第32話 「学・級・円・満」
榎本さんと途中合流をして、私たちの教室へ向かう…。
…昨日みたいに、みんなから質問攻めをされたら嫌だな…。
ふと、私は教室の前で足を止めてしまった。
「ん!?どうしたの瑞樹?」
「……」
心配そうに、愛生ちゃんが私を覗き込んでくる…けど。
私は何も言えずに、その場で立ち止まっていた…とても『怖い』って言えない。
それを察したのか、俊介が私の肩に手を置いて…。
「大丈夫だ、瑞樹が怖がる必要はないからな?先生もそろそろ来る頃だから…教室に入ろうぜ」
俊介がそう笑顔で答える、榎本さんも笑顔で頷き、私の事を見ている。
そっと、愛生ちゃんが私の前に手を差し出してくる。
「ボクもいるからね?大丈夫だよ」
私はそっと頷き、愛生ちゃんの手を握った…暖かい、すごく安心する。
さっきまでの恐怖や不安がどこかに飛んで行ったみたい。
うん、もう大丈夫…みんなが側にいてくれる、怖い事なんか何も無いのだから。
私たちは教室に入っていった…。
「おはよう」と声が飛び交う教室…いつもの私たちの教室だ。
でも、今日はいつもと違っていた…。
「おはよう!朝比奈くん」
「おう!おはよう朝比奈、今日も可愛いな!」
「和泉さん、おはよう~」
「和泉、おっす!」
みんなから朝の挨拶をされてしまった…他の人からしてみたら何てことはない…当たり前の…日常なことかも知れないけど…。
人見知りが酷い私にとっては、当たり前なことではなく、すごく難しい試練なように思える。
仲の良い3人以外には、まともに挨拶も出来ずに朝の挨拶どころか話しかけられる事はなかった。
何も答えずに…その場で立ち尽くしていると、愛生ちゃんがそっと耳元で呟いた。
「ほら、瑞樹…ちゃんと挨拶を返さないとダメだよ?」
その言葉にやっと我に返り、慌てて「うん」と返事をする。
えーっと、どう返事すればいいんだっけ?普通におはようって言えばいいのかな??
とっ兎に角、言葉に出さなきゃ!
「あの…その……おは…よう…ござい…ます?」
なぜか疑問形で答える私…それを聞いたクラスメイトのみんなから大爆笑!
え!?私、何かおかしいこと言っちゃったのかな??
みんなの笑い声がすごく恥ずかしくなってきて…顔が熱い…真っ赤になっちゃってるよ~!
私は慌てて、自分の席に向かい椅子に座る…あ~恥ずかしいよーー!!
机に伏せて顔を隠し、この場をやり過ごすしかない!早くホームルーム…始まってよ~!!
その後から来た愛生ちゃんに、私の肩に手を置き…。
「瑞樹…可愛いな~♪」
とか言ってくるし…もうやめてよ!これ以上、私を弄らないでよー!!
昨日みたいな、みんなからの質問攻めが無くなっていた…今はすごくそれがホッとしている…。
さっきの挨拶の件で、とてもじゃないけど話ができる状態じゃないし…。
ふと、俊介のほうに目をやると、男友達に周りを囲まれ、楽しそうに話をしている。
相変わらずの人気者だ、性格が明るいのもあって友達は多い…イケメンだしね!
その割に女友達が少なかったりする…何故だろう?俊介ならモテそうなんだけどね。
愛生ちゃんと榎本さんぐらいじゃないかな?俊介がまともに話が出来る女の子って…不思議。
俊介が私のほうをチラッと見て、ニヤっと笑っている。
たぶん私たちの事を、みんなと話しているんだと思う…やばい!みんながこっちを見ている。
眼を反らそう…。ううっ…目立ちたくないのに…すごく恥ずかしいよ!!
愛生ちゃんのほうに意識を向けると…榎本さんと他の女友達と楽しく会話をしている。
みんなの視線とか噂話とか…全然、気にしている様子はないし…いつもと変わらない。いつもの愛生ちゃんのようだ。…本当にその性格が羨ましいよ!!
それから若林先生が来て、ホームルームが始まった。
騒がしかった教室も一変して…シーンと静かになり、先生の声だけが響いている。
その間も…私は朝の出来事から立ち直っていなくて…赤い顔を隠すのに必死だった。
隣の席の俊介とその後ろの席にいる榎本さんの話声が聞こえてくる…。
そっと聞き耳を立ててみるけど…ボソボソと話しかけているから、何の会話しているのかうまく聞き取れないけど…。何となく…私たちの事を話してるんじゃないの?と勘ぐってしまう。…私の気にしすぎかな?
「見て!朝比奈くんったら…まだ朝の出来事の事が、よっぽど恥ずかしいかったのね~♪赤い顔を隠すのに必死になってるよ」
「相変わらずだよなぁ~瑞樹は。…その点、和泉ちゃんを見てみろよ…何食わぬ顔をしているぞ…あっちはあっちで、ホントに変わらないよな~」
「ホント、変わらないわね…」
「まぁ仕方ないんじゃね?なんだかんだ言っても…あの2人だしな!」
「そうだね、何かと問題のある2人が…まさか、夢のような出来事なんだからね~」
「そうだな…でもさ、その割にみんなさ…この出来事に納得をしてるように見えないか?」
「そこなんだよねー普通だと大事件だよ…この出来事は!現実だとあり得ない話だもん。それなのにみんな…何か当たり前って言うかね、日常のように理解をしているみたいだし」
「それってあれだろう?…お互い、『本来の姿になりました』…って事じゃないのか?」
「クスっ…そうかも知れないね」
俊介と榎本さんがまだコソコソと話を続けている…話の内容は分からないけど。
俊介がニヤニヤしながら、こちらを見ているから…絶対に私たちの話だよ!
人の気も知らないで…こっちは色々と大変なんだから!!




