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高位生物

「クリス!」


という声に、了解、と。魔力で作った光でサインを出す。


ピシュンッ!


そんな音と共に、僕たちと対峙していた巨獣の眉間に一筋の光が差す。


ガゥァ・・・という、当惑めいた声と共に、その巨獣の身体は地に伏した。


「良くやったぞクリス!!偉いぞ!!」


と、頭を撫でてくれるのは女神様こと、イルミナさんだった。


そしてイルミナさんの掌の上で、僕が喜びを身体で体現していると。


ハンサムな声が聞こえてきた。


「本格的に懐いてるな・・・お前がこんなに懐かれるなんて、珍しい事もあったもんだ。良くやった、クリス」


と。ピカピカと、魔法で光を出してお師匠様にも返事をする。


そういえば、お師匠様の名前をまだ知らない。


お師匠様が僕の女神様の事をイルミナと呼ぶ事はあっても、イルミナさんはお師匠様の事を兄上としか呼ばないのだ。


「ああ、本当に!本当に、愛い奴だ・・・っ」


そういってギュッと力を込めそうになり、ハッとして掌の力を抜く女神様。


イルミナさんは動物に好かれない体質なのかな・・・


抱きしめたい。けど・・・っ、と、その欲求を必死で我慢しているイルミナさんの姿に僕は申し訳なさを覚える。


こんなに良くして貰ってるのに、少しくらい苦しくたって我慢するべきなのでは・・・


でも、生死に関わっちゃうし・・・


兎に角僕は、イルミナさんが我慢しなくても良いように、早く大きくなれるように頑張るといった旨を伝えた。


今の僕には、これが精一杯だった。だが。


「楽しみにして、待ってるからな」


と。僕の言葉に、イルミナさんは本当に嬉しそうな表情で笑ってくれた。


その笑顔を見る度に、僕は嬉しくなり・・・そして、悲しくもなる。


幾らその感情を隠し、取り繕おうと。


やっぱり、不安になるのだ。


こういった物語では、ゆくゆくは人型になるのが定番。


けれど、僕という存在は幾ら魔物を倒しても、中々大きくなってくれなかった。


そして、人型になったとしても・・・


・・・それだけでは、無い。


僕は魔法を弱体化させて、使っていた。


消費魔力を最小限に抑えて、臆病に、時に反抗、そしてサポートする形で、使っている。


あの貫通力、あの威力は、見せてはイケナイものだ。


危険すぎる故に、処分されてしまう可能性が十二分にあった。


お師匠様は、情を殺して僕を殺せる人だ。強かで、冷静で、憧れを抱く程にカッコいい人。


だからこそ、僕は隠した。今も必死に、隠している。


屈託無く笑い、僕が純粋な存在だと信じ込み、何も隠す事なく接してくれるイルミナさんを前にすると。


どうしても、チクリ。と。胸が痛くなる。


けど、それでも。


それでも僕は、嫌だった。


イルミナさんやお師匠様と別れるのは、嫌だった。


このまま一生隠してでも、一緒にいたいと。少なくとも、今は・・・そう思う。


弱い僕の罪。これが後にどう繋がってしまうのかは、僕には分からなかった。







「クリス、ここからは危ないから離れちゃ駄目だぞ?」


ピカリ、と、返事をする。


そして僕はユラユラとお師匠様の肩に乗り、しがみ付いた。


あっ、という名残惜しそうな女神様の声が聞こえたが、振り返った時には既に真剣な表情で、この先の道を見ていた。


「行くぞ」


今日もお師匠様を先頭に、僕たちは森を進む。





「止まれ…少しヤバいのが居る」


お師匠様のその声に従い、イルミナさんは物陰に隠れお師匠様の見ている方向を見つめた。


けど、そこにいたのは。


魔力の感じられない、あまり強そうじゃない細身の岩男。ゴーレムらしき魔物であった。


お師匠様がヤバイっていう程の何かって、こいつじゃないよね?


そう思い、視野を広げて周りをみた瞬間。


細身のゴーレムは、いつの間にか僕の、お師匠様の目の前に居た。


僕をめがけて振りかぶった細身ゴーレムの腕が、お師匠様に切り落とされる。


即座に回り込んだイルミナさんが、魔法で動きを拘束する。


僕は一瞬、いや。三十秒程、何が起きたのかが分からなかった。


けれど、相手の実力を見誤り、危うく死にかけたのだけは、ハッキリとわかった。


「チッ…触れた魔力を発散させてやがるのか」


お師匠様のその声が聞こえた瞬間、イルミナさんの拘束魔法が弾けとぶ。


「はっ!」


細身ゴーレムが動き出す前にイルミナさんは、細身ゴーレムの首に切りかかる。


その剣に纏われた魔力はかなりの密度で、岩をバターのように切り裂いたのを見たことがあった。


いける!


ガキィンッ!


しかし。その強力な一撃は、細身ゴーレムの腕によって弾かれた。


「なっ!?」


「こいつ、さっきのはわざとか…!」


お師匠様の一撃で容易く切り落とされた細身ゴーレムの腕。


この一撃に耐えれる筈が無いと高を括っていた僕たちは、意表を突かれてしまう。


細身ゴーレムの攻撃を、イルミナさんは受け流す。


しかし。相当ないなしの技術を持っている筈のイルミナさんが、その余りの力に押し飛ばされてしまった。


「くぅッ…!」


「チィッ…!」


スピード良し、反応良し、攻撃に防御、そして魔力を発散させるその能力。


全くもって面倒きわまりない、といった表情で、お師匠様は細身ゴーレムを睨み付ける。


ピシュンッ!


僕も魔法を放ってみるが、それはジュッと音をたて、掻き消されてしまう。


「ハァッ!!」


イルミナさんが態勢を建て直し、背後から再び襲い掛かった。


それと同時に、お師匠様も目に見えないほどの剣速でゴーレムを切る。


正面からはお師匠様の目に見えないほどの一撃。


背後からは高密度の魔力が込められた一撃が。


それは同時にぶつかり、あまりの衝撃に煙が上がった。


お師匠様が舌打ちをして、魔法で砂埃を鎮める。


イルミナさんも苦々しい表情をして、後ろに飛び退いた。


砂埃が晴れたそこには、ほぼ無傷な状態の細身ゴーレム。


そしてその細身ゴーレムは、お師匠様を・・・いや。僕を狙っていた。


世界が、止まる。細身ゴーレムの動きがスローモーションで、こちらに迫ってくる。


避けようと思っても、身体は動かない・・・いや、動いている。しかし、それは。僕の動きは、余りにも遅すぎた。


細身ゴーレムの腕が、一直線に僕の体へと迫ってくる。


死ぬ。


一瞬にして死を迎えようとしている。


思考が止まり、身体が止まり。


僕は。この与えられた死を、只待つだけだった。


「クリスーーーーッ!!」


イルミナさんの、絶叫のような声が聞こえる。


しかし、その距離は。


余りにも、遠かった。


「嘗めるなよ・・・!」


と、お師匠様の声が聞こえた。


それは何処か悔しげで・・・僕の感覚はそこで、衝撃と共にブラックアウトした。



◇◆◇






「ッ・・・!」


クリスが、遥か後方へ吹き飛ばされていく。


何とかギリギリで攻撃に介入したが、余りにも不完全過ぎた。


畜生が・・・!


「ああ・・・ッ!!」


「イルミナ!!」


「わ、分かっている、兄上・・・っ」


意識がクリスに行き掛けたイルミナを叱咤し、この高位のゴーレムに集中させる。


「このゴーレム、かなり高位のヤツだ。油断すれば、幾ら俺達でも何処か持ってかれるぞ」


「高位生物・・・全くもって、忌々しいッ!!」


容易くこのゴーレムが弾くイルミナの剣は、聖剣と呼ばれる強力な剣だ。


只のゴーレムから、少し高位のゴーレム程度までなら、軽い一振りでも真っ二つに出来るだろう。


だが、このゴーレムの持つ魔力を発散させる能力が、それを只の名剣へと変えている。


幾ら魔力を発散させるとは言え、聖剣の魔力すら発散させる等・・・それ程の能力を持つゴーレム、どれだけ高位のモノか想像もつかない。


しかし。だからといって、俺たちが負ける要因には・・・成り得ない


俺は身体のギアをトップにまで上げ、一瞬にしてゴーレムの隣へと踏み込む。


「いつまでそんな所を見てるんだ」


目で追う事も出来ていないゴーレムへと向かって、一振り。


轟音と共に、ゴーレムの腕が飛ぶ。


遅れて反応し、こちらへと意識を向けるゴーレム。


「こっちを忘れてくれるなよ、忌々しいゴーレムめが・・・!」


魔力を込め強力な力を継続させる聖剣では無く、一振りで込めた魔力を全て消費する、一振り限りの神器へと昇華させたイルミナが、ゴーレムの身体に突きを穿った。






◇◆◇






激痛に、僕は飛び起きるかのように目が覚める。


その激痛の原因、右足部分。そこには・・・アリがいた。


一匹じゃない。僕の周りにはアリ、アリ、アリ、アリ・・・


アリの大群に、僕は囲まれていた。


咄嗟に魔力を放出する。


アリが吹き飛び、僕は何とか距離をとる事が出来た。


すぐさま空中に浮く。


と、数十センチのところで身体に何かがへばり付いた。


動けない・・・!


粘着質なソレは・・・ああ。蜘蛛の、糸だった。


少し離れた所に蜘蛛が佇み、こちらをジッと見ていた。


魔力を放出し、強引に蜘蛛の糸から身体を離す。


ピリ・・・


と、いやな予感がした。


僕は咄嗟に右に避ける。


すると、背後から僕の身体を掠って、鳥が猛突進していく姿が見えた。


掠りとは言え、衝撃とダメージは大きい。


いやな予感が止まらず、僕は急いで体勢を立て直す。


~~~~~ン・・・


嫌な、音がする。


ブゥゥゥゥゥゥゥン・・・・


その音は、羽音。


後ろから、いつかの凶悪な蜂の群れが、一直線に接近してきていた。


なんて、運が悪い・・・っ


僕は前へ、全力で逃げる。


幾つもの細い光線を、後方に乱射する。


何匹もの蜂が、地に落ちる。


上から、影が現れた。


鳥か・・・っ!!


全力で飛びながら、鳥へと光線を放つ。


ピシュンッ・・・


「クァ・・・」


その光線は鳥の嘴を砕き、背から貫通して出て行った。


しかし。


それでも、難は去っていなかった。


っていうか・・・これは、流石に無いんじゃないかな・・・


見た事も無い種類の動物・・・魔物の大群が、僕を追ってきていた。


既に僕が居るこの辺りは、散策を全くしていない土地。


明らかに。雰囲気的に、此処はヤバい、と、一目で理解出来るような場所に、潜り込んでしまったみたいだった。


アリにかじられた右足部分が痛い。


鳥が掠った左のわき腹部分が痛い。


何より・・・体力がもう、持たなそうだった。


本格的に、ヤバい。


1分、5分、と、それでも尚、止まることなく飛び続ける。


既にフラフラと、危うい飛行になってしまっている。


地面が、近付いてくる。


不味い、不味い、不味い。


僕は咄嗟に閃いた、苦肉の策を実行する。


幾つもの光線を、辺りに乱射。


しかし、それは通常の光線ではなく。


障害物に当たると同時に、爆発した。


大爆発とも呼べるような、連鎖爆発の衝撃を、魔力を纏って和らげる。


既に砂埃で前が見えていない。


余りにも大きな衝撃で、意識が飛びそうだ。


僕は朦朧とする意識の中、遂に地面へと落下した。


もう、運よく発見されない事を祈るしか・・・無い。


僕は最後にその願望を心の中で祈りながら、意識を手放した。


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