7話 漆黒の執事
「フフッ、これはこれは。もう勇者様のお出ましですか。さすがに驚きましたよ。こんなに薄っぺらい脚本は」
特徴的なエメラルド色の目を細めて、初対面の潤に威圧的に挨拶を交わす黒執事。
何について言っているのか、よくわからなかったが、ただバカにされていることだけは瞬時に理解できた。
「いきなり、なんなんですか?僕は今ここに来たばかりで何もわからないんですけど、とりあえず、お名前聞かせてもらっていいですか?」
少しぶっきらぼうに問いかける潤に対し、全く取り乱さず冷静に執事は言葉を返す。
「これは大変失礼しました。私、デア トイフェルと申します。以後、トイフェルとお呼びください」
「ご丁寧にどうも。僕は天宮潤と言います。いきなりですみませんが、先ほどの勇者様と薄っぺらい脚本って意味がよくわからなかったのですが教えて頂けませんか?」
会って一言話すだけで、疑問が次から次へと雪だるま式に増えていく現状に頭がパンクしそうになる潤は少しでも負担を減らそうと、全くの他人に助力を仰ぐ。
「なるほど。来てばかりともなると、わからないことも多いでしょう。できる限りお答えしますよ。1つ目の質問ですが、勇者というのはあなたの事ですよ。特にそれ以上の事は申し上げられません。そして、2つ目の質問ですが、この世界の設定の話のことです。まさか、こんな殺風景な場所で物語が進むなんて思ってませんでしたから、少し不満を訴えただけです。以上で回答を終了とさせていただきますが」
1つずつ丁寧に回答したトイフェルは冷笑を浮かべ、頭を下げる。わざわざ説明してくれたトイフェルにお礼の言葉を送るはずだったが、聞き捨てならないワードがちらほら聞こえ、呼吸も忘れて考える。
トイフェルの言うことを全て信じるならば、どうやら僕は一高校生と言う扱いではなく、何度とプレイしたゲームの世界の冒険者|(勇者)と言う位置づけらしい。そして、世界の設定と言う言葉に心当たりがないでもなかった。
しかしながら、心当たりを認めてしまうと全部自分の非を認めざるをえない状況下であることを理解してしまった潤は苦渋の決断に悩まされた。
「これって、もしかして全部僕のせいって事?・・・」
心の中で呟いた言葉はよほど追い込まれていたのか、声に出ていた。