第25話 「情・緒・不・安」
キーンコーン、カーンコーン♪
授業の終わりのチャイムが流れる。
それと同時に、僕の机の周りに人だかりが…特に男子が多い。
それから、みんなより一斉に質問を受ける。
「女になってどんな気持ち?羨ましいな」だの「バストいくつ?あまり大きくないな」だの
「パンツの色は何色?見せて!」だの…答えられない質問ばかりしてくる…何この男共は?
性別が変わる前はそんなに親しくなかった人も集まっていて、何かと僕に聞いてくる。
何、この扱いは?男と女でここまで差が出てくるの??
愛生ちゃんのほうは、僕の逆で女子が多い。
「すごくカッコ良くなったね」とか「背が高くなって凛々しい!」とか
「その逞しい腕に抱きしめられたい!」とか…何なの!?この差は??
なんかすごく腹が立つ…女の子にチヤホヤされてるのは、すごくモヤモヤする。
何となくだけど、愛生ちゃんの顔が…にやけているような……むかつく!
僕のほうには俊介が、愛生ちゃんのほうは榎本さんが間に入って、うまく話をかわしてくれている。
俊介には感謝だよ…俊介がいなかったら、僕はどうなっているか……想像したくもない!!
こんな調子がお昼前まで続き、お昼休みは、愛生ちゃんら3人でうまく食堂まで逃げてきた。
「何とか、逃げて来れたな…ふ~。しかし大変だったな、瑞樹」
「…もう疲れたよ…早くお家に帰りたい」
僕の精神がもたないよ…人に注目されるだけでも嫌なのに、囲まれるとか…拷問です。
それに答えられない質問ばかり……男の子が怖いです。
それを聞いていた愛生ちゃんが不思議そうな顔をして…
「適当に聞き流してたら良いじゃない。まともに聞いていると疲れるだけだよ?
他の連中とか面白半分で聞いている訳だし」
あんなに人に囲まれ、色々と質問されていたのに、なんともない様子。
何かむかつく…休み時間中、ずっと女の子にチヤホヤされていたのもあるし…
何だろう、すごくムカムカしてくる。僕の中で色んな感情が溢れだしてきて…止められない。
言いたくないはずの言葉が口から出てしまう。
「良いよね、愛生ちゃんは!女の子にチヤホヤされてて!!
僕なんか…男子から答えられない質問ばかりされて…
休み時間が全然、休みになってないし!」
「え!?瑞樹??何をそんなに怒ってるんだよ??
それよりも…答えられない質問って何かな~?ボクはそっちが気になるよ!」
「へ!?…いや、あのその、つまり…僕からは…言えないって…言うか、その…」
いきなり話を振られ、みんなとの会話を思い出しとても恥ずかしくなってきて…
僕は、先程の怒りがどこかに飛んで行ってしまった。
頭の上にぷすっぷすっと煙が出ているような感じで、頭がショートしちゃった。
それを見ていた榎本さんが、
「まぁまぁ、夫婦喧嘩はそこまでにして…早く食堂に行こうよ~
私、お腹すいちゃったし」
「そうだな、俺もお腹空いたわ。
それに早く行かないと座れる席がなくなるしな、早く行こうぜ!」
2人が会話の間に入ってくれたおかげで、僕の状態は何とか収まったみたい。
相変わらずこの2人には頭が上がらない…いつも助けてもらってばかりだし…
すごく申し訳ない気持ちでいっぱいだった…いつかお礼をしたいな~。
収まったと言っても、僕の中には色んな感情が渦巻いている。
何故だか分からない…けど、女の子になってからは、自分を制御できない感覚がある。
ホント、これは何だろう…考えても答えが出るはずもなかった。
俊介のおかげで、お昼休みからの後は、質問攻めはかなり少なくなった。
ホント俊介には感謝しきれないよ~何かお礼をしないとだね!
…それよりも、愛生ちゃんのほうだよ!
愛生ちゃんは近づく女の子に嫌がる素振りも無く、楽しそうに会話をしている。
また僕の胸の中でモヤモヤしてくる…怒り?悲しみ?焦り?嫉妬?
不確定な負の感情が数多く混ぜ合わせっていく感覚…。
何故だろう…怖い!すごく怖い!!僕はどうなってしまうんだろう!?
そう思うと、僕の頬に冷たいものを感じる…。
「おい!瑞樹、大丈夫か!?」
「へ!?ぼっ僕??、えっと、何か…おかしい??」
「お前…何、泣いているんだ?今日の事がよっぽど辛かったのか??」
分からなかった…僕自身が泣いてることに…泣いてる理由さえが分からないことに…。
涙が止まらない…このままだとみんなに心配をかけてしまう。
…そうだ、トイレに逃げよう……そう思い、教室を飛び出した。
「おい!瑞樹!!」
俊介の声も僕には聞こえなかった…とにかくこの場から逃げたかった。
落ち着かない胸の中の気持ちを何とかしたかった。
3階の1-B教室と同じ階にある女子トイレに駆け込んだ…。
もう女子トイレには抵抗はない…この土日に女子トイレへ入る事に、
用を足すの事も慣れてしまったから。
個室のトイレに入り、鍵をかけ便器に座り込む…。
まだ涙が止まらない…声を出すわけにもいかず、堪えながら…
「うっ…ぐす……ううっ」
僕は泣いた…何故、泣いているのか…未だに理由が分からない…けど泣き続けた。
兎に角、涙が止まらなかった……どれぐらい時間が立ったのだろう…。
泣いたことで、胸のモヤモヤが少し晴れた気がする、スマホを確認してみると
休み時間も残り少なくなっていた……涙を拭いて、教室に帰ろう。
その前に洗面所の鏡で自分の顔を見てみる…
目が赤くなり、すごく悲しそうな顔をしている、ダメだ…みんなに心配をかけてしまう。
両目を瞑り、心を落ち着かせる。大丈夫…僕はもう大丈夫だ…。
そっと目を開けて、ニコっと笑ってみた…うん、もう大丈夫。
僕はトイレを出た。




