勇気は俺にはない、普通に生きたいと言っても普通がわからない


民の事は、知っていても

彼等の事は知らないのだから



◆◆◆


週に一度の婚約者との茶会の日


俺は目の前の婚約者を見ながら、他の事を考える


民が反乱を起こしこの生活がひっくり返らないかと考える


この紅茶に毒が入っていて、俺が飲みながら後ろにひっくり返らないかと考える


この国は平和でそんなことは起きないとわかっていながら考える


この憂鬱な毎日がひっくり返る事を


◆◆◆


元婚約者の姫君がいる隣国が宣戦布告をしてきた


そんな事を側近に言われ、不謹慎にも心が踊った


側近には止められたが無理を言い戦場に向かう

王として兵士を鼓舞し自らも馬で駆けようとするが、それは流石に本気で止められた


隣国の兵は屈強で有名だったが、我が国の兵達は打ち勝った


奇跡だと、王のおかげだと讃えられ、偉大なる戦王と呼ばれるようになった


そうして、行われた戦勝パレードは多くの国民が参加していた


誰もが笑顔で俺に手を振る、いつも皆頭を下げているので俺は彼等の顔を見れないのだ


謁見で顔を見ても皆強張っているか、愛想笑いをしているかだ


本当の笑顔を見たのは初めてに近く、少し驚いてしまった


◆◆◆


側近から俺が戦場に飛び出してから婚約者が城で俺を待っていたと報告を受け、婚約者の元へ向かう


「陛下ぁぁ、グスッ、しんばいじましたわ〜」


泣きながらそう言う彼女に戸惑いながら受け答える


「申し訳ない、婚約者殿」


周りは、特に何も言わず見守っているので多少の無礼は目を瞑っているのだろう


「なんで私に何も言って下さらなかったんですの?」


そう言いながら涙目で睨む彼女に俺は謝り倒した


◆◆◆


そんなこんなで二年が過ぎたある日

あの日から少しだけ距離が縮まった婚約者と俺は茶会で向かい合って座っていた




「陛下、なんで私を婚約者に選びましたの?」


「えっ、あっ、その」


その問いかけに狼狽えてしまった俺を見て彼女は笑う



「ふふふ、知っていますよ、別に私じゃなくても良かったのですよね?」


「そんな事はない!」


咄嗟に嘘をつくが信じていないようだ


「なら何故、私の名前を呼んでくださらないのです?」


俺は驚いた、彼女の名を呼んだ記憶がない事に


「…ああ、エリザ嬢、私は君の名を呼んだことが無かったのだな」


名を呼ばれ、嬉しそうにする彼女に俺は言う


「なら俺も名前で呼んでくれないか?」


少し緊張しながら口に出した言葉にエリザは


「ええわかりました、アレク様」


久しぶりに名を呼ばれ、心の内で喜んでいると


「ようやく、笑ってくださいましたね」


そう言って、エリザはこちらを覗く


「いつも、笑っているだろう?」


茶会でも社交界でも作り笑いだが完璧に笑えているはずだ


「ふふふ、作り笑いではありませんか」


そういう彼女に俺は驚く


「なんでわかるんだ?」


動揺を悟らせないように落ち着いて話す


「アレク様をよく見ていれば分かりますわ」


そう言って頬を染める彼女を見て、謎の感情が心に湧き上がるが、それに名前をつけられるほど俺は人を知らない


◆◆◆

あれからまた1年が経った


あの日以来、みんなとのコミュニケーション不足に気付いた俺は出来るだけ名前を呼ぶようにした



「ライオネル、次の執務は?」



「!、アレク陛下、次の執務は謁見でございます」


俺に名を呼ばれ嬉しそうに話すのは、いつもの側近だ

彼にも俺を名で呼ばせているが未だに慣れないようだ


それでも彼とは少しだけ、距離が縮まった気がした


名前を呼ぶようにしてから、少しずつだがみんなとの距離が近づいている気がする


婚約者の彼女とは、それなりに仲良くなっていた


「エリザ嬢は、結婚するのが私でいいのかい?」


そう言うとエリザ嬢は拗ねた顔をする


「アレク様でいいのではなく、アレク様がいいのです」


王妃になれるからかな、なんて思っといるとエリザ嬢がこちらを覗き込む


「言っておきますが、王妃になれるからではございませんよ?」


「なら何故?」


純粋に疑問だったので問う


「それを私の口から言わせるのですか?」


そう言う彼女に俺は、言う


「ああ、君の口から聞きたい」


彼女は顔を真っ赤にしながら口を開く


「す、好きだからですわ」


俺のこの感情に名前が付いた瞬間だった


◆◆◆


結婚まであと数ヶ月になった


俺は社交界に出ていた


俺の隣にはもちろんエリザ嬢がいる


そんな彼女に、俺は甘い笑みを浮かべ手を差し出す


「私の姫、どうか踊ってください」


社交界で恒例となってしまったこの問いかけに彼女は未だに頬を染める


憂鬱だった社交界が楽しくてしょうがない


俺は、彼女を愛している


早く彼女と結婚して俺の物にしたいと、考えてしまう俺は多分どこかおかしいのだろう


だがそれでもいいと今は思える







◇◇◇



とある王国にとても愛されている王がいた


かの王は戦では勇敢に戦い、民が苦しんでいる時には親身になって助けてくれるのだ


王は、表情豊かでよく笑い、よく泣いた


最愛の妃との結婚は誰もが祝福したという


そんな王との謁見では、最初に王が言う言葉がある


「俺の名前は、アレクだ。さてお主の名前はなんだ?」





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