縄を使って木登りを楽にしようか
さて、貝やナマコや魚など海の幸の存在はとてもありがたいがバナナやイチジクなどのフルーツの存在は別の意味でありがたい。
その理由はフルーツはビタミンCを豊富に含んでいるから。
人間を含んだ霊長類がビタミンCの生成能力を失ったのは約6300万年前とかなり古くそれは古モグラが樹上に逃げ出した結果フルーツや若葉、芽などを豊富に手に入れられるようにになったからで、むしろビタミンCをグルコースから生成できない動物のほうが少なかったりする。
人間がなぜビタミンCを生成できなくなったかというとフルーツを得ることで補充が楽になったことに加えて、樹上生活で距離や色彩などを知覚するために視覚の機能がかなり強化されたがそれに付帯して脳の処理能力の負担がかなり大きくなったので、脳を守るためにも糖からビタミンCを精製する方が危険が大きかった可能性がある。
なにせ脳は糖分を多量に必要とするからな。
「まあ、それはそれとしてお前さん達は
木登りとか得意だよな」
俺はフローレス人が取ってきてくれたパパイヤとマンゴーをかじりながら言う。
「とくいー」
「とくいー」
ふふんと誇らしげに彼らはいうが素手素足の補助具無しでスルスル木に登って果実をとって降りてこれるのは正直すげえとおもう。
本来木から降りた原人は木登りはさほど得意ではなく平原を昼間に長時間の間走る能力を伸ばしてきたのだが、ホモナレディのように木登りができてかつ石器を制作し使用できる手や指を持ちながらも、直立歩行に適応した足を持つ人類もいる、フローレス人はそういった方向に進化適応したのだろうな。
「じゃあ、俺も少しは役に立てるようにするか。
木の昇り降りが多少は楽になるように」
「?」
「?」
縄を使って簡単なはしごのようなものを作るのだ。
「じゃあ、先ずはココナッツファイバーから縄を作るぞー」
前にやったようにココナッツファイバーを撚って縄を作る。
「つくるー」
「つくるー」
「長い縄ができたらこうやって輪っかを作る」
俺は二重8字結びを彼の前でして見せてロープに輪を作る。
この結び方は結びが丈夫でほどけにくいためで安全性が高いため崖などを登ったり降りたりするときの命綱を作るときなどにも用いられる。
登山やフォールドワークのロープワークではよく用いられる結び方だ。。
欠点は結んだり、解いたりするのに時間がかかることだが。
「こうー」
「こうー」
彼等は器用に輪っかを作ってみせた。
「後は同じような輪っかを同じ間隔で結んでいくだけだ」
俺が見本を見せながら作業を進めていくと彼等も真似してつくっていく。
「だけー」
「だけー」
「とし、できたぞー」
50cmぐらいずつに輪っかの結び目ができたロープを俺は掲げてみせた。
「できたー」
「できたー」
フローレス人たちも嬉しそうに縄を掲げてみせた。
彼等の場合こういった作業は遊びでもあるらしい。
「んじゃ、これを木の枝に結びつけるとしようか」
できた簡易縄梯子を肩にかけて立ち上がった俺達は洞窟から出る。
「いこー」
「いこー」
ちょこまかとフローレス人が楽しそうに俺の真似をしながら後をついてくる。
マンゴーは高さ10m以上になる場合もあるしパパイヤでも8mくらいの高さはある。
「んじゃ登るとするか」
その幹を、幹を両腕両足ではさみ込み、えっちらおっちら登っていく。
「わー」
「わー」
お前らは猿かと思うほど早く木に登っていくフローレス人は流石だ。
俺もフォールドワーカーだから木登りや崖登りは21世紀の日本の人間としては得意な方だとは思うんだけどな……。
「後はロープを解けないように太い枝の根元に結ぶ」
二重巻き結びで枝に縄を結びつければ縄梯子が完成だ。
「むすぶー」
「むすぶー」
「後は輪っかの手や足を入れながら昇り降りすれば今までよりずっと楽ちんだ」
パパイヤをもいでからしっかり結べてることを確認しつつロープを降りていく。
「らくちーん」
「らくちーん」
やっぱり俺よりも彼等が早く昇り降りができるのは体重の軽さに比べると握力などに優れてるのもあるし、そもそも木に上ることに対しての恐怖などもないからだろう。
それはともかく俺たちはパパイヤやマンゴーなどを取るための木の昇り降りが随分楽になったはずだ。
背中に背負い籠なんかがあればもっと楽になりそうな気もするけどな。
「うまー」
「うまー」
「ああうまいな、フルーツが豊富なのはありがたいことだ」
海の幸とフルーツが豊富なのはほんとありがたいぜ。