2話 始まりの挨拶
僕は早速、目の前の珍妙なオウムのぬいぐるみを手に取り、品定めを開始した。
右手で掴んだぬいぐるみをいろいろな角度から眺めてみると、やはり気持ち悪いという感想に落ち着く。
「これ、ほんとに効果あるのか.....」
オウムの体はカラフルではあるがフランケンシュタインの顔にあるような不気味な縫い目がいくつも施されていて、とても幸運を呼ぶような代物ではないという見解に至るのは当然のことではないだろうか。
これ以上こんな不気味なものをここに置いておくのはこの部屋に不幸を呼び寄せるだけだと感じた僕は手に取ったオウムをダンボールに戻そうと動いた。
その瞬間、ぬいぐるみからベロンと細いヒモが伸びていることに気づいた僕は、子供心をくすぐられた。
不吉なオウムをこれ以上部屋において置きたくない気持ちとヒモを引っ張ってみたい気持ちが鬩ぎ合い、オウムを箱に戻す手が止まる。
「....どうせ捨てるんだ」
迷った末に、好奇心に負けた僕はまるで蜜が流れるようにヒモをゆっくりと慎重に引っ張った。
最後まで引っ張り終え、手を離すと奇怪なメロディーでオウムは口ずさむ。
「綿くれ、綿くれ、こんにちは。まずはおめでと、こんばんは。キミィはこれから小説家ー。我が名はペルーシュ、おはようさん」
「なんだ!?.....これ!!」
驚きのあまり言葉に詰まる。
そして、本当に驚かせたのはここからだった。
なぜなら、引っ張ったヒモは元の長さに戻っているのにもかかわらず、あのけったいなオウムはまだしゃ、べ、っ、て、い、た。
「ノートをミロ!ノートをミロ!」
「な.....そんな、ありえない。紐は.....戻ってるのに、こんなことが」
普通では考えられない現象に頭がついていかない。これはぬいぐるみ....だよな。ぬいぐるみだ、ぬいぐるみに決まっている。が、どう見ても自発的に動いているようにしか見えない。これはぬいぐるみという着ぐるみを来た一種の生き物であると認めざるをえないところまで来ている。
思わず唾をごくりと飲み込んで、冷静に目の前の起こった出来事が現実であるとなんとか、いや無理やり飲みくだして僕はとりあえず言われた通りノートを手に取り、1ページ目を開いてみることにした。