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第26話 「二・人・帰・路」

女子トイレから出ると、愛生ちゃんが心配そうな顔して僕の事を待っていた。

気持ち切り替えたばかりなのに、まさか愛生ちゃんが目の前にいるとは思っていなくて…



「え!?」


「あっ瑞樹……大丈夫?」


「うっうん…その…大丈夫だよ」


泣いたばかりの顔を見られたくない、特に愛生ちゃんには。

そう思い、すぐさま顔を背けて、そう答えるのが今の僕には精一杯だった。

心配する愛生ちゃんを余所に、僕は無言で横切っていく。


「ちょ!瑞樹!?」


「あの…教室に戻らないと…授業が始まっちゃうよ?」


そう言って後ろを振り返らずに、僕は走り出した。



教室に戻って席に着くと、俊介と榎本さんに話しかけられたけど、

「大丈夫だよ、心配かけてごめんね」と謝っておいた。

それ以上は何も聞いてこなかった…ありがとう。

その後、愛生ちゃんが戻ってきて、席に着く。

僕は、愛生ちゃんの顔を見ることができなかった。



授業が全て終わり、帰りのホームルームが始まった。

特に連絡事項はなかったけど、若林先生が僕たちの事をみんなに念押しをしてくれていた。

「2人の事は、色々と大変なことが多いだろうから、協力してやってくれ」っと。

ホームルームが終わり、先生が教室を退室して放課後となった。


ホントに今日は色々な事がありすぎてすごく大変だった…

すごく疲れたよ…早く帰りたい。

そう考え込んでいると、愛生ちゃんから声をかけられた。


「瑞樹!?…その、大丈夫?」


「あーうん、取り乱しちゃって…その、ごめんね。もう大丈夫だよ」


「…じゃあ、帰ろっか」


「うん」


そう返事して、僕は鞄を持ち、席を立つ。



「華奈ちゃん、また明日ね~バイバイ!」


「愛生ちゃん、また明日~」


「俊介、また明日ね」


「おう!瑞樹、またな~」


僕たちは、それぞれの友人に挨拶を済ませ、教室を出ていく。

玄関口で靴に履き替え、学校を出る。



僕達の住んでる場所は、山を開拓して出来た住宅地。

街より少し離れた場所にあり、のどかな住宅街。

街へ出るには電車はなく、主にバスが交通の主流となっている。

たまに愛生ちゃんと2人で街に出て、色んな場所へ遊びに行ったりするんだけど…。


僕達の通う高校は、その一番高いところにある。

屋上から見える街並みはすごく綺麗で、僕のお気に入りの場所でもあるんだ。

学校の場所は家から歩いて10分ぐらいなんだけど…

坂がとてもきつくて、登校するのがかなりきつい…帰りは楽なんだけどね!


今日も愛生ちゃんと一緒に並んで、自宅へと向かう。

いつもの僕たち……じゃない、2人とも性別と見た目が変わっている。

それなのに、愛生ちゃんは女の子の時と同じ、いつもの愛生ちゃんのようだった。

男の子になったというのに、特に変わった様子もなく…困った風にも見えなかった。


学校から離れて少し経ったときに、すごく聞きたくなった。


「…あのその、愛生ちゃん?」


「ん!?どったの?」


相変わらずの素っ気ない返事……イラッ!。


「何か…うん、その土曜日から色々とあって…」


「まぁ色々とあったねぇ~」


またさらっと答えた……何かむかつく。


「そっそれでね、今日も色々とありすぎたから…疲れちゃったな~って」


「うーん…瑞樹が急にトイレに駆け込んだ時はびっくりしたけど…まぁいっか。

んーそれ以外は…ボクはいつも通りだったけど?」


トイレの件は、僕も反省している…すごく取り乱しちゃったから、そっそれよりも!

やっぱり…思っていたとおりの返事だった。

やっと落ち着いてきたはずの僕の感情が…また乱れだしていた。

落ち着かせるように、そっと深呼吸して…愛生ちゃんに問いかけてみる。


「あの…いきなり男の子になったのに…その…平気なのかなって」


「まぁねー男の体なんて小さい頃に、瑞樹の見てるし~今更って感じ?」


思っても見なかった答えが返ってきて、僕の頭の中がパニック!!

違う…そうじゃない、僕が聞きたいのは…そう言う事じゃなくて。


「えっえっえっ!あのその…」


焦って、うまく言葉が出ない僕の事を気にせずに、愛生ちゃんは続けた。


「瑞樹だって…ボクの体を見ているだろう?今更じゃないの??

何をそんなに焦る必要があるのさ?自分の体でしょ??」


ちっ違う!!僕が聞きたいのはそうじゃなくて、あーもう!だめだ。

僕は溢れる感情を抑えきれず、


「ぼっ僕は愛生ちゃんみたいに割り切れないの!」


愛生ちゃんはその言葉に驚くこともなく、肩を竦めて両手を開いて

ヤレヤレ…って感じのジェスチャーをしながら…


「そんなもんかな?瑞樹は少し考えすぎるところがあるよ、

何でも独りで考えすぎ…なっちゃったもんは仕方ないでしょ?」


僕は返す言葉が見つからなくて、でも感情をうまく抑えられなくて、

顔を背け、愛生ちゃんの方を向かずに…


「…もう良いよ、僕…先に帰るね」


僕はそう呟きながら急ぎ足で、一人、自宅に向かった。


「あーうん、また明日ね~」


後ろを確認しなかったけど…

たぶん愛生ちゃんは手を振りながら、僕の後ろ姿を眺めてたと思う。


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