お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんだから
声劇用の台本です。
男女1:1の構成で、かなり短い作品。
好き勝手に使ってもらえると嬉しいです。
30代と思しき中年男が町外れの道を一人歩いているとき、背後に気配を感じた。
男が振り返ると、そこには、無表情の少女が佇んでいた。
女 「ちょっとちょっとお兄ちゃん。今、時間はあるかい? 僕は何気ない口調でそう言った」
男 「ああ? 誰だ、お前は」
女 「ねえねえ。お兄ちゃんにひとつ尋ねたいことがあるんだけど、今ちょっといいかな? 僕は控えめな口調でそう言った」
男 「なぜ俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ?」
女 「お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんだから僕はお兄ちゃんのことをお兄ちゃんと呼ぶことにしているんだよ」
男 「ああ?」
女 「僕は有無を言わさぬ口調でそう言った」
男 「俺は今の今までお前と口をきいたこともなければ、お前のことを見たことすらない。つまり、今が初対面というわけだ」
女 「初対面……?」
男 「そうだ。完膚なきまでに初対面であるお前に、なぜ俺がお兄ちゃん呼ばわりされなきゃならないんだ?」
女 「お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんだから僕はお兄ちゃんの……」
男 「(遮るように)それはさっき聞いた。同じことを二度も言おうとするな」
女 「同じことを二度言ったらだめなの?」
男 「ああ、だめだ」
女 「どうして?」
男 「そんなもの、無駄だからに決まっているだろ」
女 「僕は無駄なことをするのが案外嫌いではないよ」
男 「俺は嫌いなんだよ」
女 「そっか。それは残念だよ。お兄ちゃん」
男 「で、お前はいったい誰なんだ? なぜ俺のことをお兄ちゃんと呼ぶ?」
女 「それはお兄ちゃんが僕のお兄ちゃん……」
男 「(遮るように)もういいよ」
男、去ろうとして、
女 「お兄ちゃん。どこへ行くんだい?」
男 「どこでもいいだろう。少なくとも、お前のような存在のいない場所だ」
女 「僕のような存在のいない場所……ってことは、もしかしてそこはディストピアかい?」
男 「…………」
女 「ねえ、お兄ちゃん」
男、少女を無視して去る。