アヤシイ依頼
長めになりそうな予感です。(PV全然なのでやめるかもしれませんが)
タイミングを逸するとだいたい何でもダメだ。
液体燃料を噴き出す「火車」というのを考えたが、もう戦争も終わりだ。買ってくれないだろうなぁ。何回火事になりかかったと思ってんだ! 液体燃料タンクが何回爆発したと思ってるんだ! どうやって動かすかって? 押すんだよ。
そんな危ないもん買わないって? だろうな。
ほら一列に並べて押してけば、炎の壁みたいで凄いだろ?
セフィ、だかの噂は聞いている。
火魔法一発に敵わないけどな!
「ゲイルさん。いえ、所長」
黒いローブの男が開けっぱなしのドアから入って来る。入り口でコンコン、とドアを叩いた。順番が違うがそれでいい。
「お、おう」
真夜中に来るとは何だ。もしかして会議所の展示室のやつ、売れたか?
「頼みたいものがあるんですがね」
「ここは常に営業中だ。いいぞ」
「首輪、得意でしたね」
大抵エロいけどな!
「ま、まあな」
「爆発物も得意でしたね」
結果として爆発するだけだけどな!
「おう」
こいつ、何でそんなに俺の事を知ってる?
「簡単ですよ。魔法回路を一つ。名を呼ばれた後に、死ね、と言われると激発して爆発系燃料に火が点く。キーワードを変更できればさらに金は弾みますよ。爆発力は首が吹き飛ぶくらいで」
こいつは、危ない仕事だ。
夜中に来るわけだ。
「悪いなー」
断わる積りで言った。
どっかの、金が唸ってる貴族紛いだろう。貴族、という階級はないが金が有ると無いでは立場が違う。使われてる方も酷い扱いにも慣れる。
要するに奴隷は作れるってことだ。それで遊びたいんだろう。
妄想力だけなら俺もそうは負けないぞ。
絶対服従とかで遊びたいんだろう。
「それ系は作んない事にしてるんだ。作っても全身が痺れるくらいまでだな」
それもほんのわずかの間、だ。前に作って会議所に見本出したら突っ返された。
「皆さんそう仰いますね。では雇いの錬金術師に作らせますか。一個、金貨百枚は出そうと思ったんですがね。合計百個」
金貨一万。幾ら持ってるんだこいつらは。何やったらそんなに儲かるんだ?
鉱山師? 冒険者ギルド? 会議所のお偉いさん? 酒場十個でも足りない。
ああ、そっち系か。
催淫キノコから頭が変になるくらい感度を上げるやつまで、需要はある。
変態から稼いでる変態だ。
「……作りましょーか?」
レニアが眠そうな目のままドアの所に立っていた。声が大きかったか?
「他にも機能足してもいいですよ」
「やめろ、今度こそ会議所にバレたら謹慎じゃ済まないぞ」
「お金無いんでしょ?」
「今度こそ明るく楽しく人の役に立つものを作るんだ! こういうのじゃない。寝てろ」
「わかってないなー師匠。だから万年貧乏なんですよ?」
男がふっ、と笑う。
「助手さんのほうが話が分かるようだ。納期は20日。会議所の小切手でいいかな? さすがに運ぶのは目立つ」
20日で百個? 機械フル稼働だ。
「どうぞ。換金できるって分るまで監視しますけどね」
「ふん、しっかりしたお嬢さんだ。だが、どうやって?」
「これ」
レニアは指輪をローブから出す。見た目は金の指輪だ。
「……何が出来るのかな? お嬢さん」
さすがに警戒はするよな。いや、レニア、やめとけって。
「指に嵌めて、小切手は偽物じゃないって宣言するだけ。偽物だったら、呪われるからね? 換金できたらただの金の指輪。サービスにあげるね。今後お得意様になりそうだから」
「それだけの魔法回路を指輪に?」
レニアが指輪を男に渡す。
「三つくらいでしょ? 簡単。はい。嵌めて宣言して。出来ないなら帰ってね」
取引自体は最悪だが、この指輪は使える。
いや、無茶苦茶売れる。
小切手に限っても。真贋が分ればいいだけまで機能を縮小して。呪うと言ったら顧客が減る。大体の設計が頭に浮かぶ。普及するぞ。そのレベルまで売れるぞ。
会議所を出入りする業者が全員嵌めている姿が見える。
少々高くても行ける。
「レニア。これは、量産できるのか?」
勢い込んで聞いてしまった。
「うん。簡単だから。師匠だってもう仕組み分かるでしょ」
まだ眠そうなレニアが答える。
天才だと抱き付きたかったがそういう場じゃない。
確かに簡単だ。今まで無かったのがおかしい。そういうものを当たり前に作る。
レニア。もう爆発する首輪なんかどうでもいい。
溜息を吐くと、男は指輪を嵌めた。話が進んでる。いかん。
すっ、とレニアが俺に近づく。何だ?
男から背が見えないように俺の前に立った。
背中で指先が煌く。魔法印だった。「嘘」「任せろ」。
ん? 嘘? 任せろ?
軽く背中を叩く。「わからない」、だ。
わかんねーのかよ。振り返ったレニアから、そういう目で見られる。
「黙れ」「任せろ」「バカ」。また指先が輝く。
バカは余計だろうがよ!
憤激は抑えた。何か考えがあるんだろう。
「小切手は偽物ではない。誓う」
軽く片手を上げて、黒服の男は言った。
「これでいいか。我々に逆らった場合、どうなるかは分かっていると思う」
脅し慣れた声だ。
「前金は? ウチは半分でやってるけど」
臆する様子もなくレニアが言う。
「調子に乗るなよ。仕入れる金もないなら……」
急に男の声色が変わる。
「はい。書いて」
「貴様……」
苦しそうに男が机に向かう。
「へへぇ。回路三つなわけないでしょ。錬金術師舐めたらダメだよ?」
「貴様ごとき片手で、」
「詠唱できないでしょ。私にも触れない。こないだ作ったのの縮小版」
レニアの目が鋭くなる。
「へえ。変態を集めて奴隷爆破ゲームするんだ。金貨千枚でもやる人いるんだね」
「読んだか。お前らは破滅する。覚えておけ」
「破滅なんかもうしてるもん。言っとくけど師匠舐めたらこんなもんじゃ済まないからね」
そうか?
いや全然自信はないんだが。
ん、んっ。とレニアが咳払いする。
「俺が全額使いこんだ」
男の声真似だ。
「そういうことでね。じゃ、全額にしとくから。金貨一万枚。なんでもないでしょこのくらい。後はその変なゲーム止めてあげるね」
また背中でレニアの指が動く。
「バカ」
うるせえ!
こいつらを敵に回して……俺はどうするんだ?