ナマコは意外と美味くて栄養豊富
さて、海岸で促成の石のカマドを作って牡蠣やシャコガイを焼いて食べたがかなりうまかった。
「うまー」
「うまー」
真似して一緒に食べてるフローレス人も美味そうに牡蠣を食べてる。
貝はやっぱ焼いて食べるのが一番だよな、ポン酢とかがあればさらに良かったんだが。
氷河期が終わって氷河の氷が溶けて海面が上昇しスンダランドの大部分がが海に沈んだ時に、一部の人間はヤムイモやタロイモ、バナナや土器の技術などを持って北上し黒潮に乗って日本に辿りついてヤムイモは山芋、タロイモは長芋になったらしい。
バナナは多分日本では駄目だったのだろうな、残念ながら日本はちょっと寒すぎたのだろう。
そして海水域、汽水域、淡水域の貝を土器で煮て食べるという習慣も南方から来た人間によって広まったらしい。
北方から来た狩猟民族も銛を使って湖などの魚はとって焼いて食べていたようだがな。
しかし、フローレス人もそうしていた様子はあんまりないな。
火や打製石器は一応利用しているようなのだが土器はないみたいだし火をおこすのは大変だからやっぱ長年フルーツを主食にしてきていたんだろうか。
やがて日も傾いてきたので俺達はカマドなどはそのまま放置し、シャコガイや牡蠣の貝殻は海水で洗ってやはりその地殻に放置し洞窟に戻った。
その頃には日も沈んで暗くなって居る。
「さて今日は寝るか」
「ねるー」
「ねるー」
熱帯であるためか洞窟の中は寒くもなく暑くもなく割りと過ごしやすい。
布団もベットも寝袋もないが地面に体温を奪われるほど寒くはないから、軽く枯れ葉を敷き詰めるくらいでも十分寝やすいのは助かるな。
そもそも人類は竪穴式住居を発明するまでは横穴すなわち洞窟を長年住居にしてきていたと考えられているしな。
「おやすみー」
「おやすみー」
「おやすみー」
フローレス人は複雑な単語の意味は多分わからないだろうが決して知能は低いわけではない。
例えばカラスの脳は大きくはないがカラスの知能はかなり高い。
同じようにフローレス人は簡単な言語による意思疎通は出来るし、フリントを用いたかんたんな打製石器なども作れるようだ。
それを使って牡蠣を岩から剥がすことを器用にやってのけたし石器はフルーツを取るときなどにも使っているのだろうな。
とは言えフローレス人に比べて必要なカロリーが彼等より格段に多い俺にはまだまだ辛い物がある。
やっぱ炭水化物はほしいよなぁ。
ま、考えてもしょうがないから寝るとしようか。
・・・
そして翌朝俺のことをフローレス人が囲んで見下ろしていた。
「おきた!」
「おきた!」
見れば太陽はとっくに昇って明るくなって居るようだ。
「ああ、起きた、すまん寝すぎたかな」
彼等はケラケラ笑いながら言う。
「ねすぎー」
「ねすぎー」
うむ、まあ普通なら夜明けぐらいには起きられるんだろうけど思っていたより大分疲れていたらしい。
「んじゃ起きるか」
「おきるー」
「おきるー」
なんかフローレス人達は何するにしても楽しそうだな。
「さて食い物を探しに行くか?」
「いくー」
「いくー」
多分彼等は普段食べているバナナに加えて牡蠣も食ってるから彼等自身は食べ物を取りに行かなくても大丈夫だと思う。
じゃあなんで俺と一緒に行こうとしてるのかと言えばきっとそれが”楽しそう”だし”美味しいものを食べられるかも知れない”からだろう。
本来無駄に動き回らなければ毎日食べ物を探す必要もないのだが、ある程度はどの程度食べ物が得られるか確認しておかないとな。
俺は昨日と同じように、海に向かいフローレス人がちょこちょことついてくる。
「さて、今日は……ナマコでも探すか」
「なまこー?」
「なまこー?」
「ん?、ああ、俺が先にちょっと探して見るな」
牡蠣が南北の極地を覗いた世界中のほぼそこの海にでも居るようにナマコもほぼどこにでも居る。
ナマコはヒトデやウニと同じ棘皮動物だがそれらに比べてもナマコは結構大きくなる。
そしてウニのような殻も持たないし、多くヒトデでのようにサポニンを多量に含むということもなく、クラゲや甲殻類のような攻撃手段も持たず、動きも遅いためナマコは捕獲がとても容易であるのがいい。
海水浴とかしてるとグニャッとしたナマコを結構踏んづけたりもするくらいだ。
そして日本や中国では古来より、ナマコは食料とされてきたのだ。
日本ではナマコは酢の物として食べることが多く、腸の塩漬けもうまいのだが、実は焼いて食っても結構美味い。
「お、いたな」
透明度の高い海の浅い海底に落ちてるナマコを探すのは結構かんたんだ。
「こいつだよ」
俺はフローレス人たちにナマコを見せる。
「きもーい」
「きもーい」
うむ、ナマコの外見や手触りが気持ち悪いことに関しては否定できん。
「まあ、無理に取らなくてもいいぞ」
「とーるー」
「とーるー」
バシャバシャ水をかき分けて海に入るとフローレス人たちもナマコを探し始めて見つかったら捕まえてるな。
「いたー」
「いたー」
「おう、じゃあ焼いて食うか」
「くうー」
「くうー」
俺達は浜辺に上がる。
「また枯れ枝や枯れ葉を詰めてきてくれな」
「いくー」
「いくー」
フローレス人たちがバラバラと別れ森に入っていく。
その間に俺はナマコを焼いて食べるために下ごしらえをする。
新鮮なままのナマコを口と肛門がある両端を石器のナイフで切り落とし、柔らかい腹にナイフを入れてナマコを開きにする。
それからナマコの内臓を取ってぬめりナなくなるまで海水で綺麗に水洗いする。
後は適当な大きさに切って準備完了だ、かんたんだな。
「とってきたー」
「きたー」
「おう、ありがとな」
とってきてくれた枯れ枝や木の葉にルーペを使って火をつけて昨日のシャコガイの貝殻を鍋代わりに火の上に乗せて、適当な大きさに刻んだナマコをその上に乗せて焼く。
しばらく熱を通して皮が溶けてしまわないように菜箸代わりの木の枝でひっくり返しながらじっくりと火を通す。
「そろそろいいかな?」
ちょうどよく焼けたと思うナマコをシャコガイの鍋から牡蠣の殻の皿の上におろしてみた。
見た目は皮の付いた側のうなぎの蒲焼みたいだな。
「ちと食べてみるか」
まだ完全に火が通っているわけではないが、加熱したことによって身が柔らかくコラーゲンがたっぷり含まれたプルンプルンのゼリー状になって、独特の生臭さも無く、固くて食べられないということもなさそうだ。
「ん、やっぱ美味いわ」
「たべるー」
「たべるー」
フローレス人たちが牡蠣の貝殻を差し出してきたのでそれぞれに取り分けてやる。
「んまー」
「んまー」
どうやら彼等も気に入ってくれたようだしよかったよかった。
ナマコは可食部が多くて捕まえやすいし暫くの間は貝とナマコで食いつないでいけそうだな。