プロローグ4
「き、君が王女様!?」
「そうさ、何か文句あんのか?」
あ、ありえない......昔偶然見かけたあの王女様が、まさかこんな大人になったとは......信じがたい。何か訳があっても人を攫うなんて、勇者として見過ごせない!
「では、いますぐこの男の子を解放してください。」
「いやだ。てか、俺があんたの言うこと聞くわけねぇだろ、ボケ。」
「じゃあ、せめてこの男の子を攫った原因を聞かせてください。でないと納得がいきません!」
「特に訳ないんだが?それとも、アンタは見つけた戦利品を取らないようなバカな人?」
「そうさ!訳もなく物を取るのは強盗だ!俺は勇者、ゆえにーー」
「ハッ!勇者とは恐れ入った。ならもう言うことはない、黙れ。」
「なっ!君、それでも王女か!」
「王女さ、もちろん。だが、誰が王女は必ずお淑やかでいなければならないって言った?」
「それが世の理だろ!」
「知るか!世の理とか、ふざけんじゃねぇよ!」
ドン!と、机を叩いた王女様。
この王女があの子とは、信じがたい。あの頃見てた君はどこに行った......俺の心を奪った君は、どこに行った?あのころ見た君は嘘だったのか?貧しい人にやさしく手を伸べて、パンをあげた君は幻だったのか。
「その世の理のせいで俺は弟を殺したぞ!二度と世の理に従うものか!」
「ッ!?」
現場にいる人......俺と坊主がびっくりした。師匠は......寝てる。まぁ、そういう人だから。
「弟を殺した......どういうこと?」
「......アンタに教えるつもりはないがね。」
そうだ!きっとそのせいでこうなったに違いない!あぁ、なんて残酷な運命だ。だが......王家にそんなしきたりあるのは聞いたこともないぞ?どういうことだ、一体......
「ごめんなさい......辛いのに、それを聞こうとは......勇者失格ですね。」
「ふん。」
そっぽ向いた王女様。
「ところで、これからどうします?王女様。」
「そうね、まずはアンタを殺そうか。」
シャーと、剣を抜いた。
「冗談だ、そう怒るな。」
「それはよかった。」
そして、お互い剣を納めた。
「だが、アンタみたいなのが勇者とはな。」
「何がご不満?」
「俺を攫おうとしてたよ、こいつの魔将軍。」
「えっ!?」
「はぁ......」
な、なんで!?一国の将軍たる者、何故王女様を攫おうとしてたの!?そ、そうか!あれか!昔話によく出てくる儀式でしょ?魔王が王女を攫って、勇者様が救って結婚するって。でも、俺それ知らなかったってことは、勇者は俺じゃないってことになるけど......いや、俺が勇者だ!きっと何かの間違いで王様が助けを求めずに全国の兵士を連れて魔族の国に行ったに違いない。
......全国の兵士?なんで?
今更だけど、死んだのは魔族だけだった。城の中に人族の死体あんまりなかった。あったのは参謀とかの人だけだった。
兵士たちはどこへ行った?なぜ城を守らずにいなくなった?
「それすら知らなかったとは......親父は一体何をやってるのよ。」
「王様が助けを求めずに、自分から救いに行ったてこと?」
「そうだよ。でも、妙ね。」
「?」
「親父たちは知らないはず、グランバールの野郎が俺を攫おうとしてたこと。」
「え、どういうこと?」
「手紙は直接俺の手元に届いたのよ。俺が部屋に帰ったら手紙は机の上に置かれた。それで、誰にも見つけられずに城を抜け出し、単騎で魔王を殺しに行った。」
「え!?単騎で!?魔王を殺しに行った!?」
な、何を考えてる、この王女様。無茶苦茶だ!
「まぁ、結果は見た通りよ。一体......」
じゃあ、この坊主は?見た感じ魔族だけど、なんでここに居るの?一体何のために攫ったの?......いや、それはひとまず置いといて、別のこと聞こう。
「ところで、魔王は殺されたの?」
「は?」
「うん?」
なんでだよ、なんで君がこっちに向くのよ、坊主よ。お前は魔族だろ?王女様を見て恨めよ。
「魔王はここにいるが?」
「え!?」
だが、部屋中に居るのは俺たちと師匠しかいない。と、いうと......
「さて、実は貴様が魔王だな、王女様よ。」
「え!?」
え、じゃない!この魔王が!罪を犯し、人を殺し、常世の罪を背負う者。それが貴様の正体だな!
「魔王はこいつだ!俺じゃねぇよ!」
そして坊主に指さす魔王。
「なんで無関係の人を巻き込む!やはり魔王じゃないか!」
「無関係じゃねぇよ!俺を見ろ、俺のどこが魔族だ?」
「そりゃ性格だろ?」
「性格悪くてすまなかったな!だが俺は魔王じゃねぇよ、なぁラス?」
「ラス!?」
ラスって、あの魔王のラス=クフルか?
信じがたいが、この坊主、この魔族の坊主......魔王だったの!?そりゃ外見は誰も見たことないからわからなかったけど、こんな坊主が魔王だと?
「信じがたい......この坊主が魔王だなんて......」
カサっ!と、剣が落ちて、床に刺さった。
「いや、信じないぞ!なぁ、坊主、そうだろ?脅されずに本当のことを言うんだ。お兄さんが味方だからな。」
「あ、あの......僕......」
もじもじする坊主。
信じないぞ、坊主が魔王だなんて、ぜったーー
「僕が魔王、ラス=クフルです......」
絶対、信じないぞおおおおお!!!
それからしばらく、俺は坊主......魔王に少しだけ聞いた。王女を攫おうとした原因。本人は知らないらしいけど、真実を知ってる魔将軍グランバールは死んだと言ってくれた。そして、これからはどうするかっと。
「しばらくはプリスティンちゃんと一緒にいるつもりです。でも、国の人たちが心配です......」
「心配?はっ、アンタを殺そうとしてたやつらだろ?心配すんな。そんな奴は一人でも多く死んだほうがいいよ。」
「そんなこと言っちゃだめですよ、プリスティンちゃん。仮にも魔王だからね、僕は。」
「ふん。」
そっぷむいた王女様。
「なら、決まりだね。」
剣を鞘に入れなおし、俺は立ち上がった。
「まずは坊主......ラスの国に行って様子を見よう。もし本当にラス=クフルという王が必要なかったら大人しくその位を譲ろう。誰に譲るかはラス君にお任せするけど、いいかな?」
首を縦に振った、異議はないらしい。俺一人で判断していいかどうかはわからないが、王女様は別に意見はないらしいので、それでいいのかな。
だが、こう簡単に王位を譲れるの?王位はどんなものかは、俺にはわからないが、そう簡単に譲れるようなものではない、と、俺は知ってる。でないと、昔の人は王位のために殺しあわないからな。
「でも、いいの?王位は簡単に譲れるものではないだろ?そう簡単に譲っていいの?」
「大丈夫。だって、王位は僕のお父様がくれたものだから。それに、どちらかというと、僕は自由に旅がしたいかな?王様になるよりは。」
なるほど。でも、簡単にお父さんがくれたものを捨てるなんて......どんだけ自分の父さんが嫌いなのよ。
「王女様も異論はない?」
「ないね、どの道その国に行くし。」
「王女様はなんでその国行くの?あ、ラス君が自分の所有物という理由以外の理由で。」
「チッ。」
うわ、この王女の性格わっる!
「理由はあるが、アンタに教えるつもりはない。」
「なるほど。言いたくないならそれでいいんだ。とにかく、今夜はうちに泊まって、明日行くことにしよう。」
外はもう暗いし、この方法が一番かな?王城でいろいろあったので、結構時間食ったのは大きいね。幸い、この二人は待ってくれた。
夜、師匠と王女様は一つの部屋で、俺とラスは一つのベッドで。
俺はどうする?俺は勇者だから付いていくしかないけど、正直言って怖い。得体のしれない人と旅に出るのが怖い。
だけど、俺は勇者だ。怖がってどうする?そんなじゃ勇者は務まらないのでは?
......うん、そうだよね、決めた。付いていく。あの人の言うことが正し行ければ、この二人は、おそらく......いや、それを言うのは早すぎた。やめよう。
「ぐす......お母さま......」
夜、俺のベッドでラスが泣いていた。そっと抱きしめたが、泣き止む様子はなかった。
こんな男の子が......世界を滅ぼそうとしてるなんて......あの人の言うことは正しいのか?今でも泣いてるこの子が......世界を滅ぼせるなんて、正直信じられない。
翌朝、俺、王女様とラスの三人が旅に出た。師匠も一緒に行きたいけど、王女様に断れた。じゃあなんで俺はいいの?って聞いたら、なんとなく?って答えが戻ってきた。
あの人の言うことが正し行ければ、この二人の旅は、世界を滅ぼすって言う......それは正しいのか、この目で見定めなきゃ。