集団を追い出されたサピエンスたちも大変らしい
さて、西の方からフラフラとやってきたサピエンス達はバナナを食べたあと、その場で寝てしまったのだが夕方になる前には目を覚ました。
ちなみに俺達は彼らが寝てる間はバナナやマンゴー、パパイヤなどを取るために縄梯子を昇り降りしたり休憩を取っていたりした、縄梯子の昇り降りは普通に登るよりは全然楽とは言えそれでも疲れるのだ。
「ん……ここは、ああそうか……」
一人が起きるとつられたように皆起き出した。
俺は彼らに声をかける。
食っていないこともあるのだろうが全体的に小柄なものが多い。
「まあ、もう陽も落ちるし、皆でねぐらに行こうか」
サピエンスの一人が頷いて言う。
「わかった、助かるよ」
頷くということが同意であるとみなしても良さそうだな。
そしてフローレス人達も動き出した。
「かえるー」
「かえるー」
フルーツを抱えながら洞窟に戻って皆で取ったフルーツを分け合い、食べながらながら俺はサピエンスたちに話を聞くことにした。
「んで、お前さん達は一体何が有ったんだ?」
サピエンスの一人が代表してそれに答えてくれた。
「俺達は獲物を狩れず、木登りもうまくできない未熟者。
女は子ができない者たちだ」
「なるほどな、そんな感じだろうとは思っていたがやっぱりか」
狩猟民や遊牧民、農耕民を問わずこういったある一定以上の年齢に達した者に通過儀礼を施してそれを達成できないものは集団から追い出されるのはよくあることだった。
日本の農民は男は米俵(30kgから70kg)を持てること、女は一定の時間内に田植えを2反の広さできることや一定の時間内に機織りや衣装製作ができることが条件で成人になるには労働力として一人前でなければならなかった。
これはインドや中国、東南アジアなどでも同じような事例が数多くみられるものだ。
日本のマタギのような狩人やアイヌ、ネイティブアメリカンの狩猟民は熊を仕留めて一人前とみなされたり日本の武家であれば犬追物や牛追物を成功させないとならない場合なども有ったようだ。
モンゴルでも同じように裸馬にのって遠く離れた場所に置かれた指定された物を指定された時間内に取ってきたり、馬に乗った状態で弓を用いて狩猟を成功させたり、鷹狩を行って狩りを成功させなければならなかったし、この場合は鳥を死なせてしまうと村を追い出されたりもした。
太平洋の島国であるバヌアツなどでは、バンジージャンプのような度胸試し的な儀式である ナゴールに成功すること、アフリカの狩猟民は槍一つでライオン狩りを成功させること、パプワ・ニューギニアではサメを素手で捕らえるなどというようなことなどがある。
その他にも体に串を刺したり、抜歯をしたり、割礼をすることで痛みに耐えぬいたもののみが成人になれる場合もある。
こういった成人の儀式は主に食料や衣類を得る能力を元にしてそれができない物を追放するというのは集団を維持していく上で必要なこととして普通に行われていたのだな。
また子供が生まれない女を集団から追い出すことも行われていた。
子を産めない女は価値が無いと思われていたからな。
「まあ、今の俺達と会えたのは運が良かったな。
食べもんを分けるくらいのことはできるぜ」
フローレス人たちがウンウン頷いてフルーツを掲げながら言う。
「できるー」
「できるー」
フローレス人たちはなんだかいつも楽しそうだ。
一方サピエンス達は泣いて喜んでいた。
「本当にありがたい……」
「まったくです」
「とは言えお前さん達にも自分で食べ物を取れるようになってもらうけどな」
そういうと彼らは慌てたように言う。
「し、しかし、我々は木登りも狩りもできなからこそ追い出されたのだが}
俺は苦笑していった。
「ああ、別に狩りや木登りができなくても大丈夫だ。
俺だってあいつらみたいに木登りはできないしな」
それはフローレス人たちを指し示しながら言う。
「できなーい」
「できなーい」
一方サピエンス達は首を傾げていた。
「大丈夫なのか?
本当に?」
俺はうなずく。
「まあ、詳しくは明日やりながら教えるよ」
「そうか……」
今日のところはそんな感じで皆寝ることにした。
狩猟や樹上のフルーツを取れないと追い出されるというのは大変だな。
最も自分たちで食べられるものを得られないものをいつまでもおいておくほど余裕はないのも事実なのだろう、なかなか厳しいよな。