第09話 「瑞・樹・赤・面」
おばさんに連れられて、愛生ちゃんの部屋の前に着いた。
それからおばさんは、ドアをノックして
コンコン
「愛生~お友達がいらっしゃったわよ」
愛生ちゃんから返事がない?どうしたんだろう?
いつもなら愛生ちゃんがドアを開けて、僕を部屋に迎え入れてくれるはずなのに…。
あれこれ考えていたら、おばさんが笑顔でこっちに向いて
「ちょっとびっくりするかもだけど、ゆっくりしていってね」
「へ?あ!はい、ありがとうございます…」
え!?びっくりするって??一体どういう事なんだろう…。
そう言いながらおばさんはニコニコしながら、その場を去っていった。
ここまで来たら、恥ずかしい事も色々と悩んでいた事がどうでも良くなった。
ドキドキする胸の鼓動を押さえながら、部屋のドアノブに手をかけた。
「…あの!入るね…」
そう言いながらドアを開ける。
ガチャッ!
いつもの愛生ちゃんの部屋…。白をベースに何も飾りもなく、
あまり女の子らしくない質素の部屋だ…。
愛生ちゃんが勉強机の椅子に座っていて、振り返ってこっちを向いた…
って!?…え!!誰??
「待ってたよ、瑞樹!」
僕の名前を呼んでる、愛生ちゃんと思われる男の子と目が合った。
僕たち2人は目を合わせたまま、しばらく沈黙が流れた…。
そしてお互いが開いた口で発した言葉が…
「誰?」
「誰?」
「誰って…愛生…ちゃんなの!?」
「誰って…みず…き!?」
何て事!?…僕が女の子になっただけではなく…愛生ちゃんは男の子になっていた…。
しかもすごくカッコイイ…イケメンって言うのはこういう人を言うのかな?
学校の同じクラスで親友である俊介もカッコイイ部類なんだけど、また違った格好良さだ。
愛生ちゃんの可愛らしさと凛々しさを残したまま男の子になった感じ…。
それが一目見たときの僕の印象だった…間違いなくこの男の子は愛生ちゃんだ!
あれ!?ボクが男の子になっただけじゃなく、瑞樹が女の子になっちゃってる?
しかもすごく可愛い…瑞樹は男の時からも女顔で可愛い顔していたけど
その可愛さが女の子になったおかげで、余計に引き立っている。
よく見ると妹の來海ちゃんと感じが良く似ている、さすが兄妹…今は姉妹かな?
間違いないね、女の子だけどこの子は瑞樹だ!
お互い、沈黙のまま静かに時が流れていった…が
愛生ちゃんがクスって笑って、閉ざされた口から言葉が発せられた。
「あはは!まさか瑞樹も変わってるとはね~ボクだけでもびっくりなのに」
「ホントだよね…これからどうしようかと思ってたから」
まさにその通りだった。僕はこの事で相談しに来たはずなのに…
愛生ちゃんも同じ悩みだったなんて…。
ホントは辛い事なんだけど、同じ悩むを共有できることをすごく嬉しいと思えたんだ。
「大丈夫だよ!ボクがいるからね、心配ないよ」
「うん、すごく心強いよ」
そう言うとお互い、笑いあった…。
何となくギクシャクしていた雰囲気だったけど、いつもの二人に戻った感じがするよ。
愛生ちゃんに相談して良かった…ホッとした瞬間だった。
そっと胸をなで下ろして、安心していたら…何か視線が気になる…。
愛生ちゃんがじっーとこちらを見ている…。
え!?何??何かおかしいところがあるのかな??
「えっえっえ!?なになに??」
僕は慌てて、服装や髪形におかしいところがないか
確認したりしてあたふたしてしまった…あわわ…。
もう一度、愛生ちゃんのほうを確認してみると、
さっきと変わらず何も言わずにこちらを見ている…。
何も言ってくれないから、僕はどうしたら良いんだよ!
どう反応して良いのか分からず…オドオドしていたら、
愛生ちゃんがまたクスって笑って、こう言ってきた。
「ホント可愛くなっちゃって~瑞樹とは思えないよ、あはは~」
え!?僕の事が可愛い!!??
思いも寄らない言葉が耳に入ってきて、頭の中がパニック!
言い慣れていない言葉だけに耐性が無く、どう反応して良いのか分からないよ!!
僕の顔がだんだん熱くなるのが分かる…絶対に顔が赤くなっているよ!恥ずかしい!!
「そんなこと言わないでよ…恥ずかしいし!」
赤い顔を見られたくないので、咄嗟に両手で顔を隠してみたけど…。
その行動が余程おかしかったのか…愛生ちゃんは笑いだした。
「あはは、赤くなっちゃって…すごく可愛いぞ??」
顔を覆い隠してる両手の指の間から、愛生ちゃんの表情を見てみる…。
案の定、ニヤニヤしてるよ…ヤバイ!これは絶対にいじられる!!
何か言わなきゃ…話題をそらさないと!
「あっ愛生ちゃんだって、あのその…かっこ良くなってると言うか、あのその…」
でも…実際にすごく格好良くなっていた…直視できないほどに。
女の子の時は、とても可愛いくて…でも反面、行動が男の子っぽいかったけど…。
そう言うと愛生ちゃんの顔がまた一段と明るくなって…こう言った。
「ホントに!?」
とても嬉しそうだった…男の子になったと言うのに…。
なぜ、そんな笑顔が出来るのだろう…僕にはとても理解できなかった。
僕なんてどうして良いのか分からず、ずっと悩んでいたのに…。
そんな僕の思いを吹き飛ばすぐらいの笑顔だった。
そんなことを考えて、下を向いてしまった僕は、
もう一度、愛生ちゃんのほうに目をやると
何か言ってもらいたそうに、こっちの様子を伺っている…。
これは何か期待されている!?えっと…何か言わないと!
「うっうん、びっくりするぐらいに、あのその…」
何か言わないと思って焦ってしまい、自分でも何を言ってるのか分からないよ…。
その様子を楽しんでいるように、愛生ちゃんはニコニコしながら眺めている感じ…。
しまった!僕はもて遊ばれたのかも…愛生ちゃんのイジワル!!
そう悔しがっていると、笑いながらこう言った。
「あはは~瑞樹らしいというか、ホント変わらないよね」
…やっぱり…この状況を楽しんでいるよ…。
でも羨ましい…僕のようにうじうじと考えないで、常に前向きに考えて行動している。
今の僕じゃ無理だ…ホントに羨ましいよ!
「愛生ちゃんだって…あのその…こんな状況なのに、すごく冷静だよね?
普段と変わらない…と言うか…その」
僕がこう言ったにも関わらず、愛生ちゃんはいつもの軽いノリで、こう返してきた。
「まぁね!なっちゃったもんは仕方ないっしょ?」
最高の笑顔でこう答えるんだもん…僕から何も言えないよ!
僕は、その笑顔がまぶしすぎて…直視できなかった。
愛生ちゃんの顔が見れなくて下向き加減でこう答えるので限界だった。
「そっそれはそうなんだけど…」