6話 この世界の手がかり
現実離れしたこの世界は一体何のために創られ、なぜ自分をこの世界に招き入れたのか。
「ここは夢、なのか....」
それにしては妙だ。上半身を起こす時の身体感覚はほとんど現実と差異は感じなかったし、僕を見下ろしている謎の少女が放った言葉は耳にまだ残っている。冷静に分析していたはずが、一向に何も見えてこない現状に苛立ちを覚えた。
世界のことを知ろうとすればするほど、その深みにズブズブと嵌りこんでいき、思考は停止に追い込まれていく。頭を抱え、苦悶の表情を浮かべる潤の肩を、忘れられていた少女が揺らした。
「ねぇ、何してんの? 何してんの? 早く行こうよー」
無気力な表情で訴える少女に、「うわっ」とまるで幽霊に肩を叩かれたように一瞬の悪寒を感じるほど驚かされたが、肩を掴んで離さない彼女の手の温かさは彼を落ち着かせるには十分だった。
「あ、ああ。ちょっと頭の整理がつかなくて」
「もしかして.....。そう、よね。いきなり飛ばされたんだもんね。無理もない....か」
「本当に何がなんだかさっぱりなんだけど、君のおかげで少しは落ち着いたよ。遅くなったけど、僕は天宮潤。君はさっき僕の名前を呼んでいたよね。どうして僕の名前を知ったいたのかな?」
彼女は左右に頭を動かし、その質問に回答することを拒否した。
「あれこれ疑問はあると思う。ーーーでも、いつこの世界が崩壊するか、わからない。今は出来るだけ前に進むのが大事だから、時間は無駄に出来ないの」
「崩れる...? この世界が....。わかったよ。今は君に黙ってついてくよ」
「ありがとう...」
この世界についてはもうさっぱりだ。把握できたことといえば目の前の「謎の少女が一人」存在している事と、無限に続く虚無の世界が続いている事、だけ。僕がどう、あれこれ立ち回ってもそれ以上の情報を入手する自信はなかった。だからこそ現状すべき行動は彼女に従うこと、これに尽きる。
とにかく、今は考えてもしょうがない。謎の少女のおかげで、頭の中がほんの少しだけクリアになった僕は膝をつきながら立ち上がった。
どこにいくんですか?などと野暮なことはもう聞かない。
謎の少女に、何もなく闇に包まれたこの世界。
自分の周囲には疑問の渦があちこちに渦巻いていたが、一遍に飲み込もうとするから自分のキャパシティを超えるのだ。
そして、目的地に到達するまでに刻々と時間が過ぎっていった。時間の概念がないこの世界で最も頼りになる「時計」は自身の疲労度合いだった。
当初は、この隙間時間を利用してあれこれ質問を投げかける予定だったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。彼女は腰に刺していた怪しい青白い光を放つ鍵のようなものに意識を集中させ目的地を割り出しているようだった。目をつぶり意識を鍵に向け、方向がわかると歩き出し、しばらく歩行を続けたと思ったら立ち止まり、再び鍵に問いかける。彼女は終始真剣だったので、情報を探り出すような、集中を途切れさせる行動は控える必要があった。
結果、未だに情報自体は一切増えることはなく、会話1つも無しにここまで来てしまったわけである。
ーーーここまで。
ハアハアと息を荒くし、ようやく到着したという場所に顔を出したのは一言で言えば「理想のお城」だった。絵画でちらっと見たことがあるような、海外の王子王女がまさに生活していそうな立派なお城だ。
僕は目尻から溢れた涙を袖で拭い、お城と向き合った。何もお城のきらびやかな姿に感動したからではない。ようやく、いや本当にようやく出てきてくれた白い床以外のオブジェクトに感激したのだ。さすがにもうこの景色はうんざりだと心中でそう思っていた矢先に、冷たい眼光で城を指差し謎の少女は言い放った。
「メインヒロインはここ」
「へ? どういうこーーー!?」
ワケのわからないことを言いだす少女に疑問文を返そうとした瞬間、城の入り口から真っ黒なスーツに身を包む、執事のような格好で現れた長身の男がゆっくりとこちらにコツコツと音を鳴らせて近づいてきた。






