フルーツが動物に食べられるように進化したのは生存戦略の一つ
さて、フローレス人がわざわざとってきてくれたバナナを俺は皮を剥いて食べたわけだが、21世紀に普通に食べているようなバナナには見た目わかるような大きさの種はない、しかし完全にないわけではなくて、バナナの中心部ある小さな黒い点のようなものが本当はバナナの種なのだ。
そしてフローレス人がとってきてくれたバナナは野生のもので、その種は大きくて堅く、アズキ粒ほどの大きさで、ぎっしり詰まっている、具体的に言えばバナナの身の半分以上は種。
更に現代人の味覚だとこのバナナは甘くないし短くて硬いし種が大きすぎるんだよなぁ。
おまけにフローレス人は一本二本食べればお腹いっぱいみたいだが俺には物足りない。
「うむ半分以上種というのは結構来るものがあるな」
「くるー?」
フローレス人は首を傾げている。
そりゃ彼等彼女らにとってはバナナはこういうものだからな。
俺にとってはギャップが大きいのだが。
「ん、ちょっと食べづらいというかな」
「なんでー?」
「んー、バナナってもっと柔らかくって甘いもんなんだよ。
俺にとっては」
「やわらかいー?」
「ああ、そうなんだ」
「そうなんだー」
そして長くて黄色く柔らかくて甘いバナナと言うのは長年の人為的な品種改良で種類の違うバナナを人工的にを受粉させ、その中でたまたま出来上がった甘くて黄色くて種がなく栄養も豊富なバナナを選別してきたのだ。
種がなければ種により栽培することは不可能なのにどうやって増やしてきたのだろうかと思うわけだが実はバナナは一見すると木のように見えるのだが実は背の高い草であってバナナの場合は、通常、根本に生えてくる『吸芽』という部分を切り離して別の場所に植えると苗としてそだてることが出来るのだ。
種なしのバナナに関しては一種の奇形で染色体の数が、種のあるバナナの染色体の数が2本ずつ対になっている二倍体であるのに対し、種なしのバナナは染色体の数が3本ずつになっている三倍体で種が出来にくく育ちにくいという性質をもってしまったわけだが、普通ならそれでは絶滅してしまう。
しかし人間の手による株分けによって増えることが出来るバナナは種ができなくなっても増やすことができた。
もっともこの種無しバナナは遺伝子的に一様であるため病気に非常に弱い。
実際に「新パナマ病」というカビによる病気でバナナが絶滅する可能性もあるといわれていたくらいだ。
それはさておいて熱帯には果物が多いがその理由は熱帯はスコールの影響で土地が痩せていたり、種を落としてもそのまま流されて芽が出せない可能性が高いからだろう。
だから動物が食べたがるように甘く柔らかく食べられやすいように進化したのだ。
果実はまず採取された場所でそのまま食べられるとは限らないからその時点で移動が可能だし、動物に果実を食べられても殆どの種子は消化されないから更に移動して糞とともに体外に出ることで、長距離の移動が出来るし熱帯では土壌中に少ない窒素などの補充をしやすくしているのだろう。
植物は一般的に葉や茎はセルロースで作られているので実は結構カロリーは高いが消化して栄養分とするのは難しい、草食動物はすりつぶして消化しやすいようにした上で、複数に分かれた胃の中に住まう細菌を分けることでセルロースを消化した上で細菌を増やしてタンパク源としているが、果物はそういった葉っぱや茎、樹皮よりも食べやすく強化吸収しやすい糖分も多く、消化酵素が含まれているので食べやすい。
同じように食べやすい新芽や若葉を喰われてしまうと困るというのもあるのだろう。
要するにフルーツはフローレス人やオランウータンなどに種ごと食べられることによって広い範囲に移動することが出来るし、大便という窒素の塊に埋まって地面に根付くことが出来るわけだ。
とは言え問題はある、体が小さいフローレス人やあまり動くことを好まないオランウータンに比べて俺は燃費がとてつもなく悪いということだ。
人間の脳というのは糖分を馬鹿食いするし、筋肉は脂肪を多量に必要とする。
そんなことを考えてる俺にフローレス人が聞いてきた。
「どうしたの?」
「ん、ああ、俺は体が大きいから足りなくてな」
「たりない?」
「たいへん」
フローレス人たちが顔を見合わせてるな。
「ああ、とりあえずあとは自分でなんとかしてみるよ。
お前さんたちにばかり頼るのは悪いしな」
「わるい?」
「んー、自分が食べるものくらいは自分で
なんとかしないとって話だ」
「なんとか」
フローレス島は小スンダ列島の東の端にあるティモール島の西に有って海はそこそこ近いはずだ。
そのせいで洞窟も海水に侵食されたことがあるみたいだしな。
気温も21世紀よりは低いが摂氏20度前後は保たれているからむしろ温暖で過ごしやすくもある。
そして動物も小型化した象や鹿、水牛、猪などもいるはずだし、鶏のもとになる飛ぶのが上手くない雉などもいるはずだから狩猟の獲物となる動物や魚などに困ることはないはずだ。
無論最悪は昆虫の幼虫を食べるという選択肢も必要だろうけどな。
とは言え狩りをするなら狩りのための道具は必要だし魚を捕るにしても銛や網がないとダメだ。
フローレス人には衣服を身につける習慣がないから当然糸なようなものを彼等彼女らは持ってない。
石のやりを作るには蔦を使えばいいんだろうけどな。
とすると一番手に入れやすくて食べるのに違和感がないのは貝か。
「とりあえず食べられる貝を探してみようかね」
「さがすー」
「さがすー」
別に遊びに行くわけじゃあないんだがフローレス人は一緒に来るつもりのようだ。
まあ一緒にいるときも紛れるしそれもいいかもな。
それに貝なら貝殻を容器にして焼いて食えるし塩分の補充にもちょうどいいはずだ。
「じゃあ海に行くぞー」
「いくぞー」
「いくぞー」
洞窟という雨をしのげるシェルターが最初からあるのはありがたい。
あとスコップみたいな発掘道具も一緒に来てたのは助かったな。
貝を探したり剥がすのに使えるだろう。
それにしてもこのあたりは面白いな。
フローレス人の他にもソロ人ことホモ・ソロエンシスのような原人なのか旧人なのか不明な人類化石も見つかってるし案外ホモ・ソロエンシスもスンダランドに一緒にいるのかもな。