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死の恐怖

狼の群れの襲撃から、5日。


森の調査は順調、いや、順調過ぎる程に進んでいた。


そう、今日までは。


西の方向から煙があがっているという報告を、ロウル達騎士団が受けたのはつい先程。


そちらの方面は、別の騎士団が調査を進めていたはずだった。


すぐさま駆け付け、いざその場に到着してみれば・・・既に、騎士団は全滅した後だった。


「畜生・・・なんだよこりゃ・・・」


ロウルは思わず呟く。


「酷いな・・・」


「ああ、何の魔物にやられたんだ?これは」


と、口々にほかの騎士の面々も、声に出す。


そこで、ゾワリ。と


身の毛のよだつ程のプレッシャー・・・恐怖を、感じた。






僕は、殆ど無意識に。


ロウルの中から、飛び出していた。


そして、見つかるな、見つかるな、と、騎士団から離れ、只祈っていた。


僕が抜け出した事により、ロウルは身に重さを感じている。


ロウル達騎士団は、まだ気付いていない・・・いや、隊長と呼ばれていた人物だけは、気付いている、のか。


緊迫とした表情で、今。


退却せよ、と、大声をあげる・・・事は、なかった。


ボトリ。


騎士団の前に、丸い物体が落ちる。


「何だ?こ・・・りゃ・・・」


それは、隊長と呼ばれた男の、頭だった。


バッと振り向いてみれば、頭をなくし、血を噴き出し、倒れる隊長の姿。


騎士団はここで漸く、身の危険を感じた。


だが、既に遅かった。


気付けば、目の前には残虐な笑みを浮かべた少年の姿。


そして、それは騎士団に手をむけ、ナニカを下掴みするような動作を、した。


「飛べ」


騎士団が最後に見た光景は。


ニタァ、という笑みを浮かべながら、腕を振り上げる少年の姿。


それを、何故か空から、見下ろしている光景だった。


視界の端にうつるのは・・・自分達の、から・・・だ・・・?










何十分。いや、1時間程は、経過しただろうか。


僕は騎士団の死体を、少し離れた所から眺めていた。


危なかった。危険だった。


もう少しで、死ぬところだった。


ロウルの首が、吹き飛んだ。騎士団の首が、吹き飛んだ。


そしてあの少年は、笑いながら、奇声をあげながら、頭を一つづつ、丁寧に踏み潰していった。


愛着が、少なからず湧いていた。


ロウルの事を、良いパートナーだと、思うようになっていた。


だから、ロウルが死んでしまったのは少し。悲しかった。


けれど・・・僕は、ロウルを生かそうと考える事も無く。


一瞬にして、自分だけでも助かろうという決断をした。


いや、そんな大層なものではない。自分だけでも助かりたい。その一心だった。


黒かった。あの少年は、重かった。


漸く認識出来るようになった、あの少年から漂っていた魔力は・・・


黒く、重く・・・怖かった。


恐怖。死そのものを体現したかのような、存在。


気配を感じた瞬間、死を受け入れてしまいそうになるほどに、大きな存在だった。


そうして震えているうちに、思考を止めてしまっていた。


だからか。僕は無防備な状態で、隠れる事もせず。


只、草の陰に。呆然と、立ち尽くしていた。


そして、そんな状態の僕を、ソレは。


見逃す筈も無く、襲い掛かってきた。


ギィッ、ギィッ!


そんな鳴き声に、慌てて振り返る。


アリの群れが、一直線に向かってくる。


近い。


急いで浮き上がるが、一匹。それよりも速く、僕の身体にしがみつく、アリが居た。


ガチッ・・・


身体が、噛み千切られた。


人間部分で言う肩の腱が、噛み千切られた。


絶叫したいほどの痛み。そして、アリの重さ、アリが未だに僕の身体にしがみ付いているという焦り。


フラフラと、がむしゃらに木に、葉にぶつかる。


あの魚がいるかもしれない水の中に、飛び込む。


なのに、まだアリは離れてはくれない。


水の中に、僕は潜り込んだ。


呼吸を必要としていないこの身体は、アリが離れていっても、まだ。


グングンと、底へと潜り込んでいった。






痛い・・・痛い・・・


気付けば、湖の底に到着していた。


魚がこちらに近付いてくるのに気付く。が、僕には身を固め、祈る事しか出来なかった。


余りの恐怖に目を瞑りたいが、そんな機能はこの身体にはついていないようで。


ぼくはただ、通り過ぎて、見逃して、と、祈っていた。


僕の身体に、魚の身体がぶつかる。


大きな衝撃。


魚は困惑したように、旋回している。


そして数秒もすれば、興味を失ったかのように泳ぎ去っていった。


ああ・・・助かった・・・


安堵しかけたが、自分の状況の危険さにハッとなり、気を引き締めて陸へとあがっていく。


チャプッ。


そんな音とともに、僕は勢い良く湖を飛び出た。


日の光が見えたところで、僕は魚の事を考えないようにして、一直線に、飛び上がったのだ。


冷静なつもりだったが、いつ気付かれるか気が気じゃなかった。


光が見えて、ある程度近づいた事により、僕は速く、一刻も早く逃げ出したい気持ちに、身を任せた。


そのまま、空高く浮かび上がっていく。


と。


バシャッ!!


僕の身体を丸呑みできそうな程に大きな魚が、僕のすぐ真下に接近し、掠っていった。


ザブゥゥン!


危機、一髪・・・


ある程度水面に近づいたと思えば、思ったよりも深くに居た。


もう少し速くに焦りに身を任せてしまっていたら、僕はあの魚に丸呑みされていただろう。


今思えば、僕は焦りに身を任せて動く事が多かった。そして、危機一髪のところで乗り越えていた。


一歩間違えれば、死んでしまうというのに。


思考を、やめてしまっていた。


その事実に僕は自らを戒め、騎士達の魔力の残痕を嗅ぎ付け、そちらへと向かった。





大量の、血の匂い。


既にそこには、獣が集まっていた。


狼の、群れ。


そして上空には、不吉そうな、カラスのような黒い鳥。


これでは、食べる事は出来そうになかった。


身体がボロボロ、そしてこの空腹感。


朝までは、順調だったのに。何もかも、順調だったのに・・・


喚きたい気分を抑えながらも、空中に漂う魔力だけでも、と、吸い込んでいく。


美味しさは、無い。


冷え切った料理を食べているかのようで、吸える量も少ない。


けれど。この状態であの騎士達に近寄る訳にもいかない。


僕は黙々と、気付かれないように魔力を吸っていく。











そして、日が沈んだとき。


僕は、空腹感と未だ引き摺る身体の痛みに耐える事が出来ず、地に伏していた。


死んでしまう。このままでは、死んでしまう・・・


地上には血の匂いに釣られた獣が、ウジャウジャと湧いている。


虫達も、お零れをもらおうとどんどんと集まってきている。


もう移動する力は、無い。


この虫、動物達の活動範囲外に行ける自信は、無かった。


思考すらも億劫になってきて、死を受け入れてしまいそうだった、その時。


僕は一つの事を思い出し、賭けることにした。


ズルズルと身体を引き摺り、何とか目的地へと辿り着く。


そして、毎度お馴染み、見つからないように祈りながら、僕はどんどんと水の中へと沈み込んでいった。


何か・・・何か、無いか。


食料。寄生体。何か、何か・・・


そうして底に辿り着いた時。


僕は、強い魔力を、感じた。


まるで誘惑されているかのような、濃厚な魔力に僕は抗えず、意識が朦朧としながらそれに釣られていく。


そして、辿り着いたのは・・・一振りの、立派な剣だった。


それを目視すると、僕はそれに張り付き、どんどんと、全力で、吸い尽くしていった。






意識が、覚醒する。


視界を遮る機能なんてなかったはずなのに、僕の視界は今、暗闇にいた。


辺りを見渡す。そして、自分の身体の調子を確かめる。


何だろう・・・これ・・・


視界に、線が見える。


それは1本にも、3本にも、10本にも、太くも、細くも変動できた。


1本、細い線に変動させ、地面に向けてそのナニカを発動させる。


ピシュンッ!!!


自分の体内から魔力が抜けていく感覚と共に、その光は、地面を突き抜けた。


遅れて砂が舞い上がる。


・・・魔法?


どうして、急に


ハッとなり、剣へと目を向ける。


その剣は、最初に見たときよりも神々しさが減っていた。


だが、尚も輝き続けるその姿は、強力な何かを感じさせる。


これの魔力を、吸ったから・・・?


思えば、身体も全快している。


僕は次に、壁へと少し太めの一本の線の光を、放った。


そしてそれを発動させたまま、横へとスライドさせる。


その魔法を止め、壁の傷跡を見てみる。


どこまで突き進んだのか、見えない程の威力を、有していた。


僕の視界は、特殊だ。


倍率を変えることも、意識をすれば出来るようになっている。


夜だからといって視界が悪くなる事もなく、日を見て眩しいと思う事も無い。


そしてそれは、水中でも同じで・・・


この線、伸びた先4m程までは、僕の目にうつっている。


それ以上は、見えない。


けれど、それで十分だった。


そう、十分だった。


壁を、岩を。4m以上もの長さを貫通する事が出来る。


そんな威力、銃弾でもそうそう無い。


動物に、銃弾は有効だった。


そして、銃弾よりも弱い剣が、動物に有効だった。


つまり、これは。


僕は、狩られるだけの存在では・・・無くなった?


高揚を抑え、僕は今消費した僅かなエネルギーを補充しようと、剣から再び魔力を吸い出す。


そういえば、限界ギリギリまで吸った事がなかった。


ロウルの身体が耐え切れそうに無くて、いつも少しの量しか吸えなかったのだ。


それでも、ある程度空腹感が消えたので何とでもなりはしたのだが。


この剣は、かなり魔力に満ちている。


好きなだけ、吸い放題なのだ。


僕は、ひたすら剣の魔力を吸い込んだ。


ある程度まで吸うと、再び新しい感覚が、僕の身体に刻まれた。


心なしか・・・いや、剣のサイズが、既に短剣程のサイズにまで縮まっていた。


吸い尽くせば、消えてしまうのだろうか。


我慢、しないと行けないのだろうか・・・


と、そこまでは考えれたが。


僕はこの濃厚な魔力の誘惑に、自分の欲望に勝てず、剣が弾けてなくなるまで、魔力を吸い尽くしてしまった。


結局、空腹感は無いけれど・・・魔力が満たされた感覚も、無かった。


かなり、吸ったはずだけど。


まぁ、それは良いとして。この別の感覚は、何なんだろう。


弾けるようなイメージで、細い光の線を発動させる。


ピシュンッ・・・ドンッ!!!


地面にうつと、着弾と同時に爆発が起きた。


爆風に呑まれ、僕は舞い上がっていく。


うあっとっと・・・!?


浮力を操作し、なんとか元いた場所に戻ってみると。


そこには、半径30センチ程のクレーターが出来ていた。


ほんの少ししか魔力をこめていないのに、この威力・・・?


僕は今更ながらに、あの剣にゾッとした。


けど、自分の力ならこれ程頼もしいものは無い。


今減った魔力も、少しづつ回復していく感覚が分かる。


水中の魔力を少しづつ吸い取っているのだろうか?


魔力が身体に入る感覚を、覚えたのだろうか・・・?


こんな時、ステータス等があれば。という思いは今まで何度してきたか分からない。


相変わらず壁にぶつかっても物音一つしない程の力しかこの身には宿していないが、魔法は強大なものだった。


そこで、一旦冷静に考えてみる。


僕は地球のゲームで、良くこんな感じのシチュエイションがあった。


攻撃力が高く、余裕だと油断していると・・・呆気なく、数の暴力等の要因で、やられてしまうのだ。


僕の身体自体は全くと言っていいほどに変わってない。


つまり、アリに噛まれただけで思い出したくも無い激痛が走るし、どんな虫にだって勝てない。


魔法に頼って油断してしまうと、呆気なく死んでしまうだろう。


実は今、結構。いや、かなり危なかった。


この魔法に頼りきり、強引に狩りを行なうところだった。


僕は狩りなんてしたことがない。


相手がどんな攻撃をしてくるのかが分からない。


あのリスのように、もしくはカエルのように、何かを飛ばしてこられたら、僕の常識には無い攻撃というのもあり、確実によけれない。


隠れて、魔法を使う。安全に、今までどおり怯えながら移動する。


こうしなければ、僕は簡単に死んでしまうだろう。


ゾクリ、と身体が震える。


高揚した気分のままに、このまま敵に攻撃をしかけていたらどうなっていたか。


囲まれたらどうする?あのハチのように群れに囲まれたら、浮いても逃げれない。


あの量のハチを、正確に。覚えたての魔法を当てていくなんて、そんなのはムリだ。


ゾッとする話である。


本能、遺伝子と感情は、別物だ。


本能に任せた行動を、僕は割りと頼っている。今まで、それに失敗はなかった。


だが、感情に任せた行動は、今のところ・・・かなり、危険だ。


再度自分を戒め、僕は今度こそはゆっくりと上陸したのだった。

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