3話 異世界ノート
そこには間隔をあけて、いくつかのルールと呼ぶべき文が既に記されていた。
1つ、1週間に500文字以上のペースで、あなたは4つの異世界を執筆しなければならない。
2つ、あなたは自らが用意した異世界に入り、お題をクリアしてストーリーを完成させなければならない。
3つ、書いたからといって実現できるとは限らない。
4つ、セーブポイントを執筆することはできない。
セーブポイントは物語上で勝手に出てくるので、それに従うこと。
5つ、以上のルールのうちどれか1つでも破った場合にはペルーシュとなってしまうのでご注意を。
「何これ、もしこれが本当なら幸運だよ、超幸運だよ!」
これまでにゲームや漫画、アニメ、そして小説など様々なエンターテイメントで楽しんで来た僕だが、最近では異世界転生ものが大好物である。もちろん、見るのも読むのも、「入るのも」である。まあ、最後のはまだ未経験なのだが。
「異世界」という言葉を目にして、アドレナリンがガンガン分泌され、抑えられない興奮が僕をあっという間に支配していた。
「異世界を執筆して、その異世界に入れるってもし本当なら最高ーじゃん!!」
僕の目はまるで遊園地を見せられた子供のように輝いていたに違いない。「異世界」という文字がどうしようもなく眩しく見えていた。一人で舞い上がり、両手でノートを手に取ると立ち上がった。
こんなことは現実的に考えてありえない話であって、十中八九そんなことは起きない。が、現実離れしたこの「ぬいぐるみ」がもしかしたらという期待を膨らませ、1度は確認せずにはいられない。
おもむろに机の引き出しからシャーペンを取り出すと、椅子に深く座り異世界を書く準備を整え、いざペンを走らせようとした時だった。
再びオカルトグッズが陽気に歌いだし、上がり出していたテンションが一気に寒気へと代わった。
「綿くれ、綿くれ、こんにちは。異世界万歳、こんばんわ。お題は姫君救助の一択で。しっかり寝なよ、おやすみさん」
一人しかいない部屋であまりにも突然すぎて、心臓が凍りつき、身の毛がよだった。
「.....!? ビッックリしたぁぁ〜。こ、こいつ...」
驚きの声を漏らした僕は誰に見られた訳でもなかったが恥ずかしさを覚え、「ペルーシュ」なるぬいぐるみへの苛立ちを殴るでも蹴るでも晴らすことなく、片手で首を力一杯掴みながら。
「お前に用はない!!」
ダンボールへと投げ入れた。ナイス・イン。そして、ぬいぐるみにかけられた横へのベクトルがダンボールへと伝わり、ドアの前に激突した。
そして、まるで封印でもするかのようにガムテープで完全に箱の口をぴったり塞いでやった。最後の仕上げとして部屋のすぐ外に放り出すと、壁のゴミ出し表をちらっと確認した。
「どうやら明日が可燃ゴミの日みたいだ」
不適な笑みを浮かべて、再び椅子に戻るとシャーペンを手に取った。
「さ〜て、どうするかな」