プロローグ2
「うーーーん!今日もいい天気だ!」
朝、俺の目が覚めた。軽く体を伸ばして、ベッドから降りてきた。
外は小鳥たちの鳴き声が響いて、太陽の光で世界が活気にあふれてる。そして俺は、今日も訓練に勤しむ。これは勇者である俺のやるべきことだ。
今はまだ名が広くないが、そのうち全大陸中から勇者の歓声が響くだろう。
俺は勇者、職業でも自称でもなく、俺の名前だ。お母さんの願いを込めた、俺だけの名前。
部屋から出て、階段を下りて、顔洗ったら師匠の声がした。
「勇者ー!早く飯作って!」
「はいはい、わかってますよ。」
今も変わらずに、師匠は俺の料理が大好きだ。昔は「町のレストランより全然うまい!」てよく言うけど、今はそんなこと言わなくなった。ちょっぴり寂しい気持ちだ。
「はい、できた。」
「わはーオムライスだ、旨そう!いただきます!」
手を合わせて、一緒に言った。
飯食ってる場合じゃないぞ!って言ってるように、外は大騒ぎだ。
だがそんなのどうでもいい、今はただ飯に集中すればいい。と、師匠がいつも言ってる。
でも......
パ―――ン!
今日はちょっとおかしい。
「爆発?何があったのかしらね。」
「......ちょっと見てくる。」
「気をつけなさいねー勇者。」
外に出て、俺は見た。
「あれ、なんかおかしいぞ?」
今は朝、朝6時くらいのはずなのに。
王城のところは真っ赤だ。まるで何者かに火を放たれたように。
「俺、ちょっと王城に行ってくる、師匠はここで待ってて!」
「はーい。待ってるね。」
本来は師匠も一緒に行くべきなのだが、師匠はちょっと訳があって、王城に行けないためいつも俺一人で調べてる。
師匠はすごい人だ。刀だけではなく、剣も、槍も、魔法も、何もかもすごい。
おそらくだが、彼女は俺一生でも超えそうにないほどの戦士だ。そんな師匠がなぜこうなったのは、俺は知らない。
俺と師匠の家は王城から歩く1時間くらいのところにある。
それは、師匠は追放された者だから王城に住めない、入ることすら禁じられてるから。
「これはーー!?」
町中が死体だらけだ。
人族だけでなく、魔族の死体もある。
「魔族が攻めに来た」としか思えない。
なんでだ、おかしい。魔族とは同盟を結んでるはず。なのに魔族が攻めに来た?一体なんでだ。魔族は簡単に同盟を破ることはしないこと、それは俺たち人族が一番知ってるので、防衛はしてなかった。でも、一体どうしてだ。なんで攻めに来た?
「ギギギ!」
「!?」
魔族が襲い掛かってきた。
キン!
剣で奴の爪を防いだ。
「なんで攻めに来た、お前らの目的はなんだ!」
「てめぇら人族が一番知ってるんだろうが!クフル様を返せ!」
「クフル様......魔王様がどうしたの?」
「てめぇらに攫われたんだよ!まぁ、魔王様のおかげでこうして攻めにこれたから感謝してるけどね!ギギギ!」
なっ!?
魔王が攫われた?ふざけてる。あの魔王様が、あのクフル様が?どう考えてもあり得ない!
クフル様は大陸三大魔王の光明、暗黒、月下の三人でも勝てないって言われてるほどの強者だぞ?なのに俺たちに攫われるとか、ふざけてる。
それに......感謝してる、だと?まさか元々攻めてきたかっただと!?
「クフル様を返さないならそれでいいや、おいらはてめぇらを滅ぼしに来たんだし!」
「させるか!」
バサッ!
剣が切り裂いたのは魔族の体。
.........
......
...
「オラ、早く歩けラス!」
「やだやだやだ、帰らせてよ!」
ん?
それから城に向かって歩くと、二人の男女と出会えた。
年の差はあんまりなさそうな上に、なんとなく姉弟って感じがした。
「ちょっと、君たちも早く逃げたほういいよ。」
「あ?アンタ、誰に向かってッ!」
な、なんだ、このプレッシャーは!?
姉は何か言いたそうだけど、弟に止められた。
「お兄さんは逃げないの?」
「逃げないよ、お兄さんは勇者だからな。」
「勇者......!」
なぜか弟の目がキラキラし始めた。まぁ、勇者にあこがれるのは俺だってそうか。
今はまだ本物の勇者じゃないけど、そのうちなれるだろう。
姉弟の後ろで魔族が何人迫ってきた。
「とにかく、二人は早く逃げて!こっちはお兄さんに任せて。」
「は?逃げろだって?俺はーー!」
「ここは勇者様に任せて、早く逃げようよ、プリスティンちゃん!」
「ちっ!今の俺はこいつを守る義務があるから......任せたよ、自称勇者さん!」
タッタッタと、走り出した姉弟。
「ここは通さないよ、魔族ども!」
.........
......
...
時間を戻して、二時間前。
郊外のある洞窟にて、俺とさっき攫ったガキと一緒に雨宿りしてる。
「おい、アンタ。名前は?」
「うええん、お父様、お母様......ラス怖いようう。」
「泣くな、男だろ!」
「男だって泣いていいじゃないか!うえええええん!」
「困ったな......」
俺は子供が嫌いだ、何時も泣くばかりでちゃんと話すこともしない、最低な存在だ。
だが、気が知れて俺は、なぜこいつを誘拐したのやら......
あの時、俺は一体何を考えてるのやら......あぁぁぁマジでどうなってんのよ!
「うえええええん、おかあさまああああああ。」
「うるせぇよ!それ以上泣くなら、殺すぞ!」
「う、うう......」
お?ようやく泣き止んだか?
「うええええええええええん!!!」
「うるせぇよ、魔族どもにばれたらどうするんだよ!俺が殺されても平気か!」
「いいもん!魔族が来たら僕は助けれるからいいもん!」
「その前にお前を殺すぞ。」
「ヒッ!」
奴を見る目は本気だ。だが、いまいち殺気が立たない。
なんでだろう、こいつは......いまいち殺す気が起きない。こいつが俺の腕を治ったから?知るか。
そんな理由で人を殺められなくなるなんて、俺らしくない。
「話を戻って。名前はなんだ、教えろ。」
「ラスだよ、さっきも言ったじゃないですか。」
「父の名前はどうでもいい、聞きたいのはアンタの名前だ。」
「だからラスってば!信じてよお姉ちゃん。」
「お姉ちゃんって呼ぶな、ガキが。俺はプリスティン......まぁ、アンタには「奥様」って呼んでもらうけどね。」
「ふえ、なんで?」
「アンタは俺の所有物だからな、奥様で呼べ。」
ぶっちゃけると、今ここでこいつを殺して戻ってもいいけど、なぜか手が出せない。こいつが左腕を治したからとかそういう関係じゃなく、他に原因があるはずだ。
俺はそんな生ぬるい覚悟を持つわけがない。いや、持ってはならない。
「いやだよ、プリスティンちゃん。仲よくしよ?」
「けっ!誰がアンタのような魔族と仲良くするもんか!」
「なんで?」
「いちいち聞くな、殺すぞ。」
「すぐ殺すなんて言わないほうがいいよ、プリスティンちゃん。でないと、性格が疑われるのよ。」
「あ?」
「ヒッ!」
本当、マジで何なんだよ、このガキ。
ラス=クフルはこんなガキじゃないだろ、もっと立派な大人だろ?もっと立派な魔王だろ?
そうでなければ、昔の手紙で感じ取ったラスのイメージが崩れてしまうじゃねぇか。
あの残酷で、傍若無人なラスのイメージが崩れるじゃねぇか。
今更だが、ここだけ見れば、まるで俺が悪者じゃねぇか。俺は正義だぞ!
「アンタがラスなら答えるはずだ、なんで俺を攫おうとした。」
「ふえ?なんのこと?」
「とぼけるな!」
ポケットから予告書を取り出す。ガキはすぐ拾いて広げた。
それは、ラス=クフルが俺を攫おうとした予告書だ。
「これはーー!?」
「まさか知らないとは言わないよね?アンタがラスならわかるはずだ!」
「......」
そしての無言。しばらくした後、ガキが口を開いた。
「グランさん......俺にも隠してこんなことを......」
「グランさん?あのグランバールか?」
「この予告書はグランさんが書いたものだ、僕ならわかるよ。」
「ふん、信じがたいね。あの闇の騎士様だぞ?」
「だからこそだよ。グランさんは僕の魔将軍だから、僕の代わりにいろいろできるのよ、偽物の予告書でも書ける。」
ふん、だから?
魔将軍だから王の代わりにいろいろできる?それは嘘だと、俺は知ってる。
親父に教えられたから。魔将軍とは、魔王を守るだけのために存在している。だから魔王の名を決して自らの手で汚すことはない。
でも......こいつ、嘘をつくような眼をしてない。
俺が間違ってるとでも?ありえない!
「何より、このスタンプ。」
「スタンプ?」
「これ、グランさんのものだよ。僕はスタンプ持ってない。」
「嘘。」
「嘘じゃない!」
な、なんだ、こいつ。急に強気になりやがて......
これが本当だとしたら、あの魔将軍は一体何をしようとしてる。俺を攫って何がしたい。
「じゃあ教えろ!魔将軍はなぜ俺を攫おうとしてる、何のためだ!」
「そ、それは......」
......
って、俺は何をしてる!子供にそんなこと聞いても意味ないんだろ!
でも、一体何のためだ。グランバールは何のために俺を攫おうとした。
ん?
「雨、止んだな。」
「やった、これでかえ......」
「行くぞ、ガキ。」
「返してくれるの!?」
「するわけねぇだろ、頭大丈夫か?」
「うっ。」
「アンタは俺の所有物だ、俺の部屋に招待してやる。」
「やっぱりそうなるか、はぁ......」
洞窟から出て、王城に向かい始めた俺とラス。
この先にあるのは、真っ赤になった俺の城であった。