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目覚め

辺りは暗い。草木の匂いが充満し、寒いくらいの風が漂っていた。


その微風に揺られ、飛ばされたのは・・・


白い、(もや)だった。


というか、僕だった。


水面に映る不可解な自分の姿に驚愕し、混乱し、取り乱したのは数時間前。


上空5m程まで、自由に浮ける事に気付き、これが夢だと思ったのも数時間前。


無害そうだが、気持ちの悪い蛙にちょっかいをかけたのも、数時間前。


蛙の吐き出した、酸のようなものが身体に掠め、激痛が走り、逃げ出したのも、数時間前。


こんな夢は嫌だと、どうにか覚めないかを調べたのも、数時間前。


そして、これが夢では無いと思い知らされたのも、数時間前だった。


今。僕は上空5m程の位置を漂い、微風に運ばれていた。


身体にあたった、蛙の酸のようなものは、どんどんと僕の身体を蝕んでいく。


痛い。痛い。痛い。水の中に飛び込もうとすれば、異様な恐ろしさを醸し出す牙を持った魚が、こちらをジッと見ていた。


水の中に血を流したわけでもないのに、まるでピラニアの如く・・・大量の恐ろしい魚達が待ち構えていた。


混乱し、視野が狭まり、水の中に飛び込む寸前。


月のような惑星の光が、水面を照らしていなければ。


僕は今頃、あの魚達のおなかの中にいた。


ゾッとする話だ。だからこそ、浮いている。


だが、僕はまだ知らなかった。


この奇妙な、森のような場所の・・・危険性を。























それから少しして、激痛が和らいできた頃。


僕は、空腹に襲われていた。


時折襲ってくる、僕と同じサイズの恐ろしい虫達から必死に逃げ、撒いたと思ったら、急激に空腹感が襲ってきたのだ。


何かを食べないと、動けなくなる。


そう、本能で理解した。


だからといって、何を食べれば良いのかも、分からない。


知識を探ってみても、こういった類の話では大抵が何とか虫等を倒せるといったレベルであり、そして何より・・・鑑定というものが使えたりする。


何度念じてみても使えるような感覚は無く、段々と辺りが明るくなっていくだけだった。


太陽が、昇ってきている


そうなれば、夜行性で無い動物達がこの森中を闊歩するだろう。


そして、地球には存在しない生物。あの珍魚や、虫や、蛙。


時折見かける異型の死骸や、白骨化している角の生えた人のようなモノ。


導き出された僕の結論からすると、ここは間違いなく異世界であった。


どんな生物がこの森に居るのか、そして自分が何なのか、何故こんな状況になっているのか。


何も分からないこの森、この世界で、どうすればいいのだろう。


そんな事を考えていたから。


いや、過度の空腹によって集中力が途切れていたのかもしれない。


僕は、僕の身体は。


呆気なく鳥に掴まれ、何処かへと連れて行かれた。





















ビュゥ、と、風を切る音が約5分程、続いた。


漸く目前に映ったのは、おそらく・・・この鳥の家、なのだろう。


鳥が家を目視した瞬間、鳥は掴んでいた僕の身体から手を離し、一目散に家へと飛んでいった。


何があったのか?


大量の蜂か、蝿か、それともまた別の何かか。


虫の大群が、鳥の家を襲いかかっていたのだ。


鳥の嘴にやられ、虫は下半身、いや、胴体か?少し距離があって目視が出来ないが、身体の一部を地面に落としていく。


だが、虫の大群はそれに怯まず、果敢に鳥を攻撃していた。


子鳥は既に食い散らかされ、家は既に糸のようなもので囲われ始めている。


それでも、尚も。


鳥は虫の大群に、向かっていく。


ポリ。


む、この味・・・悪くない


僕は巻き込まれないよう、見つからないよう、地面に落ちた虫を食べていた。


忌避感。確かに、少しはあるかも知れない。


けれど、何故か食べれそうだったのだ。


いや、正直に言うと、食べたいと思った。


空腹感で頭がおかしくなっているのか、それともこの身体が欲しているのか。


一心不乱に食べていると、近くに鳥が落下してきた。


未だ満腹とは言えないが、これは不味い状況だ。と判断し、すぐさま逃亡。


身を隠して鳥をチラッと見てみると、見るも無残な姿になり、ゆったりと、震えるように動いていた。


身体の所々から血を流し、内臓が飛び出、脳が露出している。


あっ・・・


一匹の虫が今、鳥の脳へと牙?を突き立て・・・抉る様に、血肉を求めたゾンビのように、グシャグシャと食い散らかした。


鳥は今、絶命した。


何だ、あの虫の群れ・・・なんてバイオレンスな・・・


と、そこで。チラッと、虫の身体がこちらを向いた気がした。


僕は目視が不可能な距離にまで急いで逃亡し、慌てて身を隠す。


羽音は、聞こえない。


・・・・よかった


けど、これからどうしよう・・・


安堵するのも束の間、今後についての不安が、頭を過ぎる。


同族も居ない。声も出せない。何より、次に空腹が襲ってきたら・・・何も出来ないかもしれない。


葉っぱに全力で当たってみても、跳ね返される程の重量。


悲しいほどの、攻撃力。


そして蛙の酸のようなものに掠っただけで、何時間と続くあの激痛・・・


こんな所で、こんな訳の分からない生物になっていて・・・


・・・やばい。どうしようもない。詰んだ、コレ。


何とか生きる術を探そうと、もう一度鑑定に挑んでみたり。


ステータス、と何度も念じてみたり。


よくイメージが大事だと聞く、魔法なる存在を試してみたり。


何度も、何度も、恐らく表情があれば緊迫した顔で、繰り返していた。


けれど。


現実とは、何とも残酷なもので・・・


成果は、何も無かった。


死。その一つの概念が、僕の脳内を埋め尽くした。


暫く、呆然としていただろう。自らの死の運命を受け入れられずに、ただ、呆然と。


ビュウッ、という風の後に、ガサッ、と。音がした。


ビクッと身体が震え、恐る恐る振り向くと・・・


そこには、木の実・・・木の実が・・・木の・・・実・・・


もしかしたら、という僕の希望は、悉く潰されていく。


目の前に居るのは、馬鹿みたいに大きな身体、そして僕の身体を何とか丸呑み出来そうな口、何本も何本も口内に見える、ギザギザな歯。


僕からしたら馬鹿みたいに大きく感じるけれど、実際はどうなのだろう・・・いや、それにしたって大きい。


現実逃避。余裕が欲しくて、いや、この運命が馬鹿馬鹿しくなって。そんな事を考えてみた。すぐ、目の前に。そのワームのような虫が、居るのだ。


そう、目の前に。


そして、素早い動きで近寄り・・・僕の身体を、パクリと・・・


ザクッ・・・ゴリッ・・・ズキズキズキッ!!!


ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


気付けば激痛が、身体全体に走っていた。


もがけばもがくだけ、痛みが増していく。


痛い、痛い、痛いッ・・・!!


いっそ、速く殺して欲しいと思ってしまう程に、痛かった。


けれど、絶対に死にたくなかった。


と言っても、既に飲み込まれていて・・・


思考が定まらず、ゆっくりと身体がワームの体内へと押し込まれていく。


いや、どちらかと言うと、磨り潰されていく。


何十秒・・・1分・・・3分・・・


ゆっくり、ゆっくりと。


しかし、痛みは激しく、延々と。


どれだけ、そうしていただろう。


全身の皮膚が引き千切られるような感覚を、何分味わった頃だろう。


ワームの力が、抜けていっていた。


朦朧とする意識の中で、こう考える。


ワームの力が抜けていったんじゃなく、僕の身体が麻痺したのでは、と。


もう、死が近いのかもしれない。と。


意識が闇に飲まれていく中、僕の身体が・・・いや、ワームの身体が。


動いているような、振動が伝わってきた。


つまり、ワームは・・・生きている。


ああ、やっぱり・・・脳裏に孕んだ期待を、悉く裏切っていく・・・もう、死ぬんだ・・・僕・・・


最後に脳裏に映った映像は、地球に居た頃の僕。


人間の状態の僕が、散々僕を悩ましていたストーカーの男性に頭を殴られ、車に乗せられたところだった。そこで、僕の意識は完全に途切れた。

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