第34話 「母・再・暴・走」
お昼休みが終わり、特に何事もなく放課後を迎えようとしていた…。
ホームルームも終わり、後は自宅に帰るだけ。
私と愛生ちゃんは、今のところ何処の部活に所属をしていない…所謂、帰宅部ってやつだね。
特にやりたいことがあるわけでもなく、入りたいと思う部がなかった…たぶん愛生ちゃんも同じ感じ。
今は、家事を覚えることで頭がいっぱいだから…余裕が出てきたら考えても良いかな?
私が帰る支度をしていると…。
「学校終わったーさぁ帰るかな!瑞樹~帰るよ」
愛生ちゃんがそう言いながら、私の肩にポンと手を置いた。
いつもの放課後の風景…私たちの姿が変わったとしても、それは変わることはない。
だから何時ものように…。
「うん、帰ろー」
「おやおや、今日も一緒にお帰りですか?お二人さん」
榎本さんだ。何かニコニコしながら話しかけてきたよ。何か良い事でもあったのかな?
「ん!?そうだよーご近所さんだからね、帰り道も一緒だし」
いつもの2人のやりとりだ…だから私も気にせずに、こう答えた。
「そうだね…んじゃ帰ろ?」
「ほいほーい…んじゃ華奈ちゃん、まったねぇ~」
いつものように手を振りながら、「バイバイ」を言う。…これもいつもの風景だね。
「榎本さん、それじゃ~またです」
私も手を振りながら、教室を出て学校の玄関に向かった。
「……」
「何だろう…いつもと変わらないわね、あの2人。…なんか兄妹みたいな感じ?…これって前とほとんど変わらないじゃない!?まぁいっか…」
愛生ちゃんと並んで歩く…何時もの下校風景。
私たちは性別と見た目は変わっちゃったけど、私は私…愛生ちゃんは愛生ちゃんだ。
何も変わっていない…うん。ここ何日と色々とありすぎて、「私たち、変わってしまった!?」のかと…錯覚していたけど、少し落ち着いてきて、日常に戻れば…うん、何も変わっていなかった。
変化が欲しかったわけじゃない…私は隣に愛生ちゃんがいてくれる…それだけで良かった。ほかは何も望まない。愛生ちゃんもそう思っていてくれているのかな?それだとすごく嬉しいんだけど…。
そんなことをぼぉーっと考えていた時に…あることを思い出した!
「あ!!」
「ん!?どうしたの、瑞樹?」
明日の午後に体育の授業があることを思い出した…。そう言えば…お互いの制服は何とか間に合ったから、それは問題はなかったけど…体操服とシューズが、以前の物しかないことに気づいた。
「明日、体育の授業があること忘れてたよ…どうしよう!?今持ってる体操服じゃ…サイズが合わないよ~」
「それは仕方ないと思うけど…ボクのも合わないしさ~それまでに用意するしかないよ!明日は見学で良いんじゃない?別にサボってるわけじゃないし、誰も文句は言わないよー」
「ううん、そうも行かないよ~理由もなく休むなんて…母さんに知られたら…無理矢理でも、今持ってる体操服で授業を受けなさい!って怒られるよ…」
「んー確かに、あのおばさんは厳しいから…そう言いそうだね。…それなら、ママに相談してみるかな?ボクも見学するなんて嫌だしな~体を動かしたいし」
愛生ちゃんのおばさんの名前が出て、また何とかなりそうな予感がする…。何だろう?この安心感は半端ない!
「愛生ちゃん…お願いしても良いかな?おばさんだと何とかしてくれそうだし」
「うん!帰ったら、ママに相談してみるよ」
その話はそこで終わって、それから他愛もない話に切り替わってた。
今日、私が持ってきたお弁当の話になって、「美味しかった」って…また言ってくれて…「明日、頑張ってみようかな~」っと心の中でそっと呟いたのでした。
瑞樹と別れて、ボクは自宅へと帰る、少し急ぎ足で。早く帰ってママに相談しないと…。
先にメールで「相談したいことがある」って送信して、すぐ返事が来て、ママが家にいることを確認しているから…そんなに急ぐ必要もないんだけど、瑞樹に頼まれた以上、少しでも瑞樹のために何かをしておきたかった。
「ただいま~」
「おかえり、愛生。それでママに相談したい事って何かしら?…それって、瑞樹ちゃん絡みの事なの?」
ママの感は鋭すぎるよ!瑞樹が女の子として家に来た以来、すごく気に入ったらしく…何かある度、「瑞樹ちゃんはいつ遊びに来るの?」とか「瑞樹ちゃんに料理とかを色々教えたいわ~」とか、ボクに絡んでくる…正直ウザいぐらいに。
「うん、ボクと瑞樹の事で…」
「え!?何?ついに告白をしちゃうの~??嬉しいわ~これで瑞樹ちゃんがお嫁に来るのね~♪そっか~!…そうだ、今日は赤飯!早速、赤飯を炊かなきゃね~♪」
…人の話を最後まで聞けーー!!何、勝手に妄想してるのかな?この人は!また瑞樹を嫁にーって言ってるし!!赤飯とか何?まったく意味が分かんないよ!!
「ちょっと、ママ!最後までボクの話を聞いてよ-!!」
「あら!?違うの??……なんだ…残念」
はぁ~まだ相談もしていないのに…すごく疲れたよ。何故か知らないけど、ママがすごくがっかりした顔をしてるし。話が進まないから、無視して進めよう!
「ボクもうっかりしてたんだけど、明日、学校で午後から体育の授業があって、ボクも瑞樹も以前の体操服しか持っていないから、どうしようかって困っているんだよ」
「な~んだ、そんな事…」
「え!?」
ママの顔に生気が戻ってきた…すごく嬉しそうな顔になっている。これは、また暴走の予感!?
「わったしに、まっかせなさーい!!」
やばい!目が逝っちゃってる!?鼻息が無駄に荒いし…マジ怖いよ!
「…うっうん」
「…明日の午後にあるのね?体育の授業は!そうなると…お昼休みがタイムリミットか……それと、ついでに以前からの計画も…確認しないとね」
ブツブツと何かを独り言を言い始めるママ…。もうボクにはどうする事もできません…好きにして!そう肩を落としていると…。
「愛生!私、今から出掛けてくるわね!!明日のお昼までには帰ってくるから…あなたたちは学校で待っていなさい!ごはんは用意してあるから温めて食べてね!!さぁ…忙しくなるわよ~♪」
そう言いながらボクの返事も聞かずに、ママは家を飛び出していった…。ママはすごく頼りになるけど…最近のママの暴走ぷりは…かなりやばい。
今度からママにお願い事するの、少し考えようかな…マジ疲れたよ、はぁ~。
それよりも瑞樹に連絡しないと…チャットアプリだと伝えにくいから、ここは電話で良いかな?スマホを操作して、瑞樹の電話番号にタッチする。




