第65話 「婚・約・指・輪」
私は愛生ちゃんの右手を掴んだまま、固まってしまった…。いきなり私は、何を言い出したんだろう…離れていく愛生ちゃんの手が…温もりが…私から離れて行ってしまうんじゃないか…そんな想いが…私を動かしてしまったみたい。そんな私を見て、愛生ちゃんはニコッと微笑んで…。
「…どうしたのさ?そんな寂しそうな顔をして…。体の方は、大丈夫なの?今日は色々とあったんだから、ゆっくりと休みなよ…。」
私の掴んだ左手を握りなおしてくれて…私の側に寄ってきて…頭を優しく撫でてくれた…。何か…今すごく愛生ちゃんに甘えたい気分…。
「…えーと、うん…少し眠ったらね、かなり良くなったよ。…それでね?さっき目が覚めたとき…近くに愛生ちゃんがいなくて……少し怖かったの…。」
「…何で、怖いと感じたのさ?」
「…今日の屋上での出来事が…あの2人の恐怖が…まだ…終わってないような気がして…怖くて…怖くて…。でも、目が覚めて…少しずつ頭が冴えてきて…愛生ちゃんに助けられたんだ…って思ったら……何か…その…。」
(愛生ちゃんに会いたい!…抱きしめて欲しい!!)
って、恥ずかしくて言えるわけも無く…顔を真っ赤にして、モジモジとしていたら…。私の握っていた手を離し…突然、私の体を抱き起こされてしまって……え!?いきなりどうしちゃったの!?
「…今日の瑞樹……すごく…可愛いんだけど!」
そう言いながら、私の体を強く抱きしめてきて……あぁぁ…暖かい…愛生ちゃんの匂い…すごく好き…。私は、全身の力が…徐々に抜けていき…惚けた顔で、愛生ちゃんに身を預けていた。……抱きしめてくれた…すごく幸せだよ…。
どれぐらいの時間…抱きしめられていたのだろう…。愛生ちゃんが抱きしめるのを止め、私から離れていく…もう少し、抱きしめて欲しかったな…。そんなことを思いながら、愛生ちゃんの顔を見つめていたら…愛生ちゃんが顔を赤くして、私から眼を反らした!…へ!?一体どうしたんだろう?
「…瑞樹さ…制服…着たままじゃない?…着替えたら??」
「…え!?…あっ!きゃぁー!!」
私は、引き裂かれた制服のシャツを着たままだったよ…また、愛生ちゃんに…ブラを見られちゃった…恥ずかしい!!
「…ボクはいったん部屋を出るから…終わったら呼んでよ!…じゃあー!」
愛生ちゃんはそう言いながら…そそくさと部屋を出て行ってしまった…。はぁ…私は何をしているんだろう…兎に角、さっさと着替えよう。そう言えば、腰が抜けていたの…治っているのかな?…よいしょ…っと!…うん、足に力が入るね…もう大丈夫みたい。
私はベットから降りて、箪笥から普段着を取り出す……でも、せっかくだから…この間、愛生ちゃんと出かけた時に買ったワンピース…着てみようかな?
(…愛生ちゃん…喜んでくれるかな…。)
普段着を箪笥の中に戻すと、クローゼットから白のワンピースを取り出す…。スカートの丈が短くて…恥ずかしいけど……うん、頑張ろう!制服を脱ぎ、ワンピースに着替える…。引き裂かれた制服のシャツが…あの恐怖を思い出す……ううん、今は愛生ちゃんが…側にいてくれるから……あの恐怖は…乗り越えられる!…うん、大丈夫。…着替えが終わったから、愛生ちゃんを呼ぼう。
「…あの…愛生ちゃん?着替え…終わったから…その…入ってきて良いよ。」
そう言って扉から少し離れて…愛生ちゃんが部屋に入ってくるのを迎える……どうしよう…すごくドキドキしてきたよ…。少し待つと…『入るよ!』と愛生ちゃんの声が聞こえて、ドアが開く…。
部屋に入ってきた、愛生ちゃんが…私の格好を見て…すごく驚いた顔をしながら…。
「…え!?…瑞樹…その…ワンピースは…。」
「えへへ……どっどう…かな?」
「試着の時に一瞬しか見てなかったから…分からなかったけど……うん!すごく可愛い!!瑞樹、すごく似合っているよ!!」
愛生ちゃんがすごく喜んでくれている…すごく嬉しい…。私は嬉しくなって…その場でクルッと1回転をして、ニコッと微笑む。
「えへへ…ありがとう。着てよかっ……え!?」
いつの間にか、私は…愛生ちゃんに抱きしめられていた…。また抱きしめられちゃった…私も愛生ちゃんの体に腕を回す…すごく暖かく、頭の中がふわふわとなって…すごく心地良い。そんな夢心地な私の耳元で…愛生ちゃんが呟く。
「…そんな短いスカートで回っていると…パンツ見えちゃうぞ?」
「…もう、愛生ちゃんのバカ…エッチ…。」
こんな時でも…そんな冗談を言うんだから…ホント愛生ちゃんらしいよ!…でも、許してしまうんだよね…。何だろう…抱きしめられる度に、私の中に芽生える…この感情は?胸はドキドキするのに…すごく嫌じゃない…むしろ喜んでいる?そんな不思議な感覚だった…。
そんな時に來海に言われた、ある言葉を思い出す…。
『お姉ちゃん、それは愛生さんに「恋」をしてるよ?』
私が…愛生ちゃんに恋を……そうなんだ…これが『恋』なんだ。ずっと…私の中でモヤモヤしていた感情が、ようやく答えへと導いた。…ただの幼馴染は、もう嫌……愛生ちゃんと…恋人に……お互い、愛し合える存在になりたい!溢れ出すこの感情を…もう抑えることが出来ない!!
「愛生ちゃん…」
「…ん?どうしたの、瑞樹??」
愛生ちゃんがそう言って、抱きしめていた腕を緩め…私から離れる。お互いが見つめ合う格好になり…愛生ちゃんが真剣な眼差しで…私の言葉を待っているようだった…。私は…勇気を振り絞って…。
「…愛生ちゃん……私、愛生ちゃんの事が…好き!…ただの…幼馴染は、もう…いや!!」
「…ボクも…ボクも瑞樹の事が…好きだよ。」
あぁぁ…愛生ちゃんも私の事が好きって……私は思わず、嬉しくて…嬉しくて…涙が溢れて止まらない…。そんな私の姿を見て…愛生ちゃんが優しく抱きしめてくれて……2回目のキスをする…。恋人同士になっての初めてのキス…。
ファーストキスは、突然の事だったので、驚きが先に行って…喜びは後から来たんだけど…今回は違う…。私もキスをしたかったから…最初から喜びが…体の中から溢れ出してくる…。幸せ…だよ、このまま…時が止まってしまえばいいのに……。
私たちは、今までの思いを確かめるかのように…長い…長いキスをした。どちらも名残惜しそうに…唇が離れていく…。
「…はぁぁ……えへへ…またキス…しちゃったね~♪」
「瑞樹が可愛いから…何回でもしたくなっちゃうよ。」
「…もう、愛生ちゃんのバカ……そんな事…言われたら…私も…したくなっちゃうよ…。でも、2人の時だけだよ?家の外とか…他の人がいるようなところは…ちょっとやめてほしいかも…。」
「それは…約束できないかもね…。瑞樹が、可愛いのが…いけないんだ!ボク、我慢できないかも!!」
「えー!?何で、私の所為になってるの??そんなこと言われても…知らないよー!!バカバカバカー!!!」
「あははー。」
いつの間にか…いつもの2人に戻っている……。恋人になっても…私たちの関係は…変わらない……お互い無くてはならない存在のように…。私はふと…愛生ちゃんに、確認したいことを思い出した。
「愛生ちゃん?小さい時のこと…覚えている?」
「ん?いつの時の話??瑞樹とはいつも一緒だったから…どの時の話かが…分からないよ。」
「…うん、確かに分からないよね…。ちょっと待ってね…」
私は愛生ちゃんから離れて…机の引き出しから、一つの小物入れを取り出す…。私の宝物を入れる…大事な小さな宝箱。その宝箱から…1つの小さな指輪を取り出す。私が小さい時に…愛生ちゃんから預かったままになっているおもちゃの指輪。それを…愛生ちゃんに見せてみる。
「…あっ!?これって…。」
「…思い出した?」
「…うん、かなり小さい時の……確か…幼稚園に通い始めたぐらいの時じゃ無かったかな?」
「うんうん、確かそんな時期だよ…私は、今でも…鮮明に覚えているよ。」
私は忘れもしない…愛生ちゃんから預かったままとは言え、愛生ちゃんから貰った…初めてのプレゼントだから。愛生ちゃんは、指輪をずっと見つめたまま…思い出そうとしているのかな?固まったままでいたのだけれど…突然、何かを思い出したかのように…。
「…そっか…そうだったね…。瑞樹!その指輪を…ボクに返してくれないかな?」
「え!?それって…。うん、分かった…はい、どうぞ。」
私は、愛生ちゃんの差し出した左手の手のひらに、指輪を乗せる…。それを右手の親指と人差し指で掴んで…改まって真剣な眼差しで私を見つめる…。
「…コホン。…あの頃とは、ボクたちは違う立場になっちゃったけど……。瑞樹!…ボクのお嫁さんに…なってください!」
そう言って、私の目の前に…おもちゃの指輪を見せる。…ああぁ…ホントだよね…本当だったら私が…ううん僕が、愛生ちゃんに言う…セリフだったはずなのに…。…ううん、これで良いんだ…私が貰うことになっていたんだね…これで良かったんだ…。私はその指輪を受け取り…。
「はい!…私を…愛生ちゃんの…お嫁さんに…してください!!」
そう言って、私は泣きながら…愛生ちゃんに飛びつく…愛生ちゃんが…優しく抱き留めてくれる…。お互い見つめ合ったまま…3回目のキスをするのでした…。
こうして…預かったままのオモチャの指輪は……正式な持ち主と…私となりました。
大変、お待たせ致しました…。ようやく…ようやく、ここまで辿りつきました!!
ありがとうございます!挫けず頑張ってきた甲斐がありました!!
私の拙い小説を読んでくださいました、皆様のおかげで…ようやくこの話も…エンディングを迎えることが出来ました!
次回で本編を終了とさせていただきます!!本当にありがとうございましたー!!!




