5話 虚無異世界の誕生!?
「おーい。おーい」
誰かに呼ばれるように起こされた天宮潤は瞼をこすり、ゆっくりと重い瞼を持ち上げると、そこには眠そうな半開きの瞳が自分を凝視していた。
「わぁぁぁぁl!?」
驚いた潤は人生の中で最も情けない悲鳴をあげた。
覗いていた瞳が少しずつ後ろに下がり、ようやく全体像を把握したところで心臓がばくばくし始める。
ソレは体に合わない青い頭巾をかぶり、涼しい水色のリボンをちょっぴり盛り上がった胸の前で結わいている。
さらに頭巾から出ている部分から判断するに、髪は澄んだ湖のような明るい水色のショートボブで、潤を覗き込んでいた瞳は夕凪のようなどこか落ち着いた色をしている美少女だった。
「大丈夫?ーーージュン」
どうして知っているのか。突然、見たことも会ったこともない少女に自分の名前を呼ばれたことに驚愕し、女の子への耐性がない僕はさらなるパニック状態へと陥った。
「ど、どうして僕の名を!? いや、待て....」
全く現状を理解できない潤はパニックの少女を一旦無視して、まずはこの場所が一体どこなのかを把握することに努めた。
「な!?...これは....」
仰向けで捉えた上空の空模様。それは真っ暗でありながらも夜空と呼ぶには程遠い。散りばめられた星々のオブジェクトがあるわけでもなければ、世界を照らす太陽もない。もちろん、雲や飛行機など空に浮遊する物体なんてもってのほかだ。ただ視覚が閉ざされているというわけではない。事実、目の前にいる整った少女の顔はバッチリと見えているし、どこまでも続いている真っ白な床も申し分なく確認できている。
この状況を最もシンプルに言い表すとすれば、「虚無」このワードが一番ぴったりくる。僕は詩人でもなければ小説家でもない。だからこんな稚拙な言葉でしか表現できない。しかし、こればっかりはお手上げだ。他にどう表現すれば良い。「暗闇」か、はたまた「暗黒」か。ぴったり当てはまる言葉が見つからないのだ。
なぜって。周囲を見回せば、文字どおり何も存在していない常軌を逸した状態だからだ。
周りには少女が1人いるだけで物というべき物はどこへいったのか、視界にはまるで映ってこない。
それを証明するように「背景」という概念は完全に消されていて、どこもかしこも闇が広がるだけだったが、それとは対照的に全て真っ白な床。
僕は断言できる。ここは....地球ではないと。そして、今感じているあまりにも不安定なこの光景は地球で創られる言葉で語れるほど優しいものではないだろう。なにせ地球にはない全く新しい概念がここには存在してしまっているのだから。
理解に苦しむ潤は知らず知らずに「己の想像した世界」に対してこう思っていた。
「一体誰がこんな世界を作ったのだ」と。