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いつか、また

・・・う


僕はクレーターの中で、目を覚ました。


生きてる・・・奇跡だ。


こんなクレーターのど真ん中で意識を手放して、食べられなかったなんて。


既に痛みの引いた身体で、軽快に浮き上がる。


この傷の治りの速さも、あの剣の魔力を吸い取ってから身に付いたものだった。


ピクッ


ガサ。


何かが居る気配がした。


物音がする前に、その何かの存在に気付く。


見つからないように隠れ、様子を見ながら僕は考える。


気配察知能力、というか、勘というか。


何度も死に掛けて、良くなってきているのかもしれない。


最初は物音一つにビクビクとしていたけれど・・・今はこんな事を考えながら、様子を見る余裕すらあった。


度胸とかも、ちょっとは付いてきてくれたのかも。


僕は可能な限り光線を細くして、虎以下猫以上といった感じの魔物の眉間に、撃ち込んだ。


その虎猫は声をあげる事もせず、ドサ、と地に伏した。


空腹感が襲ってきていたから、ちょうど良かった・・・


僕は辺りを警戒しながら、食事を始めた。




◇◆◇




イルミナさん達とはぐれて、3日が経った。


この3日での変化といえば・・・特に、無いかな?


強いて言えば、この周辺をあらかた探索し終えたというくらい。


戦闘は、6回程・・・イルミナさん達の言う魔物の基準でいえば、中型というやつ。


・・・うん。やっぱり撤回しよう、戦闘というよりも、不意打ちでワンキルした。


あの細身のゴーレムのように魔力を発散させる?とかいう能力を持った魔物は、未だ見かけない。


さて・・・この3日間の出来事についはこの辺にしておくとして。


今からの行動方針について、僕は考えていた。


僕は、弱い。余りにも、弱すぎた。


細身ゴーレムの動きの一つ一つに、全く反応をする事が出来なかったし、この手に入れた魔力、魔法だって使いこなせていない。


このままイルミナさんの下に戻り、前回のようにお荷物の存在になったままでいいのか。


もっと強く、遥かな高みを目指して、森の更に奥・・・恐らく今までとは段違いであると予想出来る、危険度の高い魔物達が住む場所に、入り込むか。


とは言え。僕の答えは既に、決まっているようなものだった。


そう。考えていたといっても、それは言い訳をして逃げるという選択肢が頭の片隅にあったからに過ぎない。


僕は、進む。このままお荷物のペットなんて、嫌だ。もっと成長しなければ。もっと強く、あんな細身ゴーレムなんてちょいっと倒せるくらいに・・・いや、ちょいっとはムリかもしれないけれど。


死ぬかもしれない。


絶望を知る事になるかもしれない。


でも、こんな世界にこんな姿で生まれ落ちて。


そんな事を恐れて進まなければ、ずっとこのままだ。ずっとこのままなら、遅かれ早かれ僕は死ぬ。


それは絶対の確信だった。僕は自分の脆さを、嫌という程に、知っているから。









ゴゥアアアアアア!!!


馬鹿みたいに大きな咆哮が、真後ろから聞こえる。


身体がピシッと固まり、大きな咆哮の主はぐんぐんと近寄ってくる。


くそっ・・・!


魔力を身体に張り巡らせ、硬直を解く。


このまま逃げて、隠れたところですぐに見つかってしまう。


そう、僕は今、追われていた。


この付近の魔物は、皆察知能力が高く・・・隠れていても、すぐにバレてしまったのだ。


僕は冷静さを欠き細かく調整することも忘れ、大きな光線をその魔物へ向けて放つ。


その瞬間。


ッパアァァンッ!!という破裂音と共に、血肉の雨が降った。


・・・おーばーきる。


相変わらずの魔法の威力に少し呆然としてから、充満した血の匂いに釣られて魔物達がやってくる前に僕はそそくさと逃げ出した。


取り敢えずは、安全な寝床を探さないと。


暫く歩き続けていると、魔物の姿が無くなって来た。


その事に疑問を持ちながらも、僕の身体は何かに引き寄せられるように前へと進んでいく。


何だろう、これ。


そして見えたのは、場違いな程の静けさと神聖さを帯びた、空間だった。


身体を近付けても、見えない壁によって弾かれる。


けれど、引き寄せられる。


何なんだろう・・・身体が引き寄せられているというより、魔力が引き寄せられてる?


魔力を放出してみる。


すると、目の前の空間に波紋が出来た。


入って、大丈夫なのかな・・・?


ゴキブリホイホイだとか、そんな類の罠じゃないよね・・・?


出られなくなるとか・・・


なんて事を考えつつも、僕の身体はいつのまにかその空間に飛び込んでいた。


本当に、場違いな程にのどかな場所だ。


魔物の気配も無ければ、虫すら居ない。


辺りを見回しながらも僕は、僕を引き寄せるナニカに、ゆっくりと近寄っていく。


これは・・・


そこにあったのは、何やら凄い、魔力のような、良くわからない力を発した碑石だった。


僕の身体は、この魔力のような何かを求めていた。


良く、分からない力。それが、僕の認識だ。


僕の知ってる魔力とは、根本的に違う。


けれど、似ている。矛盾しているようだけれど、そうとしか僕には言い表す事が出来なかった。


これ以上近寄れば、気を抜くと逆にこちらが取り込まれてしまいそうだ。


碑石の文字は・・・読めない。


ロウル達の国の・・・僕が知ってる文字では、無いらしい。


・・・もう、我慢出来ない。


僕は勢い良く、あの剣の時と同じように碑石にくっつき、魔力のような何かを吸い込んでいく。


少量吸い込むだけで、爆発的な衝撃。


いや、物理的なものではなく、感覚的な。


凄い、凄い。凄い!


剣の時も、凄いと思った。


けれど、これはそれよりも、遥かに凄かった。


膨大な力が身体に取り込まれていく。


身体が成長する。どんどんと、大きくなっていく。


一メートル、二メートル、三メートル・・・


破裂してしまうんじゃないかと言うほどの、五メートルの大きさまで成長したかと思えば、僕の身体は光を帯びて、凝縮された。


白銀に、メッシュのように金の色を帯びた、身体。


身体を動かすと、キラキラと光る粒子が舞う。


何か・・・神聖な存在になった気分。


今も尚、ぐんぐんと力を吸収している。


暫くすると碑石が持つ力が尽きたのか、崩れてしまった。


僕は剣の時と同様、色々と出来そうな事が増えていた。


例えば・・・


身体を大きくしたり。小さくしたり。


それに、これはアバウト過ぎるのだけれど、何だろう・・・うん。何でも出来そうな気さえ、していた。


腕を作ってみる。


…少し、維持が難しい。


腕だけでこれなら、人化はまだまだ無理そう。


身体のサイズは、自由に変えることができた。


最大で七メートルくらかな?


身体の強度は…柔らかい…?


あれ、硬くなった?


何だこれ…柔らかくも、硬くも…あ、成る程。硬くなりたいと思えば硬くなるし、柔らかいイメージだと柔らかくなるのか。


ということは、油断は変わらず出来ないみたい?


なにも考えなかったら、元の僕だ。


次は意識を視界に切り替える。


見ている位置に、透明な丸い輪がある。


それを見つめて、魔力を流してみる。


…………ん。


上手く、流れない。操作能力が足りない?


何か、違和感が邪魔を…あ、そうか。


碑石から吸い込んだ、不思議な力を流してみる。


その瞬間。


その場から、僕という存在は消えた。




…うん。


背後には僕がさっきまで居た場所、碑石の残骸が。


真下にはさっきまで僕が見詰めていた場所が。


転移能力、ゲットだぜ。


疲れた感じもしないし、コスト低めで燃費が良いのかな?


次は…何だろう。


空間に、透明な壁のようなものが。


取り敢えず、この力…取り敢えずは神聖な感じがするし、聖力とでもよんでおこうかな?


聖力を流し込む。


…うーん?


透明な壁が、そこに設置された。


何で僕にはこれが見えるんだろう。


透明な筈なのに、透明じゃない。


うん、訳が分からないや…


取り敢えず、これが何なのか…だけど…


触れてみる。


身体がいつの間にか、反対側を向いていた。


此処に入るときにあった、透明な壁?


魔力を放出してみる。


あれっ、これも返ってきた?


おかしいな。


光線を放つ。


キュインッ、パァン!


あぅぁ…


跳ね返ってきた。僕に直撃した。


少し前の僕だったら、完全に死んでた。


予想はしてたのに。してたからこそ、こっちに返ってこないように角度をつけたのに。


ノーダメージではあるけれど、少しクラッときた。


耐性がかなり上がってるみたい。不本意な発見の仕方だったけど、まぁ良っか…


さて。これはさっきあった壁とはまた、性質が違うみたいだ。


これは完全に跳ね返している。


体当たりしても気づけば反対側に進んでるし、魔法をうってもなんか跳ね返ってくる。


何か、急に能力が跳ね上がったなぁ…


五感も随分と上がってる気がする。


細身ゴーレムの動きだって、十分目で追えそうだ。


イルミナさん達は、大丈夫だったかな・・・


考えないようにしていたけれど、やはり不安は拭えない。


無事、勝てたのだろうか。僕自身、二人の力は片鱗程しか見ていない。


負けるとは思えないけれど、無傷と思うのは余りにも楽観的過ぎる気がした。


この3日、二人が万全の状態だったなら、僕は既に二人に会えているだろう。


・・・つまり、そういう事なのだ。


二人も治癒魔法というものは使えた筈。けれど、かなり燃費が悪いらしい。


お師匠様の事だ。恐らく僕の事は死んだものとして認識しているだろう。


別に、それ自体に思うところがある訳ではない。


あの時、恐らくお師匠様は僕を細身ゴーレムの攻撃から、守ってくれた。


あの悔しげな声は、覚えていた。


イルミナさんは優しいから、僕が生きている可能性が有るといえば例えどんな怪我をしていようと探そうとするだろう。


だから、それで良いのだ。そう。これで、良いんだ。


いつか、会いに行くから・・・もっと強くなって、会いに行くから。


だから・・・どうか、無事で。

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