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森の主

ふよふよと、浮く。


数日前までは、このアリにまでビクビクしていた。


ワームにだって、蜘蛛にだって・・・


ここに住む動物なんて、もう雲の上の存在のようだった。


ずるい、とは思う。けれど、僕は元々寄生体。


そして、余りにも弱すぎた。


だから、そんな事は言ってられないのだ。


幾ら僕が強くなったといっても、それはあくまでも能力の話。


戦闘経験皆無の僕に、この能力を使いこなせるのかといわれれば、それはムリだと言える。


魔法に関しては、無防備の状態で食らったとしてもある程度無効化出来るのは分かった。


けれど、物理はまだ分からない。


飛行の速度も随分と速い。以前の僕なら目で追う事等出来ない速度だ。


けど、速過ぎて制御が出来ない。


転移だって、咄嗟に使う事なんて出来ない。


光線を爆発するよう切り替えるのだって、少しラグがいる。


相手が戦いなれていたら、いかに能力差があれど遊ばれてしまうだろう。


・・・焦らずに、いこう。


すぐに手に入る代物じゃないというのは理解している。


焦りは禁物だ・・・これは僕の経験則だった。






◇◆◇





ビュンビュンと、木々の間を掻い潜る。


僕は、この森の主の下へと向かっていた。


やがて出たのは、綺麗な泉。


そして、巨大な洞窟。


魔物が寄り付かない場所にある、巨大な魔力。


その魔力の持ち主が、その洞窟に居た。


ふよふよと、浮いて会いに行く。


暗いけれど、僕の視界にそういうのは余り関係ない。


奥へ奥へと進んでいくと、やがて・・・見えた。


余裕飄々とこちらを見つめている、巨大な生物。


以前までの僕ならば、一瞬で服従の意を示すだろうヒシヒシと感じる圧倒的な力。


この世界にきて、はじめて見る・・・それは正しく、ドラゴンだった。


青い、ドラゴン。


鋭い眼光に、怯みそうになる。


ドラゴンの口元に、魔力が密集していく。


僕は自分の目の前に壁を出し、待ち構える。


ドラゴンの口からその魔力・・・ブレスが吐き出された時、僕はドラゴンの頭上に転移した。


ブレスが跳ね返され、ドラゴンの顔に直撃する。


困惑めいた、怯みの声。


頭上から、光線を放つ。


が。


パァンッ!


と、そんな音と共に弾かれてしまった。


ダメージは・・・余り効いていない?


表情を歪め、恐らく怒っているのだろう。


暴力的な魔力を放出し、僕を探している。


流石、ドラゴン。


この森の主。


恐らくこの暴力的に撒き散らされた魔力には、僕という存在を察知する効果があるのだろう。


ドラゴンは確信めいた動きでこちらを向き、手を振り下ろす。


素早く飛行しその手を掻い潜る。


驚いた表情のドラゴンの目の前で、再び光線を放つ。


パキッ・・・!


ドラゴンの持つ鱗が、割れる音がした。


『グギャアアアアアアアアアア!!!』


洞窟が、揺れる。


僕に耳というモノがあれば、鼓膜が破れていたかもしれない。


僕の唯一の攻撃手段。


細くしたり、太くしたり、威力を調整したり。その調整にはまだまだ時間がかかっていて、使いこなせているとは到底言えない。


暴力的な魔力が、ドラゴンの身体に集まっていく。


余りにも膨大なエネルギーに、大地が揺れる。


・・・おこなの?


いや、普通おこるか。痛かったもんね。


この攻撃がどれだけのモノか、僕は知らない。


故に、一時撤退する事にした。


3秒。1秒に一度転移し、3秒後には既に、遠く離れた地上に、崩れていく洞窟が見えた。


ドラゴンの放ったブレスがそれを全て吹き飛ばし、更に森の奥深くまで突き進んでいく。


これが、ドラゴンの本気・・・


今更ながらに、ゾクリとした。


流石に殆どの魔力を使い切ったのか、ドラゴンは先ほどまで洞窟があった、空けた地でぐったりとしていた。


このまま、今日のところは退くつもりだったけれど・・・


僕の身体は、初動からトップスピードでドラゴンの下へと向かっていた。


これは、またとないチャンス。


僕はドラゴンに気付かれる事も無く、内部に入り込んだ。





◇◆◇





その日、我はいつも通り眠りについていた。


そしてその眠りは、まるで我を挑発しているのかというような魔力によって、起こされた。


この森を支配して、二年という月日が経つ。


短いようだが、森に住まう力の有る者共の殆どを地に伏せるには、十分な期間だった。


その証拠に、ここ数日は最早この森には既に力の有る者が居ないのではと思った程に何事もなかった。


…だが。まだ、我に向かってくるものがいたのか…今まで何をしていたのかは知らないが、そうであるならば、正面から叩き潰すのみ。


寝床でそのまま待ち構えていると、やってきたのは予想外に小さな生き物。


しかし、その背景には全く読めない、未知数の強さがあった。


成る程、今まで相手してきた者共とは少しばかり違うか。


だが、我が負ける事など有りはしない。我の糧となり、朽ち果てるがいい。


我は生物の頂点たるドラゴンの王族。


未だ若く、成体に成り切っていないとは言え・・・このような小さきモノに負ける道理は無い。


この我に未知数と思わせた、背景に見えるその強さは見事と言えよう。


だが、所詮は名の知れぬ特異体。世に名を轟かせる程の年月を、奴は過ごしていないと見た。


そう、これが我の油断。その見えぬ実力というものを、世に名が通っているかどうか等という浅はかな考えによって蔑ろにしたために生まれた、致命的なまでの、要因。


我はその油断に、慢心に。気付くことすらなく、只ブレスを放った。


あまつさえ、もう少し世を、我を知る程の年月を生きさえすれば、まだ楽しめただろう、等と考えて。


これは、死んだだろう。


無防備な相手に直撃し、そう思った。


只ブレスを放ったと言いはしても、手を抜くなどといったことはしていないのだ。


確かに、実力を探ろうとはしなかった。だが、いかに隠された実力があろうとも、この我のブレスを無防備な状態でまともに受けては、どのようか生物とはいえ、致命傷に値する。


それは、慢心といえるのだろう。だが、紛れもない事実でもあったのだ。


…そう、この時までは。


無防備な状態でなくとも、我のブレスを受けたものは満身創痍な状態となっていた。


名の知れた力有るものの悉くが、だ。


そしてその相手の殆どは巨体を誇り、小さきモノの全ては大抵消し炭にしてきた。


故に、我は終わったと思ったのだ。


だが。


何事か、我のブレスは跳ね返り、我の顔に直撃した。


何が起きたのか、分からなかった。


こんなことは初めてで、前例が無い。


だが、この時。慢心し、油断し、相手を知らず、知ろうともせずに見下していた我は。


どのような手を使ったにせよ、と。


相殺するならば兎も角、あろうことか跳ね返されたことに。我は、我を嘗めたような手段を取ったことにより屈辱を感じ、怒りに支配された。


そこで、追撃をかけるような、更なる一撃。


ヂクッとした熱さ、そして衝撃を、頭に感じた。


我の鱗を通じて、熱を・・・!!


屈辱だ!!!!


絶対に逃がさん・・・ッ!


我は自身の魔力を発散させ、小さきモノの魔力を捕らえる。


全身全霊を以て、叩き潰す・・・!


我はこの時、自慢のブレスを弾き返されたという紛れもない現実を受け入れることが出来ず、未だに相手を見下していた。理解したくなかったのだろう。


それほどに、我は自身のブレスに、自信を持っていたから。


事実に目を反らし、相手の力量を読み違えた自身に向き合えず、愚直なまでに、あくまでも見下し続けた。


振り向き、手を振り下ろす。


小さきモノは、我の手を掻い潜り、目前に迫る。そして小さきモノは魔力を溜め…不味い。


と思ったその時には、既に発動されていた。


展開と発動が同時だと…!?速すぎる・・・ッ!!


そしてその速さに追随するような、馬鹿げた威力。


パキッ・・・!


そんな音とともに、我は肉体へ直接のダメージを受けた。


『グギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


未だ嘗て感じた事の無い程の、痛みを感じた。


我の鱗を割り、直撃ダメージを与えたというのか・・・!?


有り得ぬ!あの速度で魔法を発動させ、にも拘らずこの威力だと!?


一体どのような手段を…っ!!


ここで漸く、我は焦りを感じていた。油断状態から来た焦りに、我は簡単に呑まれてしまう。


このままでは、不味い。この速さ、そして生半可な攻撃は通じぬという現実。


焦りに呑まれた我は、勝てるイメージも、攻撃手段さえも思い付かせる事が出来なかった。


そして、その瞬間。或いは我は、理解していたのだ。勝つ術等、我には存在しないのだと。


この状況にしてしまった時点で、我は詰んでいたのだ。勝負が始まる前から、この戦いの勝敗が、決まっていたのだと。


そして、それを理解していたからこそ。ここで、我は全身全霊を込めたブレスを放ったのだ。


安易には使えぬ、力押しと言っても過言ではないその力は、正に破壊の化身と呼べる力を持つ。


これをすると、丸一日は動けなくなる。


通常のドラゴンでは身体が耐え切れず、不可能と言われている技。


我々王族が持つ、最早王族の証とも呼べる技。


凌ぐ事など出来ない。出来はしない。出来るものか。読んで言葉の如く、紛れもなく、我は全身全霊を込めたのだから。


負ける訳には行かない。


何としても、負ける訳には行かないのだ。何故ならば、我はドラゴンの王族。生物の頂点として君臨し、何もかもが我等を畏怖する存在。


その力に我等は誇りを持ち、最強を自負するのだ。


その最強の種族であるドラゴンの、最も力を待つ王の血を引く我が。こんなところで、負けるわけにはいかないのだ。


我の全身全霊を込めた一撃は全てを呑み込み、消滅させる。辺りに小さきモノは・・・居ない。


魔力切れによる反動で、ぐったりと身を地に伏せる。


危ない、ところだった。何だったのだ、奴は…


我は心のどこかで、この攻撃すらも通じないのでは、と。確かな恐れを、あの存在に抱いていた。


…だが。この付近数百メートルに魔力は感じず、全てが消し飛んだ事を理解し、安堵する。


今の状態では、ろくに身動きも取れず深層の魔物に襲われたら、少しヤバいか・・・と思っていた、その時。


我の魔力探知に、奴の魔力が引っ掛かる。


なん、だと・・・!?


グングンと近寄ってくる魔力に、我は恐怖を抱いた。思考をする余裕、時間など既に無く、そのスピードは魔力探知のギリギリの距離から自分までの距離を刹那の時間で詰めた。


い、嫌じゃ。死にたくない・・・!!


最早顔を動かす事も出来ず、姿を見る事は適わない。


それが余計に、恐怖心を増大させた。


死にたくない、死にたくない、死にたくない・・・っ!


我の身体が、余りの恐怖に震え出した時。


小さきモノは何と、我の身体に入り込んできた。


内部から・・・食い殺すつもりか・・・


その結論に至ってしまった時。我の心は恐怖心に折られ、気絶してしまった。



◇◆◇




ドラゴンが魔力切れにより、気を失った。


目を覚ますまでの間、僕は好機といわんばかりにドラゴンに襲い掛かろうとするこの森の魔物達を駆逐していた。


うじゃうじゃと、湧いてくる。


こんなに森に生息していたのか、と思う程。


あれからもう、大体5時間ほど経つかな?


その間僕は、機関銃のように光線を放っていた。


やっぱりこの辺の森の魔物は優れているみたいで、魔力を察知して僕の光線を避けようとする。


結局避けれなかった魔物や、距離故に避け続ける事が出来ている魔物、色々と居るけど・・・


体力がなくなってきたと思った時には、死んでいると思う。


だって、避けながら退けるレベルの弾幕じゃないもの。


僕も自分の魔力がいつ尽きるか分からないから全力で放ってる訳ではないけど、逃げる事は出来ないと思う。


四速歩行だし。前を見ながら後ろに後退出来るなら、話は別かもしれないけど。


森の魔物の死骸が量産されていく中、僕の頭の中にドラゴンの言語や、印象に残った記憶が流れ込んでくる。


もうすぐ目を覚ますのかな?


楽しかったけど、そろそろ僕も精神的に疲れてきた。


だから・・・円状に、壁・・・鏡って呼ぶことにしよう。


円状に鏡を作り、一息つく。


これだけご飯があったら、何ヶ月この地に留まれるかな・・・?


大量のごhゲフン。魔物の死骸を眺めながら、考える。


ドラゴンの魔力を食べようにも、魔力切れの最中だし、内部から肉を貰うわけにも行かない。


けど、体内から出てる時にドラゴンが目を覚ましたら困るし・・・


何とか、あのご飯を持ってくる方法は無いかなぁ・・・


と、そう思った時。


僕の身体がムズムズと動きだし、分裂した。


それはドラゴンの内部から外へ出ると、僕のミニサイズの姿になり・・・ご飯を美味しそうに、食べ出した。


そして、満腹になったのかこちらへ戻ってきて・・・ドラゴンの内部に入ると、僕の身体に吸収されていった。


お、おお。一匹、二匹と吸収していく度に、お腹が満たされていく感覚が。


これは・・・素晴らしい。


食べてきてくれる他にどんな事が出来るのか分からないけど、もしかしたら偵察のような事も出来るかもしれない。


これは剣の力でも碑石の力でも無く、僕の種族が持つ能力なのかな?


魔力を使った感じも、聖力を使った感じも無かったし・・・多分そうなんだと思う。


この感じだと、僕がまだ知らない隠された能力が、この身体にはあるかもしれない。


・・・さて。安全を確保して休憩するのは良いけど、これはこれで暇だなぁ。










あれからドラゴンが目を覚ましたのは、3時間ほど経った頃だった。


しかし未だ動ける状態ではないらしく、後数時間程時間が必要だという。


僕が内部に入り込んでいる事がバレていたのには驚いた。視線が合うことはなかった筈だけれど…魔力察知という、僕が良く使う察知能力と原理が同じものを使えるらしい。


これらの情報は全て、ドラゴンから流れ込んできたものでは無い。


ドラゴンは、目覚めた時には冷静な状態で、何故か達観した様子で僕に語りかけてきたのだ。


そうして始まった話し合いの中、僕がドラゴンを殺すつもりが無い旨を説明し、更に会話を続けていると…名前を聞かれた。


『ところでお主、名前はあるのか?』


【クレア。あなたは?】


僕の意志疎通の方法は、魔力を可視化させて形を作り、文字としてドラゴンの目前に発現させるお馴染みの方法だった。


人間の言語でも大丈夫だとドラゴンは言うが、知識には既にドラゴンの言語があるのでそちらを使う。


『我はルザイア。ルザイア・ヴィラ・ヴァハムド。ドラゴン族が王、ガルダタ・ヴィラ・ヴァハムドが娘・・・いや、お主にこれは必要無いか。つまるところ、我はドラゴン族の姫という立場にある。』


【ドラゴンの姫・・・何で、こんな所に】


人間の王族とは違って、自由なのかな・・・


『む・・・それは、じゃな・・・』


スパッと答えると思ったのだけど、ルザイアさんは何やら言葉を濁している。


家出とか、そんな感じかな・・・?


【言いづらいなら、大丈夫です】


取り敢えず、そう伝えておこう。そこまで詳しく聞く必要もないし、時間が経てば経つほどルザイアさんの知識は流れ込んでくるのだから。


『そう、かの?』


【はい】


『・・・ふ、お主は小さい割に随分と気が利くのじゃな』


僕自身が成長したからか、ルザイアさんの感じている感情がこちらに流れてくる。


それは、喜び。やはり、余り聞かれたい事ではなかったみたいだ。


『ところで、その・・・お主、性別はあるのかの?』


性別・・・うーん・・・この身体は・・・無い、という事になるのかな?


【分かりません。今のところは、有りません。】


『ふむ、そうか。それなら、いいのじゃ。』


何が良いんだろう・・・?


いや、ルザイアさんは女性なんだし、気にするか。


男だった、という事は・・・黙っていた方が良さそうかな・・・?


『悪いのだが、少し身体のサイズを変えても良いかの?』


身体のサイズを?


【ご自由に、どうぞ。】


どういうものなのかは知らないけど、そういった事に元々僕に主導権なんて無いし・・・うん、自由にしてくれれば良いと思う。


僕の書いた文字をルザイアさんが読むと、ルザイアさんの身体が発光を始めた。


そして、みるみるうちに小さくなっていく。


僕の身体もそうだけど、どういう原理なんだろう・・・?


やがて光が収まれば、そこには人型の少女がいた。


・・・んっ?


「ふぅ。」


少女は僕が驚いている事など知らず、呑気に寛ぎ出した。


というよりも、脱力して地面にべたっとなっているだけだが・・・


これは、不味いと思う。


僕は慌てて、ルザイアさんの裸体を隠せないかと試行錯誤を始める。


やがて僕の魔力がルザイアさんを包み込み、それは魔力で作り上げられた服へと変化した。


「む、そんな事も出来たのか。悪いな・・・いつもは魔力がある故、自分で服を作るのだが。」


そう、裸だったのだ。


裸の状態で、脱力していたのだ。


僕の視界は特殊で、全方向から見渡せる。だから、つまり・・・


い、いや。見てないよ?見てない。少し、見た気がしなくもないけれど・・・いや、結構見た気がするけれど、それはあくまでも服のサイズを、そう、サイズ。サイズを確かめるために・・・


仕方、無いじゃないか。僕だって男だったんだし・・・興味が無いわけが、無いのだ。


ましてや、ルザイアさんは文句無しに容姿が整っている。


見てしまうだろう、それは。


誰に言い訳をしているのかが分からなくなってきたところで、僕は心の奥底に、先ほどの映像を仕舞いこんだ。


「ところで、クレアよ。お主は我のように姿を変える事は出来ないのか?それだけの魔力、知能を有していながら、手足が無い姿で居るのは些か不便だと思うのじゃが」


うーん。そうは言われても・・・試しては見たけど、結構難しかったんだよね・・・


【維持が難しかったんです】


「維持が難しい?」


訳が分からない、といった表情と声色で、ルザイアさんは続ける。


「維持が難しいという感覚は、無いと思うのじゃが・・・」


上手く伝わらないみたいなので、僕はルザイアさんの身体から外に出て、見せる事にした。


出るや否や、逃げられるかもしれない。けど、まぁ・・・もし逃げられたとしても、何とでもなるだろうとは思う。


僕が寄生する理由なんて、知識と、空腹時に魔力を貰う、というメリット以外には無いのだから。


十分なメリットだけど、この間まではこれに自身の安全という巨大な目的があった。


今の僕は普通の魔物くらいなら倒せるし、今の僕を倒せる程の存在が現れれば、ルザイアさんの中に居たところで安全とは言えない。


まぁ、中に居させてくれるというのならそれに越した事は無いのだけど。


そんな訳で、僕は外に出た。


「む・・・っ、む?外に出たのか」


【はい。見せてみようかな、と】


「ふむ。見てみよう」


腕を生やすイメージで、身体に魔力を流し・・・生えてきた腕を、固定させる。


やっぱり、安定しない。これを自由自在に動かす事が出来るのか、全くイメージが湧かなかった。


「・・・なんじゃ?これは。」


ルザイアさんが、そう言った。



「何故そんな面倒な事を・・・というより、そんなやり方で腕1本でも維持出来るのが逆に凄いの・・・」


【やり方が、違うんですか?】


「うむ。考え方が、根本的に違う。我は人型をイメージし、身体を変える感覚で・・・ううむ、何と言えば良いのか。お主のそれは、何をイメージしておる?」


何をイメージしているか・・・


【腕を生やす、それを固定させる・・・です】


「生やすのではない。整体するのじゃ。」


整体・・・?


「上手く説明できる感覚では無い故、やってみるが良い。」


うーん・・・そんなので、出来るのかな。取り敢えず、やってみよう。


整体、整体・・・


人型をイメージして、整体・・・


感覚的には、自身の身体の大きさを変える感覚。


整体といえば、これしか思いつかない。


これを、人型に・・・


僕の身体が発光し、どんどんと人型に近づいていく。


お、おお・・・?


そして、やがて。


地球での自分の容姿をイメージするまでもなく、僕の身体は・・・人型へと、変化した。


髪が、綺麗な白銀色に。一瞬白髪かと焦ったが、しっかりと艶があり、色素もついていた。


性別が無いからか、肌がまるで女性のように綺麗で、白い。


顔は・・・面影が、しっかりと残されている。


けれど、日本人、という感じはまるでしなくなっていた。


何か、随分と綺麗になっちゃったな・・・


魔力で作り上げられたから、なのかな?


僕が最初に寄生した人、ロウルの知識にあるこの世界の女性像と、僕やルザイアさんの容姿はかけ離れていた。


「うむ!やはり美しい。想像以上じゃ!」


そういって笑顔を見せるルザイアさんに、僕は照れて苦笑を零した。


【ありがとうございます】


「うむ?喋れば良い。口もついているじゃろう。」


そ、そうだった。


少し顔を赤くして、僕は口を開く。


「ありがとう、ございます。ルザイアさん」


僕は久々にとったマトモな会話に、喜びを感じた。




◇◆◇---





「ところで、ルザイアさんは何歳なんですか?」


「む?今年で145歳になるかの。人間でいうところの、14歳程じゃ。クレアは何歳じゃ?」


「僕は、大体一ヶ月、ですかね。」


この身体では。


「・・・ん?済まんな、今少し耳の調子が可笑しくなったかもしれん。もう一度聞いても良いかの?」


「大体一ヶ月経ったかくらいだと思います。」


この後、3分程ルザイアさんは呆気にとられたような表情をして固まり、何やら達観した様子になって僕との会話を続けた。


小声で生後一ヶ月に負けたのか、と言っていたが、僕のこれは奪い取った力のようなものだから…いや、申し訳ない。

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