第38話 「親・子・暴・走」
お昼休みもそんなに時間が無いから、少し急ぎ足で職員室に向かう。
さすがに、お昼を食べてからの時間が経って無いからね…走るのは無理です、気分が悪くなるよ!
愛生ちゃんと私では、身長も歩幅も違うから追いつくのに必死だった…。だけど、愛生ちゃんは後ろを振り返りながら、私のスピードに合わせてくれていた。愛生ちゃんは普段はすごく意地悪だけど…時にそういう優しさがとても嬉しくなる。色々と考えているうちに職員室に到着した。はぁはぁ…少し疲れたよー。
扉の前で、少し息を整えてから…職員室の扉を開ける。
「「失礼します!」」
職員室に入ると、若林先生が席に座っていて、私たちに気付くと…こちらへおいでっと手招きをしている。
私たちはそれに応じて、若林先生のもとに近づく。
「急に呼び出してすまなかったな。和泉のお母さんが来ているぞ、応接室の方で待ってもらっているから」
「「はい、ありがとうございます!」」
そう返事をすると、若林先生は頷き、応接室を案内してくれた。
「私は授業の準備があるので、ここで失礼するよ。」
そう言って若林先生は、自分の席に戻っていった。
愛生ちゃんが扉のノブに手をかけ、扉を開ける…。
扉を開くと…真ん中にテーブルが1つ、テーブルの左右にソファが2つあり、
一つのソファには愛生ちゃんのお母さん、朱美さんが座っていた。
愛生ちゃんと私が近づいて、声をかけようと…。
「ごめんね、ま」
「みーずーきーちゃぁぁぁん!!!」
「え!?」
愛生ちゃんのおばさんがそう叫びながら、私に抱きついてきて、頬擦りをされてるんですけど…。
何!?この状態は??意味が分からないんですけど!!
「会いたかったわー瑞樹ちゃん!…その制服姿も…良く似合ってて…とても可愛いわ~」
「え!?え!?ちょっちょっと!」
そう言いながら、ぎゅーっと抱き着かれ、頬をすりすり…それをずっと繰り返される。
…私はどうすれば良いの!?どう反応すれば良いの!?愛生ちゃん助けてー!!
そう思い、愛生ちゃんのほうを見てみると…困った顔をしながら私を力づくで奪い返した!
え!?力づくで??……そう、私は、いつの間にか愛生ちゃんの腕の中にいた…。
「あっ愛生…ちゃん!?」
胸が熱く…鼓動が早くなる……すごく恥ずかしい…はずなのに、愛生ちゃんの腕の中は、暖かくてすごく安心できる…もう少しこのままでいたい…そんな事さえ思ってしまう。
愛生ちゃんは私を抱きしめながら…。
「ママ!少しは落ち着きなよ!!瑞樹がすごく困っているだろ!?…それから、瑞樹に抱き着いて良いのは、ボクだけなんだからね!!」
「なっ何を言ってるの!愛生は!?可愛い瑞樹ちゃんを独り占めするのは良くないわ!!…瑞樹ちゃんは私のものなんだからね……瑞樹ちゃんを返してよ~!」
えええ!?ホントは嬉しいはずなのに…何だろう?何かが違う。そう!…例えれば、私は、2人のペットかぬいぐるみのような…そんな感じ。何!?この親子は??……すごく…腹が立ってくる。
そんな私の心情はさておき…愛生ちゃんとおばさんの2人で、私の争奪戦が行われていた…。
おばさんに抱き着かれ、愛生ちゃんに抱き着かれ……私の中で何か切れる音がした…プチンッ!
「2人とも…いい加減にして!!!」
「「え!?」」
そう叫ぶと2人の動きが止まり、私はおばさんの抱擁から脱出する。
愛生ちゃんの方を向き…。
「愛生ちゃん!…そこ座る!!」
「…え!?はっはい!!」
私は愛生ちゃんを睨みつけて、愛生ちゃんの近くのソファに指を指す。
すぐさま愛生ちゃんは、そのソファに腰を掛ける。
「愛生ちゃん!ここは何処だと分っているの!?…学校なんだよ!?が・っ・こ・う!!自分の家じゃないんだから…他の人の迷惑も考えてよね!!」
「はっはい…」
「……あの~瑞樹…ちゃん!?」
今度は、おばさんの方に顔を向け。
「おばさんもそこ座る!!」
「ひぃー!!はっはいぃぃー!!」
おばさんのほうを睨みつけて、愛生ちゃんと向かい合わせのソファに指を指す。すぐさまおばさんも、私に指定されたソファに腰を掛ける。
「おばさんも分かっているの!?私たちの為に色々としてくれるのは、すごく感謝をしているんだけど…これはこれ!別の話なんだからね!!それと、おばさんは大人の人なんだからね?学校でふざけたりしちゃダメでしょ!!…2人とも分かった!?」
「「はーい」」
「…ごめんなさいは?」
「「え!?」」
「……ごめんなさいは!」
「「ごっごめんなさいー!!」」
2人のその言葉を聞いて、「うんうん」と頷き、私はすごく満足をした…そうなると一気に頭がクルーダウンをしてきて…。
あれ!?そういえば…ここに来たのって何の用事だったんだっけ??
「…愛生ちゃん、私たち…何でここに来ているんだっけ!?」
「…あ!そうだ、ママ!ボクたちの体操服を持ってきてくれたんじゃないの?」
「…あ!そうそう、これを渡しに来たのよ!…はい!これ瑞樹ちゃんの分ね、これは愛生の分よ」
そう言うとテーブルの上に、それぞれの体操服の上下とシューズを置いてくれた。
良かった…これで午後からの体育の授業は、サボらずに済むよ~♪つい嬉しくなって。
「おばさん、ありがとうございます♪」
「とっ当然よ!瑞樹ちゃんのためなら、おばさん…何でも頑張っちゃうんだから!!」
ん!?何か知らないけど…2人の笑顔が少し顔を引きつってるように見えるんだけど…気の所為かな?
でも、ホントに良かったよ~ふと、応接室の壁に立て掛けてある時計を確認する…お昼休みが終わりそう…早く教室に戻らないと!
「愛生ちゃん、そろそろ教室に戻ろ?お昼休みが終わっちゃうよ」
「あ!ホントだ、もうそんな時間になってるし!ママありがとうね、助かったよ」
「お安い御用よ!…それよりも瑞樹ちゃん、ちょっと良いかしら?」
ん!?おばさんが私を手招きをしてくる…何だろう??私はおばさんの近くに寄ると、耳元でそっと呟いてきた。
「今度の日曜日、うちに遊びにおいでね?私と一緒にお料理しましょう、愛生の好きな味付けを教えてあげるから…ね♪」
愛生ちゃんの好きな味付け…好きな料理を教えてもらえる…私は迷うことなく。
「…はっはい」と答えるのでした。
普段、怒らない人を怒らしてはいけない…そんなお話でした。




