世界崩壊の危機!? 魔王理事長ルシファーの策略!?
勇者隊ガンバレヨの後編です。戦隊モノと言えばやっぱりあれですよね? 獣型の巨大ロボが出てきたら……今回は後編なので「萌え」じゃなくて、「燃え」成分高めです。最後までお付き合いをいただけたら幸いです。
5話 世界崩壊の危機!? 魔王理事長ルシファーの策略!?
いつもの朝……コーヒーを飲み、大好きなベーコンエッグにパンを乗せ、噛り付く。そしてテレビをつける。それが僕の日課のようなものだった、けれど、1つのニュースの報道で、全てが変わった。
【ニュースです……魔王理事長ルシファー様の公害対策として……今夜8時にて、全世界テラフォーミング化計画を開始いたします……これは魔王理事長ルシファー様の魔法の力で、全ての電力を永久的にストップさせる計画です……電気を扱う皆様はくれぐれもお気をつけください……この放送は全世界に繰り返し、放送しています】
テレビに映されたのは、魔王理事長ルシファーが魔法陣を展開し、電気をストップさせる立体映像シュミレーションだった。
「全世界の電気をストップさせるだって!?」
その報道に驚き、僕はベーコンエッグトーストを落とした。
TV番組で、全ての電気が止まった時のシュミレーションを見たことがある。いくら報道で呼びかけたとしても、全世界の電気をストップさせれば、多くの人間が死ぬ事になる。管制塔のレーダーは止まり、飛行機事故は免れない。電気で動いている医療機器が止まれば、医療で延命している人間や重病人は死ぬ事になる。
「どったのブレイブ?」
イブフェアリが眠そうに目をこすり、飛んでくる。
「大変だイブフェアリ! 魔王理事長ルシファーが魔法で、全世界の電気を永久的に止めるって!」
「何それ? 魔法で周囲の電気を一定の時間を止める事は可能だけど、全世界の電気を永久的に止めるなんて芸当……神様でも無理だよ」
「でも、ニュースで報道しているんだ! 魔王理事長ルシファーが全世界の電気をストップさせるって!」
「そんなはずは……」
イブフェアリが、テレビに接近し、まじまじと見る。
「分かる?」
光の魔法陣を描き、そこからミニチュアサイズの本を取り出す。イブフェアリは本を開き、「あれでもない」「これでもない」と呟きながら、本を開いていく。
「魔法陣から……古代魔法だと思うんだけど……見た事の無い術式だね。範囲が広く指定されているのは確か……私の知らない未知の魔法?」
「テレビで報道されているんだ! こけ脅しなんかじゃない!」
「分かったよブレイブ……みんなを招集しよう!」
イブフェアリの連絡によって、剣道部室にギブア、フレンズ、ラブの僕を含めた4人と、1匹(?)が集められた。
「みんな……ニュースで知ったと思うけど……世界は危機に瀕している。もし、魔王理事長ルシファーの魔法が発動すれば、世界は原始時代の文明レベルにまで落ちてしまう……それに多くの世界の人々が死んでしまう……これは私達、勇者隊ガンバレヨが阻止しなければならない出来事だよ! みんな! 力を貸してくれる?」
イブフェアリの声に「もちろんだよ」「もちろん」「もちろんだ」「もちろんです!」と、僕を含めたみんなの笑顔と共に、返事が返ってきた、世界を守りたい気持ちはみんな同じなんだ。
「ありがとうみんな……実はエデンアップル学園の屋上に、高い魔力が発し続けられているのを感知したの」
「それって罠なんじゃ……その魔法って、詠唱にそんなに時間がかかるものなの?」
魔法発動前に、あらかじめ高い魔力を発し続けるなんておかしい……罠かもしくは、予定より早く魔法を実行するつもりなのか?
「詠唱時間を考えても3分もかからない……時間指定してきたのもあれだし、罠かもしれない……けど、止めるにはやるしかないよ」
「魔法発動場所が分からない以上……これを信じるしかないな。総力戦になりそうだな」
ごくりと唾を飲むフレンズ。
「そこで私の提案なんだけど……勇者隊ガンバレヨの新たな力を解放したいと、思うの」
【新たな力!?】
イブフェアリの勇者隊の新たな力という言葉に、僕達は声を揃えて驚きの声を上げる。
「本当はこの力は使いたくはなかったの。街に被害が出るし、気は進まないんだけど……」
イブフェアリは呪文を詠唱すると、光の魔法陣から、宝石が付いた4つのブレスレットが浮き出る。
「これは?」
「サモンブレスレットと言って……獣機神を呼び出す事ができる物なの。サモンと叫べば、獣機神が駆けつけてくれるわ」
サモンブレスレットが、光を伴って僕達に引き寄せられるように、装着される。
「ありがとうイブフェアリ。この力があれば、魔王理事長ルシファーに勝てるかもしれない」
「う~ん……まさか……」
イブフェアリが、何かを思い悩むような表情になる。僕は気になって、イブフェアリに、声をかける。
「どうしたのイブフェアリ?」
「ブレスレットが足りないのが気になって……私の知らない間に、新たなヴァルキリーが神の代行者となって、魔法戦士ガンバレヨに、ブレスレットを渡したって言うの?」
「質問なんだが……魔王理事長ルシファー達が同じような力を持ってる可能性はあるのか?」
フレンズの問いに、イブフェアリはまた、「う~ん」と、呻くように言う。
「獣機神に対抗する力があるとすれば、巨大化の魔法だけれど……悪魔が開発しているあの召喚魔法が完成してれば……いや、そんなはずはないかな」
「大丈夫なのか? 秘密兵器に対抗措置をとられていたら、まずい状況になるぞ」
「大丈夫だよ……いざとばれば、魔法戦士ガンバレヨが駆けつけた時に獣機神のカプリコーンと合体すれば、大丈夫だし」
「分かった、イブフェアリを信じよう」
「それじゃあ、今夜の7時に作戦決行だよ!」
そして……現在に至る。振り返れば、長い月日だったように感じる。
「強くなったな! 勇者ガンバレヨ!」
魔王理事長ルシファーも衰えていないどころか、強くなっているのを実感する。
「お前が弱くなったんじゃないか! 魔王理事長ルシファー!」
「いいだろう! すぐに冗談を言えなくさせてやる! 教師魔リリス!」
屋上より、空高くいる教師魔リリスが、何やら呪文詠唱を始めると、空に魔法陣が展開する。
「止めて! 巨大化魔法だよ!」
「言われなくても、止めるさ!」
イブフェアリの声よりも早く、弓士ガンバレヨは弓を構え、矢を放つ。
神速で放たれた風を帯びた矢は、教師魔リリスに届くかと思われたが、魔王理事長ルシファーのカオスブリンガーによって、叩き落される。
「空より高くそびえ立つ者……我が声に答え……汝に示す者に巨人の力を与え! 拾え!」
美術部メデューサに魔法陣が降り、その身体が光に包まれ、みるみる大きくなっていく。
『ふふ……ここいらでシメといこうかねぇ!』
美術部メデューサの蛇の半身が巨大化していき、屋上を包んでいく。
「まずいよ!? 街に被害がでちゃう!? 天に輝く光よ……我が声に応え、光の盾とならん! シールドリフレクト!」
イブフェアリは呪文を唱えると、学園周囲が、白いドーム状の光に包まれる。
「イブフェアリ、貴様……何処でそんな力を?」
「学校と周囲にバリアを張ったよ! 街には被害が及ばないから思い切り戦えるはずだよ」
巨大な蛇の身体が僕達に巻きつき、動きを止める。
「そんな事を言っても……に、逃げられません!? きゃあああっ!?」
巨大な蛇の身体に巻きつけられ、悲鳴を上げる魔法少女ガンバレヨ。他の勇者隊メンバーも、力で締め付けられ、苦悶の表情だ。
「ブレイブ! 今こそ召喚の力だよ!」
僕は巨大な蛇の身体の締め付けに耐え、何とか腕を上げ、サモンブレスレットを掲げた刹那。
「サモン! 来て! 獣機神レオ!」
ブレスレットが光を帯び、魔法陣が展開した刹那。巨大な火の輪を帯び、現れたのは巨大な機械の獅子だった。赤い鉄のようなボディに金の鬣、背中には二門の砲身がある。
『獣機神かぇ!?』
「獣機神レオ! ヒートクローだ!」
炎を帯びた爪が、美術部メデューサの巨大な身体を斬り裂く。
『ぎゃあああっ!?』
とぐろを巻いた美術部メデューサの身体が離れ、僕達は宙に投げ出される。
「サモン! 来てくれ! 獣機神サジタリウス!」
弓士ガンバレヨが、ブレスレットを掲げた刹那。
ブレスレットが光を帯び、魔法陣が展開した刹那。雲に穴が開き、巨大な機械の馬が駆けて来る。緑と黒を基調としたボディに頭に角、背中には翼と、二門の大口径キャノンがある。
獣機神サジタリウスが、落下する僕達を背中で受け止める。
「逃がすかぇ!」
巨大な絵筆で、叩き落とそうとする美術部メデューサに、獣機神サジタリウスは二門の大口径キャノンを発射する。
獣機神サジタリウスから発射された2つの光線は、美術部メデューサを吹き飛ばした。
「潰せ! 水泳部クィーンスライム!」
巨大化した水泳部クィーンスライムが大空高き舞い上がり、落下する。
「潰れな! スライムプレス!」
「サモン! 来てください! 獣機神アリエス!」
魔法少女ガンバレヨが、ブレスレットを掲げた刹那。
ブレスレットが光を帯び、魔法陣が展開した刹那。地上に光の草原が生まれ、巨大の機械の羊が現れる。白いボディに黄金の角、背中には翼と、三連装の機銃がある。
「この落下速度に、間に合うはずがないのだ……」
獣機神アリエスが羽根を舞わせ。三連装の機銃を連射する。獣機神アリエスが放った無数のビーム光は、散らばった羽に反射し、巨大化した水泳部クィーンスライムの身体に直撃する。
『馬鹿なあああっ!?』
巨大化した水泳部クィーンスライムが吹き飛び、森に突っ込み、土煙を上げる。
【融合!】
僕達がブレスレットを掲げると、光となって獣機神へと憑依する。
獣機神と融合する事により、自分の身体のように動かす事ができるのだ。
『捕まえたよ!』
巨大化した裁縫部アラクネが糸を放ち、3機の召喚獣機神が捕えられる。
「くっ!? しまった!? なんてね……ギブア、お願い!」
獣機神レオの足下に居たギブアが、ブレスレットを掲げる。
「サモン! おいでませ! 獣機神タウルス!」
地面を割って、角を持った機械のバッファローが現れる。黄土色の機械の身体の背中には、ロケットランチャーと、ガトリング砲が取り付けられている。
『隠れていたのかい!』
地面の石の礫が飛び、捕えられた3機の獣機神の糸を斬り裂いていく。
ギブアは光に包まれて、獣機神タウルスと融合する。
【行くの! 獣機神タウルス!】
戦士ガンバレヨの獣機神タウルスが、ガトリング砲とミサイルを放ちながら、裁縫部アラクネに体当たりを食らわす。
『ぐがあっ!?』
アラクネが吹き飛び、シールドリフレクトに叩きつけられ、電気を帯びる。
「イブフェアリ! お前の唱えたシールドリフレクトは完璧なんだろうな!」
「何を言って……まさか秘密兵器が完成したんじゃ!?」
慌てて、呪文詠唱を始めるイブフェアリ。
「悪魔の軍勢のお前が知っての通りだ! そうだ! 俺も持っているんだよ! 獣機神に対抗する力、魔獣機神をな!」
「イブフェアリが悪魔? 何を言って?」
僕は獣機神レオを通して、イブフェアリの表情を見る。
「そんなものを使ったら……私の魔力でも……駄目、頑張らないと!」
イブフェアリの唱えたシールドリフレクトが、厚みを帯びて輝きを増す。
イブフェアリから、誰かを守りたい思い、必死さが伝わっている。人を守ろうとするイブフェアリが、悪魔な訳がない。何を言っているんだ、魔王理事長ルシファーは!?
【ブレイブ、気をつけろ! あいつも同じブレスレットを、持っている! 恐らくは、イブフェアリが言っていた秘密兵器だ!】
弓士ガンバレヨが憑依しているサジタリウスが、僕に伝える。
「もう遅い! サモン! 魔獣機神ルシファードラゴン!」
魔王理事長ルシファーが、ブレスレットを掲げた刹那。
ブレスレットが光を帯び、魔法陣が展開した刹那。闇を帯びて、機械の竜が現れる。黒色の機械の身体に、背中には大口径の二門の砲身が付いている。
「まさか本当に完成していたなんて!?」
「融合!」
魔王理事長ルシファーがブレスレットを掲げると、光となって魔獣機神へと憑依する。
【みんな一斉攻撃だ! 魔獣機神ルシファードラゴンに、攻撃を集中するんだ!】
【了解!】
弓士ガンバレヨの指示で僕達、獣機神が、魔獣機神ルシファードラゴンに向けて全弾を発射する。弾丸とミサイルは全て当たり、爆発する。
魔獣機神ルシファードラゴンは、爆発四散するかと思われた刹那。煙が晴れると共に現れたのは、黒いドーム状の光に包まれた魔獣機神ルシファードラゴンの姿だった。
『ブラックホールリフレクター展開』
魔獣機神ルシファードラゴンの上を向いていた巨大な砲身が、こちらに向く。
「みんな回避行動をとって! 魔法がくる!」
僕が言うよりも早く砲身は闇を帯びる。
『もう遅い! ダークスターブレイカー!』
魔獣機神ルシファードラゴンの砲身から、放たれた闇を帯びた光線は、僕達、獣機神を包んだ。
【そんな!? 耐えられない!?】
黒色の爆発は獣機神を吹き飛ばし、イブフェアリのシールドリフレクトを、粉々に破壊した。
【あうっ!?】
何とか獣機神を動かそうとするが、痛みが伝わって、獣機神レオは微動だにしない。
『時間よ』
ルシファードラゴンの頭部に止まり、教師魔リリスが言う。
『見よ! これが世界再生の姿だ! テラフォーミング!』
ルシファードラゴンが校庭に向けて爪を振り下ろすと、巨大な光の魔法陣が展開した刹那。草花が広がり、蔓が伸びて、あらゆる物を飲み込んでいく。
校舎、地面、ビル、家々を、全てを緑に染めていく。
「そんな!?」
気づけば、獣機神は光の粒子となって消え、僕達は元の姿へと戻されていた。
「宴の肴は、お前がふさわしいだろう」
倒れた魔法少女ガンバレヨに、魔王理事長ルシファーが、無理矢理に引き起こす。
「やめろ! 魔法少女ガンバレヨには……手を出すな!」
立ち上がろうとするも、僕の身体は全く力が入らなかった。膝をつくのが、精一杯だった。獣機神に使った魔力と、ダメージが僕に蓄積したせいだ。
「離してください!」
暴れる魔法少女ガンバレヨを、羽交い締めにする魔王理事長ルシファー。
「暴れるな……余計にそそられるからな」
そのまま、魔王理事長ルシファーは魔法少女ガンバレヨに顔を近づけたかと思うと、キスをした。
「んむっ!?」
「魔法少女ガンバレヨ!?」
魔法少女ガンバレヨと魔王理事長ルシファーの口が離れると、怪しく糸を引いた。そして、魔法少女ガンバレヨが気を失い、力なく項垂れ、元の姿へと戻る。
「安心しろ、魔力を吸収しただけだ」
「ラブを離せ!」
「これよりアリエスの娘と結婚の義を執り行う……取り返したければ、来るがいい!」
手紙を投げ捨てると、魔王理事長ルシファーと、四天王は闇を帯びて消えた。
周りを見渡せば、草原と化した校庭と、蔦と苔に覆われたビルと、家々だった。
「僕はなに一つ守れなかった……」
僕は思い切り地面を叩く、周囲が陥没する。
こんな力があっても、何一つ守れないなんて……
周囲には壊れた校舎と、倒れた木々、半壊した山があった。
「手紙の内容は……明日の19時にて、ホワイトハウスでラブ・スペルの結婚の儀を行う……ご丁寧に時間指定までしてきてるね」
イブフェアリが、投げ捨てるように、手紙を置く。
「やっぱり……罠かな?」
「罠でも行くしかないと思うの……これで本当に最後の戦いになるかもしれない……貴方達は命を賭ける覚悟はある?」
「あるよ」
「大丈夫なの」
「大丈夫さ」
(イブフェアリに騙されては駄目……)
何処からか、声がする。この声はどこかで……
「誰?」
「どったのブレイブ?」
「誰かが僕に語りかけてくるような……」
「私達、以外に誰かいるのか?」
弓士ガンバレヨが僕をゆする。
(聞いてブレイブ)
その声が聞こえた刹那。僕の視界は真っ白になる。
「これは……誰かがブレイブに魔法をかけてる! まずい! ブレイブを遠くに離して!」
イブフェアリの声を最後に、僕の視界は完全にブラックアウトする。
いったい……何が?
気づけば僕は、暗い空間の中にいた。目の前には教師魔リリスがいる。
(これはお前の仕業か! 教師魔リリス!)
僕の声は、エコーがかかったような声になっていた。
(魔法のテレパスよ。心の声で通じ合う魔法よ。嘘がつけないのが欠点だけれど)
(僕を勧誘しに来たのか?)
(いいえ、違うわ……忠告しに来たの。イブフェアリは危険よ……あれは悪魔の軍団を引き入り、天界を襲った首謀者)
(そんな馬鹿な!? イブフェアリは一生懸命、人助けをしてたじゃないか!)
ラブと、川に飛び込んだ子犬を助け、獣機神での戦いの時には、戦闘での魔法で被害を抑えようとしたイブフェアリは、善人にしか見えない。
(本来、貴方達に聖石を渡す者は、天使のヴァルキリーのはずだった。それをイブフェアリが……)
(騙されないでブレイブ! それは敵の精神攻撃よ! サタンがやってきた事を、思い出して!)
サタンは、大切なものを奪ってきたじゃないか? ラブを連れ去り、大切な父よ傷つけ、文明さえ破壊した。それが悪でなくて、何だと言うのだ?
(教師魔リリス、じゃあ……サタンはなぜこんな事をするの? なぜ、僕の大切なものばかり奪っていくの! 教えてよ教師魔リリス!)
(それは……)
(ブレイブ……ブレイブ……ブレイブ!)
イブフェアリの声が、僕を呼ぶ。
「イブフェアリ?」
気づけば、小さな手でペチペチと、僕の頬を叩くイブフェアリがいた。
「起きて! ブレイブ!」
鈍い痛みに僕の頭は、完全に覚醒する。
「イブフェアリ? ここは?」
見回せば、周りは畳部屋の部室だった。
「剣道部室なの……頭、ぶつけたブレイブ?」
ギブアが心配そうに顔を覗き込む。
「精神系の魔法を食らったと聞いた時には、心配したが……大丈夫か?」
フレンズがメガネを動かし、言う。
「ありがとう、大丈夫だよ……イブフェアリ、話があるんだけど」
「へっ? なにブレイブ?」
気のせいか、イブフェアリの表情が強張って見える。
ギブア、フレンズ、ラブには剣道部室を出てもらい、イブフェリと2人きりにしてもらった。
「教師魔リリスが言ったことは、どういう事なの?」
疑っている訳ではないが、真実を確かめる必要がある。
「なんのことか……分からないよブレイブ」
笑顔で答えるブレイブ。
「悪魔の軍団を従えてたとか、何とか……」
「酷いよブレイブ……私を疑ってるの?」
泣きそうな表情のイブフェアリ、なぜだろう……動揺の色が見えるのはなぜ?
「ごめん……でも、確認したかったんだ。イブフェアリが、本当の事を言ってるかどうかを」
心の迷いがとれない。
僕は思わず壁を叩く。
僕は、こんなにも人が信用できないなんて……
気づけば、僕は逃げるように剣道部室を出ていた。
「待ってブレイブ!」
と、イブフェアリの声が聞こえたが、僕は足を止める事ができなかった。
「ブレイブ! どうしたんだ?」
フレンズが僕に駆け寄る。
「分からないんだ! 味方が誰なのか? 敵が誰なのか?」
優しく肩を抱くフレンズに、されるがままになる。それが余計に情けなくなり、悲しくなる。
「落ち着けブレイブ……今、戦っている魔王理事長ルシファーは敵だ! それ以外にない……奴らのしてきた事は悪だ! そうだろブレイブ?」
「だけど……時々、分からなくなるんだ! イブフェアリは嘘をついている……イブフェアリは悪気があって、僕達を騙している訳ではないのだと思いたい……けど!」
僕の目は、情けなく涙で溢れているだろうか?
「誰だって隠し事の1つや2つある。それを気にしていたら負けだ……ボク達はブレイブを信じたんだ……それに答えてくれブレイブ。ボク達はいつまでも、ブレイブの味方なんだからさ!」
「そうなの! 私達は間違っていないと自信を持って言えるの!」
と、ギブアが後ろから抱き締める。
「ありがとうみんな……僕はもう迷わない!」
僕達は魔王理事長ルシファーとラブとの結婚を阻止する為に、ホワイトハウスへと向かう。
だが、辿り着いた場所は何も無い砂漠だった。
「イブフェアリ……本当にこの道であってるの?」
「そのはずなんだけど……」
くるくると回りながら、イブフェアリは進む。
大丈夫なのだろうか? イブフェアリは、暑さでおかしくなったような飛行を繰り返している。
「テレポートは無理だったの? ホワイトハウスは一度、行った場所だから行けそうだけど……」
テレポートは、一度行った場所を瞬時に移動できる魔法だ。
「どうも結界が張ってあるみたいなんだけど、徒歩で行くしかないよ」
「水が欲しいの! プールに入りたいの!」
と、珍しくギブアが弱音をはく。
「確かにこの暑さは尋常じゃないな……他に道はなかったのか?」
「他は検問だらけで無理だったよ……この道しかなかったからね」
「だったら雨を降らせてやろうか?」
何処からか声がした、その刹那、粘液状の雨が降り注ぐ。
僕達の身体についた粘液は、糸を引き、まるで餅のように硬化していく。
「何だこれ? 粘ついて固く……」
「スライムだ。ここは気温が高いからな……すぐに固まる」
空から降ってきたのは、水泳部クィーンスライムだった。
「お前なの……アクアいや、水泳部クィーンスライム!?」
「水泳部に入る気なったか? ギブア」
「誰が入るかなの!」
ギブアは何とか身体を動かすも、服や皮膚同士にくっついて、硬化したスライムは接着剤のように剥がれない。それは同様に僕もフレンズも同じだった。
「その調子じゃ、変身もできそうになさそうだな」
「こんなもの……たいしたことないの!」
ギブアが力強く一歩を踏み出すと、硬化したスライムにヒビが入る。
「馬鹿な!? 硬化すれば、コンクリート並の強度を持つはずだぞ!」
「こんなもので、動きを止められる訳ないの!」
ギブアは、さらに一歩を踏み出し、硬化したスライムを粉々に砕き、水泳部クィーンスライムの顔面に正拳突きを放つ。
「いたっ!? なんてな!」
水泳部クィーンスライムの乗っていたスライムが上に伸び、ギブアの正拳突きをガードする。
「ガードされたの!?」
「なら、これだ! スライムプレス!」
水泳部クィーンスライムが空高く舞い上がり、アメーバ状に広がり、僕達にのしかかってくる。
体重の乗ったスライムは、僕達をゆっくりのしていき、広がり、徐々に覆っていく。
「ぐうっ!?」
「このまま潰しても良いが……それとも窒息させるか?」
スライムがうねり、広がり、空気を遮断し、さらに重くなっていく。
「ジョブチェンジ! 戦士ガンバレヨ!」
スライムから、顔を出し、聖石を掲げるギブアは瞬時に、戦士ガンバレヨにジョブチェンジする。
戦士ガンバレヨは、魔法陣から地斧タウルスアックスを取り出す。
「グランドグレイプ!」
地斧タウルスアックスを振り下ろすと、地面から巨大な鍾乳石が飛び出し、覆っていたスライムを粉砕する。
「貴様!? 私のスライムを!?」
粉砕したスライムはすぐに集まり、元の状態へと戻っていく。
「ここは私に任せて先に行くの!」
「でも、戦士ガンバレヨ1人じゃ……」
「でもも! すももないの! 私なんかよりも、やる事があるの! 私はこいつと蹴りをつけなければいけないの!」
戦士ガンバレヨと水泳部クィーンスライムは、因縁が深い相手だ。僕が言っても、引き下がってはくれないだろ。
「分かったよ戦士ガンバレヨ……でも、無茶はしないでね!」
「逃がすか! ビート板カッター!」
ビート板の形をしたスライムが、僕達に向かって飛んで来る。
「グランドグレイプ!」
タウルアックスを振り下ろすと、地面から巨大な鍾乳石が飛び出し、ビート板カッターを粉砕する。
「臆病風に吹かれたか! 戦え!」
「ふんなの……お前なぞ私、1人で充分なの!」
「言ったな! 良いだろう! お前を倒し、すぐにその2人もスライム漬けにしてやる!」
「さぁ! 今のうちなの! 早く!」
「すまない、戦士ガンバレヨ……行こうブレイブ」
「うん!」
「こっちだよ!」
飛んで来たイブフェアリが、僕とフレンズを誘導する。
長い砂漠の道のりを超え、夕方になる頃には、森の中を彷徨っていた。
「この森を抜ければ……ホワイトハウスだよ」
「そう簡単に行かせないさねぇ! ペイントビースト! カラーブラック!」
黒色の狼が、僕と弓士ガンバレヨに向かって駆けて来る。
暗くなり始めているせいか、漆黒の狼は木々や土に紛れて、視認しにくい。
「ブレイブ、フレンズ、変身だよ!」
イブフェアリの声に、僕とフレンズは聖石を取り出した。
「分かった。変身しようブレイブ」
「ジョブチェンジ! 勇者ガンバレヨ!」
「ジョブチェンジ! 弓士ガンバレヨ!」
僕とフレンズは聖石を掲げ、勇者ガンバレヨと弓士ガンバレヨに、瞬時に変身する。
向かって来る全身が漆黒な狼に、僕はエクスレオンで斬り払い、弓士ガンバレヨは風弓サジタリウスアローで撃ち抜き、消し去る。
「まだまだあるさね」
美術部メデューサの声がした刹那、漆黒の狼が、飛び降りてくる。
何とか避け、斬り払うが、左腕に鈍い痛みが走る。篭手のおかげで、衝撃だけですんでいるが、肉に達すれば絵画化は免れない。
「なっ!? 噛まれた!?」
振り向けば、僕の左腕に、漆黒の狼が喰らいついていた。
さらに、無数の漆黒の狼が迫り、僕を押し倒し、僕の首に牙が迫る。
「ブレイブ! 今、助ける! ダウンバーストアロー!」
風弓サジタリウスアローに緑光の矢を引き放つ。緑光の矢が、くるりと回転し、突風を纏い、漆黒の狼達に落下し、押し潰す。
「ありがとう、弓士ガンバレヨ」
漆黒の狼はきゃんと吠え、弾けて元の絵の具へと戻る。
「大丈夫か? 勇者ガンバレヨ」
弓士ガンバレヨが、駆け寄った刹那。弓士ガンバレヨの足にさらに、数匹の漆黒の狼が、喰らいつく。
「くそっ!? いったい何匹いるんだ!?」
「弓士ガンバレヨ!?」
「大丈夫だ!」
弓士ガンバレヨは矢尻で、漆黒の狼達を斬り払い、元の絵の具へと戻す。
「大丈夫じゃないよ!? 怪我をしてるのに!?」
弓士ガンバレヨの足から、絵の具のような液体が滴り落ち、地面をカラフルに染めていた。
「まずいよ!? 弓士ガンバレヨの足に絵画化が進行している……このままじゃ絵になっちゃう!?」
イブフェアリが、円を描くように、慌てふためく。
「イブフェアリの魔法で治せないの!?」
「私の力じゃ無理だよ……魔法少女ガンバレヨか、魔法戦士ガンバレヨの力があれば……」
「問題ない……美術部メデューサを倒せば元に戻るんだろ?」
「魔石を壊せば……力を失うはずだから、元には戻るけど……」
「その調子じゃ……私が姿を現す前にお陀仏さね」
日が落ち始め、暗いせいか、美術部メデューサの姿を視認する事ができない。木の上にいるのか、茂みに隠れているのかすら、分からない。
「1つの提案がある。聞いてくれるか?」
「なに?」
「ボクを見捨てて逃げろ!」
「そんなこと……できる訳ないじゃないか! 仲間の弓士ガンバレヨを見捨てて逃げるなんて!」
「これは大切な事なんだ! ここで時間を食っていたら誰がラブを助ける!」
弓士ガンバレヨの目は、僕を睨むような眼差しだった。ここで留まったら、僕は一生、彼女に恨まれる事になるのだろう。
「分かったよ! でも……無茶だけはしないで!」
弓士ガンバレヨが、耳元で僕に指示を出す。
「頼むぞ勇者ガンバレヨ! お前だけが頼りなんだ!」
「うん!」
弓士ガンバレヨの作戦通りに僕は、森の中を駆ける。
「飛び込んで来るとはねぇ……自殺志願者さねぇ!」
漆黒の狼達が茂みの中から、飛び出してくる。僕はそれを避け、斬り払い、森の中をひたすら駆け抜ける。
「こいつら何匹いるんだ!?」
左右の木の陰からも、漆黒の狼達が現れ、それも僕は斬り払う。
「弓士ガンバレヨは何処に行ったんだぇ? 狼を増やすかねぇ……」
美術部メデューサの声がして振り向くと、何かが木の上から下りてくる。
「それを待ってた! エアーショットガンアロー!」
弓士ガンバレヨの風弓サジタリウスアローから放たれた矢は、複数の風を帯びた矢に分散し、木の上から下りてきた者を撃ち抜き、人影が落下する。
「位置を特定する為に二手に別れたのかぇ!?」
「行け! ブレイブ!」
「こっちだよブレイブ!」
光を帯びたイブフェアリが、僕を誘導する。それを僕は全力疾走で追う刹那、美術部メデューサの声が森の中に、反響する。
「ふふ……弓士ガンバレヨ! お前、絵画化が始まっているじゃないかぇ!」
「うわっ!?」
ビチャッ!? ビチャッ!? ビチャッ!?と、弓士ガンバレヨがいると思われる方向から、
生々しい絵の具の飛び散る音が聞こえてくる。
「弓士ガンバレヨ! 今、行くから!」
「駄目だよブレイブ!」
「来るな!」
僕が振り返ろうとした刹那、風を帯びた矢が僕の顔をすり抜け、木に大穴を空ける。
「絵画のなりかけの癖して、生意気さねぇ!」
「行け! 行くんだ勇者ガンバレヨ! ラブを助けるんだ!」
「分かったよ! 弓士ガンバレヨ! でも、僕は君が無事に戻ってこなきゃ……許さない!」
妙な弓士ガンバレヨの笑い声が聞こえたが、僕はそれを振り切るかのように、駆け抜けた。
森を抜けると、街が広がっていた。
でも、僕が知っているホワイトハウスがある街並みとは全く違って見えた。壊れた戦車や装甲車、崩れたビル郡や半壊した家々、瓦礫の山がそこら中にあり、バリケードが敷かれていた。しかもそれらは全て、木々や草花に埋もれ、まるで古代の産物であるかのようだ。
軍と魔王理事長ルシファーと争った後に、テラフォーミングによる緑化でこうなったのだろう。酷い……これは僕が知っていた街とは全く違う姿だ。
例え、魔王理事長ルシファーを倒しても、この街の状況では復興に何十年もかかるかもしれない。それどころか、魔王理事長ルシファーのテラフォーミングによって、全ての電力を永久的にストップさせられてしまったのだ。魔王理事長ルシファーを倒しても……
「戻ろうイブフェリ……戦士ガンバレヨと弓士ガンバレヨを助けに行こう」
「何を言ってるの勇者ガンバレヨ!? 今、戻れば戦士ガンバレヨや、弓士ガンバレヨの頑張りが無駄になるんだよ!」
「考えてみてよイブフェアリ……二度も負けた相手なんだ……僕、1人で勝てる訳ないよ」
踵を返す僕に、イブフェアリは袖を引っ張る。
「それは戦士ガンバレヨも、弓士ガンバレヨも同じだよ! 戦士ガンバレヨも、弓士ガンバレヨも、1人じゃ勝てなかった相手に、立ち向かっているんだよ! それなのにブレイブは1人で逃げちゃうの? そんなのずるいよ!」
「違う! 勝てない相手だからみんなで戦うんだ! 今なら2人を助ける事だって、できるかもしれない!」
「じゃあ……2人がやられちゃってたらどうするの? もし、戻ったらラブまで助けられなくなってしまうかもしれない……」
「僕は……戻るよ!」
イブフェアリを振りほどき、僕が駆けようとした刹那。
高速で回り込んできたイブフェアリは、小さなの手の平で僕にビンタする。
パチンッ!? と、乾いた音と一緒に、耳鳴りがする。
「私は2人の行為を無駄にするブレイブが一番、大嫌いだよ!」
涙目のイブフェアリを見て、とんでもない発言をしてしまったのだと今になって、気付いた。
「ごめんイブフェアリ、僕は……」
「ブレイブが行かなくても、私は1人でも行くよ!」
「僕が間違ってみたいだ……僕がしっかりしないとだね」
「ブレイブ……本当にしっかりしないとだよ……小さい私じゃ、何もできないんだから!」
「仲間が気になるなら、戻れば良い事だろうに? ラブを見捨ててね」
声が聞こえて振り向くと、廃ビルの上に立つ裁縫部アラクネのの姿があった。
「僕はラブを見捨てて、逃げる事なんてしない!」
「そうかい? お前にとって、ラブはあかの他人だろ? 助ける必要があるのかい?」
「ラブはあかの他人なんかじゃない! 大切な仲間だ!」
「へぇ~たった数日で付き合って仲間かい! お前はとんだ甘ちゃんだね! お前にラブの何が分かるって言うんだい!」
「ラブを見れば分かるよ……彼女はピュアなハートの持ち主だ……何度、失敗しても人助けをする心意気は誰にも負けない……それなのにお前はラブを裏切り、傷つけた……ラブの事を分かっていないのは、お前の方じゃないのか!」
「罠にかかった羽虫が! 生意気、言うんじゃないよ!」
裁縫部アラクネが腕を振り払う動作をした刹那。
僕の身体中に無数の糸が絡みつき、一瞬にしてぐるぐる巻きにしてしまった。それはイブフェアリ同様に、ぐるぐる巻きにされてしまった。
「説教はいいとして……イブフェアリ、お前には聞きたい事があったんだ」
裁縫部アラクネは糸を手繰り寄せ、イブフェアリを逆さ釣りにする。
「ふーんだ! 悪者に話す事なんてないよ!」
裁縫部アラクネはイブフェアリを鷲掴みにし、顔を近づける。
「じゃあ、嫌でも話してもらおうかね」
裁縫部アラクネは、鷲掴みにしたイブフェアリを握り潰す勢いで、力を入れ、骨がめきめきと音を立てる。
「きゃあああっ!?」
イブフェアリの悲鳴が、ゴーストタウンに反響する。
「やめろ! イブフェアリに手を出すな!」
「勇者ガンバレヨ、あんたも気にならないかい? イブフェアリが、私達と同じで悪魔の手先と呼ばれている理由がね」
「何を言っているのか分からないよ……私は神の代行者イブフェアリ……悪魔とつるんだ事なんて一度もないよ!」
「嘘を言うんじゃないよ!」
裁縫部アラクネが激怒し、より強く握り締められる。
「きゃあああっ!?」
「サンフレア!」
持っていたエクスレオンの刃に炎が帯び、僕を中心に、小さな炎の太陽が生まれ、爆発する。
「爆発しただと!?」
本来は、爆発を起こさせ、敵にダメージを与える技だが、僕は蜘蛛糸を焼き払う為、荒療治に出た。目論見通りに、蜘蛛糸は爆発四散する。爆発で全身を打つような痛みと、皮膚が焼け付くような感覚はあったが、構わず僕は、炎を帯びたエクスレオンを振り下ろす。
裁縫部アラクネは咄嗟に避けていたので、当たらなかったが、地面に落ちそうになるイフェアリをキャッチする事ができた。
「そこまでして、その妖精を助ける価値はあるのかい?」
「うるさい! お前達が何と言おうと、イブフェアリは僕達の仲間だ!」
「勇者ガンバレヨ、私は……」
何か言いたそうな、イブフェアリ。
「大丈夫だよイブフェアリ……僕は君を信じている」
「勇者ガンバレヨ、どうやらお前は、イブフェアリの本性を知らないみたいだね」
「レオブレード!」
僕の聖剣エクスレオンの刃に、炎の獅子が乗り移る。
獅子のエクスレオンを裁縫部アラクネへと、思いきり叩きつけようとした刹那。僕の腕が裁縫部アラクネの眼前で止まる。
「マリオネットスパイダーだ……勇者ガンバレヨ、それがあんたの答えという訳かい」
気づけば僕の腕が、見えない糸に操られ、徐々に炎の刃が離される。
「くそ……また……!」
「それじゃあ、その刃でイブフェアリを焼いてもらおうか」
僕は足を踏み込み、糸を引き裂く勢いで、腕に力を入れ、エクスレオンの刃を向ける。
「誰がやるか!」
裁縫部アラクネは危険を感じたのか、後ろに大きく飛び退く。
「お仕置き必要なようだね……ビットインスパイダー!」
蜘蛛の形をした腕から卵嚢が吐き出され、そこから無数の子蜘蛛が生まれ、宙に舞って、僕の周囲を取り囲む。
「これは!?」
無数に産まれた子蜘蛛の口から光が見え、僕は腕の口を無理矢理に引き千切り、くるりと身体を回転させる。鈍い痛みと共に腕から鮮血が舞ったが、関係ない。なぜなら、僕は本能的に、さらなる危険を感じたからだ。
予測通りに、無数の子蜘蛛の口からレーザーが発射された。僕の身体は、幾つかの光線が掠めて、焼け付くような鈍い痛みが走る。
「あれを避けたというのかい!?」
「サンフレア!」
僕は飛び上がり、炎を帯びた刃で、裁縫部アラクネを円形に斬り裂いた。
地面に着地と同時に、裁縫部アラクネの中心に、小さな炎の太陽が生まれ、爆発する。
「ぐうううっ!?」
爆発の煙が晴れると、怯む裁縫部アラクネの姿が現れる。腕輪の魔石とは逆の手でガードしていた為、魔石を壊す事はできなかったが、裁縫部アラクネには確実にダメージを与えている。
「いける!」
今まではみんなで苦戦していた相手が、嘘のように圧倒している、これなら魔王理事長ルシファーとも……
「くっ……勇者ガンバレヨ、ここまで強くなっているとはね……この続きは式場で預けるよ!」
裁縫部アラクネが飛び上がり、家の背後に消える。
「待て!」
「待って勇者ガンバレヨ!」
追いかけようとする僕に、イブフェアリが回り込む。
「イブフェアリ?」
「これ以上……追いかける必要はないよ……ラブを助けるのが先でしょ」
「そうだねラブを助けよう……くっ!?」
僕は身体中の激痛に、膝を落とす。
「大丈夫!? 勇者ガンバレヨ!?」
イブフェアリがやすりで羽を削ると、踊るように僕の身体中に粉を振りまくようにする。すると、光る粉は僕を包み、痛みが嘘のように消えていく。
「ありがとうイブフェアリ」
「どういたしまして勇者ガンバレヨ」
満面な笑顔を向けるイブフェアリなのだが、その身体はなぜか小刻みに震えていた。それは魔王理事長ルシファーに対する恐怖からなのだろうか? というよりも、まるで何かを暴かれる事を恐れているような……何を言っているんだ僕は……イブフェアリを信じると決めたじゃないか!
「本当にありがとうイブフェアリ……僕はいつも君に助けられてばかりだ」
「神の代行者として当然の事だよ。それよりも……最後の砦だよ頑張ろう!」
「うん!」
ホワイトハウスの警備は手薄といよりも……嘘のように誰もいなかった。
「中に誰もいないなんて……罠?」
「待って! 魔力の気配が……」
その刹那、扉から出てきたのは教師魔リリスの姿だった。
「待ってたわ勇者ガンバレヨ、イブフェアリ……魔王理事長ルシファーがお待ちかねよ」
「今度はお前が相手という事か!」
僕はエクスレオンを構える。
「戦わないわ……案内人ですもの。付いて来て」
教師魔リリスは扉を開け、手招きする。
「どういうことなの?」
イブフェアリは、首を傾げる。
「早く来て、せっかくの料理が冷めちゃうわ」
「行こう、イブフェアリ! ここで躊躇していたら何も始まらない」
僕は教師魔リリスにつづき、扉に入る。
広い室内には赤い絨毯が敷かれ、天井はステンドグラスの窓が広がり、無数のテーブルには様々な料理が並べられていた。テーブルの周りには、不気味な黒いローブを纏った者達が何やらこそこそと話している。奥には祭壇と十字架がある。どうやらここは礼拝堂のようだ。
「ほら、会話を楽しんだら? せっかくの魔王理事長ルシファーと、アリエスの娘との式ですもの……楽しまなきゃね」
「ラブを何処へやった!」
迫る僕に教師魔リリスは、くすりと笑う。
「もうすぐ新婦と新郎が来るわ」
扉が開き、赤い絨毯を歩いてくるのは、タキシードを着た魔王理事長ルシファーと、黒いウェンディングドレスを着たラブの姿だった。
「ラブ!」
僕は叫ぶように声をかけるが、ラブはただ、魔王理事長ルシファーと共に、真っ直ぐに祭壇の方へと向かっていく。
「勇者ガンバレヨ! ラブを止めて! 魔法をかけてられてないのに……どうして?」
「どういうこと?」
「これは洗脳じゃない……ラブは何かの条件で縛られて……魔王理事長ルシファーと、本気で結婚しようとしている!」
「ラブ、自らが結婚を望んだ? そんな……」
僕は思わず膝をつく。
「ラブ、どうした?」
「……はわわわわっ!?」
ラブが黒のウェンディングドレスの裾を踏んで、思いきりつまいずいて、転ぶ。いつもの定番のラブであった。
「大丈夫かラブ?」
魔王理事長ルシファーが、手を差し伸べ、立たせる。
「今ので……2人にバレてしまっていないでしょうか?」
きょろきょろと見回すラブに、黒ローブを纏った者達は、慌てたようなリアクションをとり始める。
「な、何がだ!」
罵声を浴びせる魔王理事長ルシファーに、頭を押さえる教師魔リリス。
「全く何をやっているのよ……台無しじゃない」
「えっ? えっ? どういうこと?」
全く状況がつかめない。周りの黒ローブの者達からも、ため息が混じる。
「ラブ……これはどういう事なの?」
イブフェアリが、ラブの目の前に浮遊する。
「えとですね……私は、イブフェアリさんを信じてるんですよ……あえて私は確かめる為に偽りの結婚をですね……じゃなくて、本気で結婚を考えてるかもです!」
顔を真っ赤にしながら、口を押さえるラブ。
「ほへ?」
首を傾げるイブフェアリ。
「……作戦変更だ! この場でイブフェアリを抑える!」
参列客達が一斉に黒ローブを脱ぎ捨てる。姿を現したのは、さっきまで戦った相手、裁縫部アラクネ、美術部メデューサ、水泳部クィーンスライム、それに戦士ガンバレヨ、弓士ガンバレヨまでもがいる。
「みんな……どうして?」
ラブが離れると、魔王理事長ルシファー達が囲むようにする。
「イブフェアリは天使ヴァルキリーを殺し、聖石を奪った重罪人だ!」
「何を言っているの? そんな訳ないじゃない……私はちゃんと神の密命を受け、勇者隊ガンバレヨを導いたんだよ……」
「それも独断でやっているのでしょう? 神からの密命なら私も受けたわ……スパイとして、悪魔の陣営に潜入してね」
「じゃあ、貴方は元々、神側の者だって言うの!? 嘘よ! 貴方の姿はどう見ても、悪魔じゃない!」
教師魔リリスの姿は羊のような角に、蝙蝠のような翼に、尻尾が生えた姿は悪魔に見える。
「一度、神側の方に捕まってね……スパイをやっている訳よ。聖石が悪魔に奪われた可能性があってね……魔石で正義の方向に持っていけないかって、神側の提案があったのよ」
「嘘よ! みんな、こんなの信じちゃ駄目! だって魔王理事長ルシファーは……テラフォーミングを使って、世界の全ての電力を永久的にストップさせたじゃない!」
イブフェアリの目には、今までにない焦りが見える。
「あれは大規模な幻術魔法だ……悪魔側を騙すにはこれが一番だったからな。勇者隊ガンバレヨが、俺達の魔石を壊して、全て元通りというシナリオさ……勇者隊ガンバレヨが悪に導かれて、なければの話だが……」
「嘘よ! 私は知らない!」
「悪魔を天界に手引きしたのも、貴方よね? そこに悪魔の私もいたのよ、気づいてた? 悪魔が多すぎて気付かなかったかしら?」
教師魔リリスがくすりと笑う。
「イブフェアリ……嘘だよね? 嘘だと言ってよ……」
「悪魔の陣営につき、ヴァルキリーを殺して聖石を奪ったのは、分かったわ……けれど、貴方は聖石を元の適合者に配り、勇者隊ガンバレヨを導いた……元から私達がスパイだと分かっていて、戦わせた……違うわね。私達をスパイだって分かっていなかったみたいだし」
「この世は悪に満ちているの! 私は勇者隊を導き! 世界を平和にしなければいけなかったんだよ!」
叫ぶように言うイブフェアリの顔からは、憎悪のようなものが、にじみ出ていた。
小さき妖精は、たんたんと語る。
ある日、イブフェアリは悪魔に家族を皆殺しにされた。今になっても、何の為かは分からないと言う。ただ、妖精の素材は貴重で、薬になるだとか、そんな理由なのかもしれない。イブフェアリは命からがら、地上に降り、倒れた。
道端で倒れたイブフェアリは、死を覚悟した。このまま人間や車に轢かれ、自分の命が終わってしまうのだと……
けれど、イブフェアリは人間の小さな女の子に手当てされ、助けられた。イブフェアリは信用できずに怖がったが、人間の女の子は励まし、元気づけてくれた。
イブフェアリは女の子から、生きる希望を貰ったのだという。
だが……女の子は、この世からいなくなってしまった。真夜中に侵入した強盗によって、女の子と家族は皆殺しにされてしまったのだ。
小さきイブフェアリは気づかれず、生き残ってしまった。
イブフェアリは許せなかった……悪魔でも、強盗でもないそれは心に潜む……悪という魔物を……
イブフェアリは悪を撲滅する為、古文書を開き、その方法を徹底的に調べ上げた。そしてイブフェアリは天界に行き、神に進言し、ある企画プランを立てた。それが【勇者隊ガンバレヨ】というものだ。勇者達が自分達の力を石に封印した伝説を知り、聖石に直目したのだ。そしてその聖石をも、手に入れた。
イブフェアリが立てたプラン【勇者隊ガンバレヨ】は、勇者の生まれ変わりである地上の者に聖石を渡し、覚醒させ、悪人や悪魔と戦わせる英雄を作ったらどうかという企画プランだ。
しかし、その企画プランは神によって、簡単に却下されてしまった。なぜなら、地上と天界は充分に平和だという、神からの判断だった。
それでもイブフェアリは、この世が悪で満ち溢れていると、神に熱弁した。その声は神に届かなかった。それどころか、イブフェアリは天界から追い出される羽目になった。
イブフェアリは、それでも諦めなかった。そしてイブフェアリは考えた。どうすれば神は、悪の驚異を知る事をできるのかを……
考えついたのが、悪魔の存在だった。神と悪魔は未だに戦争をしている状態だ。悪魔が天界に攻め入れば、神は考えを変えてくれるかもしれない。
イブフェアリは魔界に行き、悪魔を手引きし、天界を攻めさせた。
天界は多くの民と兵士を失い、悪魔に驚異を感じ始め、頃合を見てイブフェアリは再び、
【勇者隊ガンバレヨ】の企画プランを提示した。そして新たに、こう付け加えた。悪魔は地上支配も目論んでいると……半信半疑だった神であったが、イブフェアリは様々な悪魔側の情報を提示した。悪魔側が、新兵器ルシファードラゴンと魔石の存在を話した。
この情報は嘘ではなかった。なぜなら魔石に関しては、イブフェアリが古文書で調べ上げ、聖石と対になる存在と知っていたからだ。イブフェアリはさらに【勇者隊ガンバレヨ】の計画を実行する為、悪魔側に魔石を渡し、地上支配を促していた。
神はイブフェアリを信用し、聖石を受け取った。
イブフェアリは喜んだ。これで悪を撲滅できるのだと……けれど、イブフェアリの目論見通りにいかなかった。企画者であるイブフェアリを抜きに、【勇者隊】を導き手として、選んだのはヴァルキリーであった。
その事に、イブフェアリは納得できなかった。【勇者隊】を自らの手で導かなければ、悪を撲滅できない。望む正義へと導く事ができないと思ったからだ。
イブフェアリは、魔石の力を使い、ヴァルキリーを暗殺。聖石を奪い、地上に降りた。自ら【勇者隊】を導くために……
「悪を撲滅する為……罪の無い天使を犠牲にしたか……俺達が神側の人間だったから良かったものの……俺達が本当の悪で、世界を滅ぼし、勇者隊ガンバレヨが負けたらどうするつもりだった?」
魔王理事長ルシファーはイブフェアリに、カオスブリンガーの刃を向ける。
「うるさい! 勇者隊ガンバレヨは誰にも負けない!」
「勇者隊ガンバレヨは、お前の幻想にすぎない……幻術魔法とはいえ、あれが本当に世界崩壊を滅ぼす魔法だったら、アウトだったがな」
「勇者隊ガンバレヨ! 魔王理事長ルシファーと、部活魔四天王を倒して!」
「イブフェアリ……もうやめよう……もう終わったんだよ」
「戦士ガンバレヨ! 弓士ガンバレヨ! 戦ってよ!」
首を横にふる戦士ガンバレヨ。
「味方同士で戦う必要はない」
弓士ガンバレヨが、弓を下ろす。
「分かったよみんな……戦う悪が必要なんだね」
「何を言っているのイブフェアリ?」
イブフェアリの頭上に魔法陣が出現し、5つの魔石が浮き出る。
「無駄だ! ヴァルキリーと同じに考えるな! 俺達は弱くない!」
「ふふふ……その様子だと、魔石の本来の力の使い方を知らないみたいだね……魔石を束ねる事で、邪神にトランスチェンジできるんだよ」
「な、なんだと!?」
「収束合神トランスチェンジ!」
イブフェアリが叫び、魔石が黒いもやを帯びた刹那。魔王理事長ルシファーの腕輪が壊れ、イブフェアリの方へと吸い寄せられる。同様に、部活魔四天王の魔石も吸い寄せられ、魔王理事長ルシファー達は元の姿へと戻されてしまう。
「馬鹿な!?」
全ての魔石はイブフェアリに吸い寄せられ、巨大な黒い宝石へと変化する。
「サタン! このままじゃイブフェアリが!?」
「慌てるな! ラブ、変身だ! お前達は下がっていろ……普通の人間じゃ相手にならないからな」
「はい、分かりました!」
聖石を取り出したラブは、魔法少女ガンバレヨに変身する。
サタンはアクア、ラミア、ポイズンを下がるのを確認すると、聖石を取り出す。
「えっ……まさかサタン……」
「俺が信じるのは希望……悪を演じても……希望は決して捨てない! ジョブチェンジ! 魔法戦士ガンバレヨ!」
服を光の粒子に分解し、裸にした後、胴体、腕、足と、山羊をイメージした黒い機械鎧を構築し、背中にマントが構成される。
「サタンが魔法戦士ガンバレヨだったなんて……」
「話は後だ……行くぞ!」
「うん!」
構える僕達に、イブフェアリは笑う。
「準備は良い? 本気で戦わないなら……世界を滅ぼしちゃうからね」
イブフェアリが、巨大になった魔石を抱くと、黒いもやの衝撃波が走る。聖堂だった室内は、宇宙のような空間へと変質していく。
空間は、星のような光が、ほのかに照らす。
『私は……邪神ワールドプランナー……イブフェアリ……全てを壊し……再生し……悪の無い新しい世界を創る……来なさい勇者隊ガンバレヨ……貴方達が正義であるならば!』
イブフェアリの声がして、振り向けば、そこには変わり果てたイブフェアリの姿があった。天使と悪魔の翼、光背を持ち、無数の触手を持つ。長い髪は黒と白が混じり、肌の美しい裸体は女神か、魔神に見える。その身体は見上げるほどに巨大で、僕達がまるで小人になったみたいだ。
「やめるんだイブフェアリ! 悪を憎む心があるなら、僕達は話し合う事ができるはずだ!」
無数の触手が迫り、咄嗟に避ける。無数の触手は身体を掠めていく。
「無駄だ! あいつにもう言葉は通じない……やる事は分かるな?」
魔法戦士ガンバレヨが、サモンブレスレットを見せる。
「戦うしかないなんて……魔法戦士ガンバレヨ、分かったよ! サモン! 来て! 獣機神レオ!」
僕が腕を上げ、サモンブレスレットを掲げた刹那。
ブレスレットが光を帯び、魔法陣が展開した刹那。巨大な火の輪を帯び、現れたのは巨大な機械の獅子、獣機神レオの姿だ。僕は獣機神レオに憑依し、一体化する。
僕に続き、魔法陣を展開し、獣機神タウルス、獣機神サジタリウス、獣機神アリエスが姿を現す。
「サモン! 来い! 獣機神カプリコーン!」
魔法陣と共に黒い森の木々が生まれ、そこから機械の山羊が出現する。黒いボディに、頭には金の角、右肩にはランスが取り付けられている。
『魔王理事長ルシファー……いえ、魔法戦士ガンバレヨ……貴方に正義はあるの? 親友を騙し、ペンソードを傷つけた行為は悪とも言える』
獣機神カプリコーンが邪神ワールドプランナー・イブフェアリに、ランスによる突きを喰らわす。だが、獣機神カプリコーンより大きな巨体は、ビクともしない。
触手が獣機神カプリコーンを捉え、機体がミシミシと音を立てる。
【騙したのはお前も同じだろ! ブレイブに偽りの正義の味方を演じさせた! 悪でなくて何だという! しかも、お前は世界を滅ぼすという!】
獣機神カプリコーンのランスが二股に別れ、重力波が発射される。
重力波によって、邪神ワールドプランナー・イブフェアリが、わずかに怯んだ隙に獣機神カプリコーンは後ろに飛び退く。
【悪を憎む心は痛い程に分かる……だけど、他の方法はいくらでもあったはずなの!】
邪神ワールドプランナー・イブフェアリの触手を避け、獣機神タウルスが、ガトリング砲とミサイルを喰らわす。だが、それは無数の触手によって防がれる。
『貴方も悪ではないの? 口で人を傷つけてばかり……それは人々の憎悪となり、貴方は悪となる……』
邪神ワールドプランナー・イブフェアリの股間から大きな口を開き、光の玉が発射される。それは獣機神タウルスを掠め、右脚を粉砕した。
【口が悪いのは自覚しているつもりなの……それでも正義のヒーローやりたいと思ったの! 邪神を選んだ貴方に悪と言われる筋合いはないの!】
獣機神タウルスの背中から、4つのポッドが開き、無数のミサイルが発射される。
無数のミサイルは、邪神ワールドプランナー・イブフェアリに当たり、周囲を爆発させるが、ビクともしない。
【ボク達が偽りの正義の味方を演じる必要があったのか? ボク達は普通に正義の味方をしたかった!】
獣機神サジタリウスは、二門の大口径キャノンを発射する。
発射された2つのビーム光は、紫色の光によって弾かれる。
『馬鹿にされて人を殺したいと思った事はある? 男の子だとか、子供であると言われただけで、怒る貴方は充分に悪になり得る存在……』
邪神ワールドプランナー・イブフェアリが、腕を振り下ろすと、周囲に無数の光の玉が出現し、獣機神サジタリウスに引き寄せられるように当たり、爆発を起こす。
【それは人間だからこそある感情だ! それで悪になると、決めつけるな! 人間はそこまで弱い生き物ではない!】
爆発の煙が晴れると共に、獣機神サジタリウスが現れ、邪神ワールドプランナー・イブフェアリの無数の触手を光の翼で、切り裂いていく。
だが、切り裂いた無数の触手は、一瞬にして再生していく。
【イブフェアリさんがやっていた事……ずっと見てきてました……正義の為に頑張ってきていた事を私はよく知っています……なのに! どうしてこうなってしまったんですか?】
獣機神アリエスが羽根を舞わせ。三連装の機銃を連射する。獣機神アリエスが放った無数のビーム光は、散らばった羽に反射し、邪神ワールドプランナー・イブフェアリの身体に直撃する。
やはりそのビーム光も、邪神ワールドプランナー・イブフェアリの紫色の光によって、弾かれる。
『貴方がやっていた事は本当に正義だったの? 能力が無いのは罪……救えない人間は路頭に迷い……悪に染まる……貴方は悪を増やしている人間なのかもしれない』
邪神ワールドプランナー・イブフェアリの白と黒の翼から、無数の羽が飛び散り、周囲を囲み、無数の光線を放つ。
獣機神アリエスは避けるが、無数の光線は翼を掠め、羽に穴を空けていく。
【確かに人は絶望するかもしれません……けれど! 人はそう簡単に悪に染まってしまうでしょうか? 私はそうは思いません! もし、そういう人がいるなら……私が救ってみせます! 必ず!】
翼の一部が外れ、二対の光の刃を持つハサミが、邪神ワールドプランナー・イブフェアリの身体に食い込み、電気を帯びる。
怯む邪神ワールドプランナー・イブフェアリに、獣機神レオが駆ける。
【イブフェアリ……共に手をとる方法はなかったの? 多くの者を犠牲にする必要あったの? 僕は君を信じて勇者隊ガンバレヨになった! だから僕は……君を止める!】
獣機神レオの砲身から、二対の砲身から、赤い光弾が放たれるが、それは簡単に避けられてしまう。
『止められるの? 私に導かれなければ何もできなった貴方が……私が悪と言うのなら、それを見抜けなかった貴方にも落ち度はある……いずれ悪人に騙され、その言いなりになる……それが貴方の未来……』
【僕は誰かを信じる事が間違っているとは思わない……良い事をする人を信じるし……悪い事をする人がいるならば、それを悪いとはっきり言える!】
炎を帯びた爪が、邪神ワールドプランナー・イブフェアリの巨大な身体を斬り裂く。
その傷も、簡単に再生してしまう。
【勇者ガンバレヨ……合体だ!】
【合体?】
【イブフェアリから聞いていなかったのか? 獣機神は5体揃えば、合体できるんだ】
確かにイブフェアリは【大丈夫だよ……いざとばれば、魔法戦士ガンバレヨが駆けつけた時に獣機神のカプリコーンと合体すれば、大丈夫だし】と、言っていた。
『でも……一度もやった事がないのに……』
【本能のままに動けば……何とかなるもんだ……行くぞ! スペルコード! アーマードチェンジ! ブレイブナイツ!】
【うん!】
僕は意識を切り替え、別の視点にする。いわゆる視点を切り替えるカメラのようなものだろうか、これは獣機神の魔法の一種で、様々な視点で見えない死角までもが、まるでモニターのように見る事ができるのだ。
獣機神レオが折り畳まれ、獅子顔の胴体となる。続いて、獣機神アリエスが、獅子顔の胴体と連結し、翼となる。獣機神サジタリウスが獅子顔の胴体の上に連結し、頭となる。さらに、獣機神カプリコーンが獅子顔の胴体下に連結し、腰部へと変形。獣機神タウルスは二股に別れ、左右の足に変形し、腰部へと連結する。
光に包まれ、ブレイブナイツが合体を終える。
ユニコーンのヘルムに、重厚な獅子の鎧、それは邪神ワールドプランナー・イブフェアリと同等の巨大なフォルムだった。
【行くぞ! 邪神ワールドプランナー・イブフェアリ!】
『身体をでかくしたところで……何も変わらない』
邪神ワールドプランナー・イブフェアリの股間から大きな口を開き、光の玉が発射される。それはブレイブナイツに直撃するが、衝撃すらも感じない。
【レオンブレイザー!】
獅子顔の胴体から、巨大な光の剣、レオンブレイザーを引き抜く。
『効かない……これなら!』
無数の触手が迫る中、ブレイブナイツと一体化した僕達は、レオンブレイザーを邪神ワールドプランナー・イブフェアリに振り下ろした。
【グランドクルス!】
そのまま光の刃で、邪神ワールドプランナー・イブフェアリを十字に斬り裂いた。
『これが……ブレイブナイツの力……!?』
【シャイニング!】
斬り裂かれた、邪神ワールドプランナー・イブフェアリが、光に包まれ、爆発する。
煙が晴れると、光の玉に包まれたイブフェアリが現れる。それは、元の姿の小さなイブフェアリの姿だ。
「そう……それで良いの勇者隊ガンバレヨ……世界平和の為に戦って……私のようなものが出ないように……」
心なしか、イブフェアリの身体が、透けて見える。
【一緒にいこうイブフェアリ……また僕達を叱ってよ】
ブレイブナイツの腕を動かし、イブフェアリに触れるが、簡単にすり抜けてしまう。
「頑張って勇者隊ガンバレヨ……私は最後に頑張れなかった妖精だから……ごめんね勇者ガンバレヨ……」
イブフェアリが、光の粒となって、消えていく。
【イブフェアリリリリリリッ!!!!?】
消えていくイブフェアリの顔は、なぜか笑顔だった。
■ エピローグ 終わりの果てに得たもの
カーラジオから、ニュースが流れる。
どのテレビのニュースで、やっていた内容だろう。もう聞き飽きた。どこのテレビチャンネルも、同じニュースばかりだ。
――ホワイトハウスを占領していた、魔王理事長ルシファーと名乗るテロ集団は……謎の組織、勇者隊ガンバレヨによって、撃退したとの事です。なお……魔王理事長ルシファーとその仲間は……消息をたっており……政府は魔王理事長ルシファーを指名手配にし、捜索を開始……市民による情報提供を求めており……有力な情報には……1万ドルの懸賞金がかけられています。
空港へ向かう為、僕達は教師魔リリスさんが所有する、ツーリングワゴンに乗っていた。
「教師魔リリスさん……やっぱりサタン達は、隠れ住まなければいけないんですか?」
人間の姿に変身し、車を運転する教師魔リリスに、僕は話しかける
「そうね……元々は覚悟してた事だったし、人間だけでなく、悪魔からも身を隠さなければいけない状況なのよ」
「人間の時と違う姿でも、バレちゃうものなんですか?」
ラブが悲しそうな表情で言う。
「顔のパーツでバレちゃう可能性もあるのよ……それに悪魔のおとり捜査も終わった訳じゃないからね……サタン達には頑張ってもらわないといけないわ」
着信音が鳴り響き、教師魔リリスがスマホをとる。
「便を変える!? サタン、何を言ってるの貴方は? 説明して!」
スマホをスピーカーに切り替え、音を聴かせる教師魔リリス。
『便を交換して欲しいって言う家族がいてな……父親が仕事の都合で遅れてくるそうなんだ。本来、1時間後の便なんだが、10分後の便に変える』
「サタン!」
教師魔リリスが駐車場に車を止めると、僕は飛び出すように車から降りていた。
「坊や!」
教師魔リリスが、静止する声も聞かず、僕は空港に向かって駆けていた。
空港を駆ける中、僕はゲート前にいるサタンと、アクア、ラミア、ポイズンの4人を見つける。
「サタン!」
「ブレイブ……まさか間に合うとは思わなかった」
頭を掻くサタンに、僕は涙を浮かべる。
「僕は君を最後まで信じる事はできなかった……それに僕は最後まで助けられてばかりで……」
「泣くなよブレイブ……お前は充分、強くなった。むしろ、謝るのはこっちの方だ……ペンソードには迷惑をかけたしな」
「また……会えるよね?」
サタンが強く抱き締め、呟くように言う。
「お前が本当に強い勇者ガンバレヨになれたらな」
抱き締める力に耐えかね、僕はサタンを引き剥がす。
「痛いって! もう意地悪だなぁサタンは、戦う機会なんてもう無いかもしれないのに!」
「まだ戦いは終わってないだろ? 大切なプリンセスを射止めないとな」
「お前には心に決めたプリンセスがいるんだろ? なぁ? 名前は聞いてなかったな……誰だっけ?」
「ギブアだろ?」
と、アクア。
「フレンズだろうに?」
と、ラミア。
「ラブに心に決めたんだろ?」
と、ポイズンが答える。
「おいおい、どういう事だ?」
頭を抱えるサタン。
「えええっ!?」
「何を言ってるんだ! ブレイブは、付き合っているという話だったろうに!」
アクアが僕を揺さぶる。
「何だぇ? あたいは、フレンズとブレイブが付き合っている所を見たんだよ!」
ラミアが詰め寄ってくる。
「ラブが、あんたの話ばかりしてるから……私はてっきり……」
ポイズンが、なぜか青ざめた表情をする。
「お前たちの事だ……余計なお節介をしているんじゃないだろうな?」
ゲートをくぐり抜けるアクア、ラミア、ポイズン。
「たっしゃでなブレイブ!」
と、アクア。
「フレンズは良い奴だからねぇ」
と、ラミア。
「ラブをちゃんと選んであげなよ!」
と、ポイズン。
笑顔で手を振る3人に、狂気を感じる。
「まあ……しっかりやれよ」
僕の肩を叩き、ゲートをくぐるサタン。
少しあっさりした別れ……でもなぜか、サタンとは何処かでまた会えるような気がした。
「ブレイブ! 伝えたい事があるの!」
ギブアが駆け寄ってくる。
「ブレイブさん……私、貴方に伝えたい事があるんです!」
ラブが駆け寄ってくるが、転び、ヘッドスライディングのような形で、滑って来る。
「ボクもだ!」
息を切らせて、フレンズも駆けてくる。
「……まさか……」
サタン、アクア、ラミア、ポイズンの話から推測するに、仲間になる際に付き合った影響が……大きな勘違いに発展しているのではないだろうか?
僕は逃げるように駆け出した。
「ブレイブさん、何で逃げるんですか!」
ラブが転びながら、追ってくる。
「待ってくれブレイブ!」
フレンズも息を切らせて、追ってくる。
「逃がさないのブレイブ!」
猪突猛進で追ってくるギブア。
この3人の言葉を聞くのは、いつの日になるだろうか?
END
勇者隊ガンバレヨ 続きを読んでいただきありがとうございます。最後まで読んでくださった方、本当にお疲れ様でした。
いかがでしたでしょうか? 感想などをいただけましたら、嘉村は大変喜びます。
この話で終わりましたが、リクエストありましたら続編か、新作などを投稿したいと思います。
それでは! またどこかでお会いしましょう!