第41話 「嫉・妬・謝・罪」
更衣室で色々とあったけど、泣いたことで少し気が晴れたみたい、教室に戻ることにした。
今日はホントに華奈さんには感謝だよ!私はいつも助けてもらってばかり…何かお礼をしなくちゃね!
そう考えながら、華奈さんと話をしながら教室に戻った。
教室に戻ると、なんだか教室が騒がしい…原因は愛生ちゃんの席の周りだ。
クラスの男子や女子が愛生ちゃんを囲み、何か楽しそうに会話をしている。
「愛生ちゃん、今日は大活躍だったもんね…あの子の運動神経、男の子になって余計にやばくなったね」
「…うん、私も所々しか見てないけど、部活もしていないのに、何であんな動きができるんだろう…」
女の子の時からも、ずば抜けて運動神経は良かったのに…男の子になって、さらに進化した感じがするよ…。さすが朱美さんの子供と言うだけの事はある!…それはちょっと失礼かな?ごめんね、愛生ちゃん。
そう心の中で詫びながら、再び愛生ちゃんのほうに目を向けると…いつの間にか女の子だけに囲まれており、その女の子に腕を回されたりしている……近い!近いよ!むーなんかすごくイライラしてくる…何なの!?これは??男の時は、何も感じなかったのに…理解できない感情だよ!…愛生ちゃんの顔を見てみると何か嬉しそうだし!鼻が伸びてるように見えるし!!あー腹が立ってきた!!!
「瑞樹ちゃん、ちょっとトイレにいこ?」
「え!?…うん」
いきなり華奈さんにそう言われ、訳も分からずに返事をしちゃったよ…。まぁいっか、ここにいても腹が立つだけだし…華奈さんと一緒に教室を出た。
教室と同じ階の女子トイレに入り、華奈さんと洗面所の鏡の前に立つ。…どうしてここに!?特に2人とも用を足すつもりはなかった。
「瑞樹ちゃん、ちょっと鏡を見てみて…」
「え!?それがどうかしたの??」
私の顔が鏡に映し出されている…隣に華奈さんがいて、私の方を見ているのが分かる…何がしたいのだろう?全然、訳が分からないよ…。
「…何が原因かは分かっているけど…すごく苛立ってる顔してるよね?せっかくの可愛い顔が台無しだよ??」
「え!?」
「さぁーお姉さんに向かって、色々と吐き出してごらん?」
そう言われて、私の中で何かが弾けた!…すべて愛生ちゃんに対しての愚痴だった。
「何!?あの顔??デレデレとしちゃってさー!」とか「誰にでも優しいのは良いところなんだけど、もう少し私に優しくして欲しいよ!」とか次々と、色んな感情が溢れ出してきて…止まらない!
その間、華奈さんは、私の話をずっと聞いてくれてて、時折「うんうん」とか「そうだよねー」と頷いてくれる。それが嬉しくて、華奈さんに抱き着きながら少し泣いちゃった…。私を優しく抱きしめてくれて、また頭を撫でてくれて、私を慰めてくれた…また甘えちゃった。
華奈さんのおかげで、気持ちは落ち着いたのだけど…愛生ちゃんに対してどうも素直になれず…あれから一言も喋っていない…どの様に喋りかければ良いのか…分からなくなってしまって、とても話しかけずらい、はぁ~私ってダメだ。
それから今日の授業も終わり、ホームルームも終わって…放課後となった。
いつもなら愛生ちゃんと一緒に帰るのだけど、愛生ちゃんはまだ他の女の子たちと楽しく会話をしている。話しかける気分になれずに、一人で帰ろうと鞄をもって席を立つ。
心配そうに華奈さんが近づいて来て…。
「瑞樹ちゃん…大丈夫?」
「うん、その…大丈夫だよ、私、先に帰るから、愛生ちゃんには、そう伝えてね」
そう言って「バイバイ」と華奈さんに手を振って教室を出た。
1人で自宅に帰る…なんかすごく久しぶりな感じがするよ…。
いつもは愛生ちゃんが隣にいたからだ。私の右側にいつもいる愛生ちゃん…今日はその姿が無く、少し寂しい…けど、私が素直になれなかったのが原因なわけで……はぁ~と溜息を吐く。自宅に帰れば、晩ご飯の支度とかしなくちゃいけないから…気持ちを切り替えることにした。
校門を出て、自宅に向かって歩いているところ、遠くから私の名前を呼ぶ声がする…愛生ちゃんの声だ。
「瑞樹~!ちょっと待ってよ!!」
はぁはぁと息を切らしながら、私に近づいてくる。
「ボクに黙って帰るとか…酷いじゃないか!」
「…華奈さんには、先に帰るから伝えてーと言ったはずだけど…聞いてなかったの?」
「あ!それは聞いてたけど…でも、一言ボクに声かけてくれても良いじゃない?」
「…愛生ちゃん、楽しそうに話してたから、邪魔しちゃ悪いと思ったし」
違う…私が言いたい事は、そうじゃない…。
「何!?怒ってんのさ??」
「…怒ってなんかないよ、私、用事があるから早く帰りたかっただけだし」
違う違う…そんな事を言いたいわけじゃないのに……。
「じゃあさ、ボクのほうを向いて話してよ!何で顔を背けるのさ!!」
そう言われて、愛生ちゃんの右手が私の肩に置かれて、強引に顔を向けさせられる。
「……え!?瑞樹…何で…泣いているの?」
「バカバカバカ!こっち見るなー!!」
とめどなく流れる涙を見られたくなかったから、私は顔を下へ向いて…悔しさなのか恥ずかしさなのか分からなかったけど…愛生ちゃんの胸元を両手でポコポコと殴る。
どうして良いのかわからず困っている愛生ちゃん。
「…えーっと、何か…良く分からないけど、瑞樹……ごめん」
「愛生ちゃんなんか、もう知らない!バカバカバカーー!!」
そう言いながら、止まらない溢れる色んな感情と涙に耐えながら、ポコポコと殴る私。
突然、暖かい感覚が全身を包む…え!?私…抱きしめられている??
「瑞樹、ごめんよ……ボクの所為なんだよね?…どうしたら許してくれるのかな??」
「…ぐすん、じゃあ…私のお願いをひとつ聞いて」
「…良いよ、ボクの出来ることなら…何でも」
「今度の日曜日…買い物に行きたいから…私に付き合って」
「え!?そんなお願いで良いの?そんなの言ってくれれば、何時でも付き合うのに…」
「うん、今はそれで良いの……それよりも、そろそろ離して欲しいかな?その…すごく恥ずかしいんだけど…」
そう言うと、愛生ちゃんは「あーごめん」と言いながら私を離してくれた。ホントはもっと抱きしめて欲しかったんだけど…ここだと人目につくし、恥ずかしいし…ね。
「じゃあー今度の日曜日は、瑞樹のお供をしますよ!」
そう話しながら、何時もの右側に愛生ちゃんがいてくれる…それがすごく嬉しかった。




