プロローグ
「くっ!どうやら一筋縄じゃいかなみたいだね......どうするものか。」
今の俺は、魔王城の外壁の中にいる。
ここへ来た原因は一つだけ、攫われないようにさっきにやつけることだ。誰を?そりゃあ魔王に決まってんだろ。昨日の朝、届いてたんだ、魔王からの手紙がな。
「じきに来るだろう、王女が攫われることを......気長に待つがよい、王様よ。」
ふん!ふざけやがって。誰がアンタなんかに攫われるのか。
俺は、この俺「プリスティン=クリティフス」はそう簡単におめぇのような臆病者に攫われねぇよ!
「誰だ、そこの者!」
「くっ、バレたか!」
俺としたことか、まさかバレてしまったとは......致し方ない、殺すか。
「これはこれは、プリスティン姫じゃありませんか。」
ん?やけに友好的じゃん、これなら最初から潜入しなきゃよかったかもしれないね。
「そうよ、プリスティン=クリティフスだ。魔王に会わせろ。」
「それはできません、どうかご了承を。」
「なんでだ、俺を攫いたいくせに。俺が直々に来たんだぞ、攫う手間を省けたじゃねぇか。」
「それはうれしいでございますが......」
ーー!
シュッ!兵士の右ストレートを避けた。
危なかった、あれに当たったら俺の玉肌がどうなることか......まぁ、肌とかあんま気にしてないが。
「どういうつもりだ。」
「どういうつもり?簡単なことだ。ここであなた方をーー」
「ふん!」
シュッ!ズブッ。手にしてたダガーで兵士の体を刺した。
俺をどうしたいかはわからないが、先にやらなきゃ戦士としては失格だ。
「ブハッ!」
血を吐いた彼の首に、さらに一撃を。
......
「これで良し、かな。」
あれを片付いてから、俺は魔王城の中に潜入しようとした。
と、そこで気づいた。こいつの鎧着ればいいのではないかと。
サイズはあんまり合わないが......まぁ、何とかなるだろう。どうせ夜だし、あんまり見えないはずだ。
「おいお前、そこで何をしている。」
「お前?」
着替えが完全に終わる前に、別の兵士が俺の存在を気づけた。
「口を慎め、俺は王女だぞ!」
さっきの兵士の剣を取って、斬りかかった。
「いたぞ、こっちだ!」
なんということだ、台無しじゃねぇか、何もかも。
最初は静かに潜入して、ささと魔王を殺して帰ろうとしてたのに、大騒ぎになってしまった。
「邪魔だ、魔王に会わせろ!」
「クフル様に合わせる訳ないだろ、曲者が!」
キン!キン!剣と剣が斬り合って、音を響かせた。
曲者だと?なんと無礼なものだ、俺は王女だぞ!
それに、お前らが攫おうとしてた王女が直々に魔王に会いに来たのだ、感謝してほしいものだ。
「俺は曲者じゃねぇよ!」
「黙れ!曲者め、成敗してやる!」
「俺は王女だぞ、口を慎め!」
ブシャーと、首から血が大量に噴出した。
まったく、今頃の若者は......王女に対してなんて態度だ。
やれやれと、首を横に振ってる間に、それが起きた。
ーー!
「さすがはクリティフス族の王女様だ、よく避けれた。」
「魔将軍グランバール!」
俺に斬りかかった者がグランバールとは、これは驚いた。まさかあの名高きグランバールがこんな小癪な手を使うとは。
魔将軍グランバール、うちでは闇の騎士様とまで呼ばれた存在だ。そんな「騎士様」が俺のようなか弱い女の子に剣を振るうなんて。
「クフルに会わせろ、それか俺を攫おうとした理由を教えろ!」
「それは無理なご相談だ、どうかご了承してください。」
「なぜだ。」
「これも機密なので、ご了承くっ」
「はーー!」
シュー、カン!
「なっ!?」
剣が、はじかれただと!?
「話を聞いてください、姫様よ。」
ちっ!
なんて屈辱だ、まさかただ防いだだけとは!
「なぜ切らない!」
「あなた様には大事な役目がございますので。さぁ、剣を納めて、話を聞いてください。」
「言わないのがそっちだけど?」
シュー、カン!
また!?
「これは......少々痛まないと話を聞いてくれそうにないな。」
「痛まないと話を聞かない?すまんな。」
シュー、タ。
距離を取って、また剣を構えた。
「何されても話を聞くつもりはねぇよ。かかってこい、このクズが!」
「やれやれ、致し方ありませんね。」
そして、あいつも剣を構えた。
......
「はぁ、はぁ、はぁ...」
くそ、いてぇな、まさか左腕が斬られたとは。
あいつの強さは尋常じゃない。さすが魔将軍といったところか。
とにかく、運よく倉庫に逃げ込んだから、しばらくここで......
「誰ですか?」
「ッ!」
ここは倉庫......いや、違う、ここは!
暗闇の中で一人の少年がキャンドルを灯って、俺のそばに来た。
ここはたぶんこの少年の寝室だろう。外は大騒ぎなのに、よく一人で居られるな。
「近づくな!」
手を振り上がりたいが、どうも力が入らない。切られた左腕から血が流れ出してる。
「ヒ、ヒドイ怪我!ど、どうしよう......」
「近づくなっていってるだろうが、これ以上近ついたらーー!」
「光の聖霊よ、我が盟約に従い......」
「詠唱するな、このっ!」
......いや、待て。
光の聖霊?こいつが?こいつは角も生えてる、背中にも魔族の翼がある。どう見ても魔族なのに光の聖霊と契約を......?俺でさえできない、光の聖霊と契約を?
「腕がーー!」
生えってきた。文字通り、左腕が生えた。まだ力が入らないが、これで少し......
「お前は何者だ、少年。」
「僕ですか?僕はラス!ラス=クフルです!お姉ちゃんは?」
「俺は誰でもいいだろ、どうせお前はすぐ死ぬさ。」
「え、死ぬの?なんで?」
剣を掲げて、振り落とそうとしたが振り落とせなかった。
ラスと名乗ったこいつは怯えながら、こっちを見てる。
「僕を斬りたいの?なんで?僕、何かしたの?」
......
こいつが俺を攫おうとした魔王とは思えない。だけど、ラス=クフルはこの魔王城の主のことは間違いないはずだ。
でも、こいつが?こいつが俺を攫おうとしてたの?今も泣き出しそうなこいつが?ありえないとしか思えない。
じゃあ......一体......
「クフル様、大丈夫ですか!」
扉が破られて、兵士どもが入ってきた。
「ちっ!」
「逃げるぞ、少年!」
「え、なんで?なんで逃げるの!?お姉ちゃん悪い人だったの!?」
「いたぞ!こっちだ、クフル様の部屋だ!」
「皆助けてーー!」
何をやっているのだ、俺は。
なぜこいつを連れて逃げ出そうとしてる?
なぜこいつを抱えて窓から飛び出そうとしている?
なぜこいつ......ほっとけないのだ?
「うわああああああああ、助けて皆!」
「うるせぇよ、騒ぐな!」
「僕なんかしたの?どうしていじめるの?いじめないでよ、うわあああああああああ!!」
「いいか、小僧。」
「小僧じゃない、僕はラスだ!」
「うるせぇ黙ってろ!」
「ヒッ!」
「今日からてめぇは俺のものだ、文句を言うな。」
「いやだよ、返してよ!うちに返してよ!」
そして、なぜだ?
なぜ王女である俺が、魔王であるこの小僧を攫ったのだ?