第20話 「登・校・初・日」
ピッピッピッピー!ピッピッピッピー!
「んー」
ピッ!
目覚まし時計の音で、朝になってた事に気付く。
目覚ましの機能をOFFにして、ゆっくり体を起こしていく…。
「ん~ん、良く寝た」
さすがに3日目になると、この声にも慣れてきたかな…。
女の子になって過ごしたこの土日は、凄まじい出来事のオンパーレドだった。
土曜は、愛生ちゃんと色々な相談に、母さんと妹主催の僕の着せ替えショー。
昨日は妹とのお出掛け、ナンパされる!俊介に助けられる!
そう思い返すと溜息しか出ないよ…はぁ~。
しかも今日から学校だし、どうしようかな…前の制服、大きすぎて今の僕では
着れるはずもない。体操服ももちろんダメだし、私服で行ける訳でもないし…。
学校を休むわけにもいかないしね…母さんが許すはずもない、ズル休みになっちゃうから。
兎に角起きよう…それから母さんに相談かな?
そう思って起きてみると…机の上に、何かが置いてあるのに気付いた!
あれ?昨日寝るときには何もなかったはず、いつの間に誰が置いたのだろう?
手に取って見てみると…僕の通っている高校の制服だ!しかも女子用の。
「へ!?これって…」
兎に角、着替えてみよう…早速、袖を通してみる…うん、サイズもぴったり!
どうしてこの制服が机の上にあったんだろう…昨日、母さんは何も言わなかったのに。
そういえば、土曜日に…愛生ちゃんがこう言ってたのを思い出す。
『うーん、ママが何とかするって言ってたし…まぁ何とかなるんじゃない?』
…まっまさかね!…でも愛生ちゃんのおばさん…何かと謎な部分が多いだよね。
愛生ちゃんから聞いた話だと、色んな方と知り合いが多いらしくて、顔は広いらしい。
詳細までは愛生ちゃんも分からないらしい、何か触れてはいけないような感じがする。
それについては…考えないようにしよう…うん。なぜか直感で、そう思った。
スカートには、まだ慣れないけど…うん!良い感じ!!
鏡の前で、おかしくないかチェック…ホントに僕じゃない感じがするよ…。
鏡の向こうで…とても可愛らしい少女が制服を着て、こちらを眺めている。
…これが僕なんだ…とても不思議な感覚…嫌とかそんな悪い気持ちはない。
それがどんな感情なのかは未だに僕は分からない…でも嫌じゃないのは確か。
それにこの土日は、母さんと妹に着せ替えさせられて、
じっくり自分の姿を見ることもできなかったし…。
ぼぉーっと鏡を眺めていると…声が飛び込んできた。
「瑞樹~早く支度しないと、学校に遅れちゃうわよ?
あなたの制服、ちゃんと机の上にあったの、分かった??」
母さんだ…って、もうこんな時間!早く準備しないと!!
「うっうん!大丈夫、もう着替えたから」
「だったら早く降りてきなさいーご飯を用意しているから」
「すぐ行くよ」
鞄を持って、すぐさま下のリビングに向かった…。
朝ご飯を終え、母さんに見送られて家を出た。
「学校へ行ったら、先ず担任の若林先生に会うこと、忘れないようにね~
気を付けて行ってらっしゃい!」
「うん、行ってきます」
初めての女子の制服での登校…何時もの感じで外を出てしまったんだけど…
会う人にジロジロ見られる…おかしい所でもあるのかな?
家を出るまでにはきちんと服装はチェックはしたんだけど…。
この姿を見られても、まず僕って分からないから、なんか変な感覚…。
知らない街に来ている感じがする…すごく恥ずかしいよー!
そんな事だったら、愛生ちゃんに連絡して、一緒に登校すれば良かったよ…。
とても前を向いて歩けなくて…下向き加減で学校へ向かっていると…
後ろから走って近づいてくる音がした…たぶん愛生ちゃんだ。
愛生ちゃんの家は、僕の家より少し学校が遠くなるから、
登校時は、僕の後から来る感じになる、いつもの様に走り寄って来るものだから。
「おっはよー瑞樹!!」
そう挨拶と共に、愛生ちゃんは僕の背中を思いっきり叩きに来た。
バシッ!!
「いたっ!少しは加減してよ…マジ痛いって!」
ホントに痛い!危うく泣くところだったよ!!
男の時からも良く叩かれてたけど…その時の痛さとは愕然と違っていた…。
僕の痛がる様子を見て、心配そうに、こう言ってきた。
「ごめんごめん、男の子って力強いんだね、力加減が分からなくて」
「もう…気をつけてよ」
「だからごめんってば!…そういや、その制服…良く似合ってるね!うんうん。
でもさ、その制服はどうしたの?」
そうやって、すぐ話題をそらすー!謝ったから許しちゃうけど…。
そうなんだよね…この制服は…すごく気にはなってたんだけど。
「朝起きたら母さんが用意してくれてたんだけど…
詳しい話は教えてくれなかったんだよね、昨日は何も言ってなかったのに。
僕、スカートが…まだ慣れなくて恥ずかしいんだけど」
スカートを着るのもまだ慣れない…しかも制服のスカートは短いから…。
とても恥ずかしい!…ズボンだと何も考えなくて良いから楽だったよ。
そう恥ずかしがってると、愛生ちゃんも頷きながら…。
「そうなんだ…ボクの制服もママが揃えたんだよね…」
(おばさん、瑞樹に何も言わなかったのか…それはそれで面白いから良いか!)
「どこで手に入れたんだろうね?…不思議だよ」
「まぁ良いんじゃない?気にしない~♪」
(そのうち分かるだろうから、ボクが言うことじゃないね…知らない振りしとこ!)
また出たよ…この楽天家のような考え方…どうしてそんな考え方が出来るのかな?
僕には信じられないよ…いつもそうだ、つい本音が出てしまう…ため息混じりの。
「ホント、その性格が羨ましいよ」
「もう!瑞樹はいつもそうだよ…前向きにいかなくちゃ!
そうウジウジ考えたって、疲れるだけだよ?」
どうやったら、そんな風に物事を割り切れるんだろう…いつも思う。
それをあっさりと口に出来る…羨ましい!
なんか悔しくて、ついこんな事を口走った。
「僕はまだこの現実が信じられないし、受け止められないんです!」
僕の嘘も何もない、今の心理状況を言葉にしてしまった…。
そんな僕を叱るでもなく。
「まぁまぁ怒らない、怒らない、朝から疲れるだけだよ?
それよりママが言ってたんだけど、若林先生に先ずは会えって言われてて…あー!」
愛生ちゃんが誰かを見つけたようだ…あ!榎本さんだ…どうしよう…。
愛生ちゃんはそんな僕の気持ちもお構いなく、友人に声をかけていた…。
「華奈ちゃん、おっはよー」
手を振りながら、いつもの笑顔で友人に挨拶してる…。
案の定…榎本さんは固まっていた……そうですよね…。
「え…はいっ?…どちら様??」
当然の反応されたよ…説明もせずに、いきなり声をかけるから…
僕達って分かる訳が無いじゃないか!愛生ちゃんの馬鹿!!




