表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔法大陸の七不思議

【呪われた教師】

作者: 灰色セム

むかしむかし、あるところに教師が住んでいました。

黒い服を好む、赤髪の好青年です。


空気はきれいで、おいしい食べ物がたくさん育ちます。

みんな仲よしで、とても素敵な国です。教師は幸せでした。


ある日、悪い魔法使いがあらわれて、教師に魔法をかけました。

「お前に呪いをかけた。もとに戻りたいなら、俺の言うことを聞け」


拒否すると、急に苦しくなりました。

魔法使いは、もう一度おなじことを言います。

教師は、泣きながら命令にしたがいました。


来る日も、来る日も、雑用をこなします。

逃げたくて、たまりませんでした。


でも、教師は知っていました。

魔法使いに抵抗した人たちが、どうなったのかを——。


「お前を倒して、みんなを助けるんだ!」

ゆうかんな兵士は、それきり動けなくなりました。

「みんなが、元気になりますように」

優しい吟遊詩人は、なんにも話せなくなりました。

「神さま、どうか私たちをお救いください」

祈り続ける神父は、神さまのところへ行きました。


教師は、知っていたのです。


やがて空気は汚れ、食べ物はろくに育たなくなりました。

みんな、ケンカばかりしています。


ある、月夜のことです。ついに、教師は逃げ出しました。

呪いで苦しくなっても、走り続けます。


何日もかけて、堅固な城壁を有する国にたどり着きました。

悪い魔法使いに抗い続けている強国です。


そして、一流の魔法使いが、とても少ない国でもありました。

みんな戦って死んでゆくのです。上手に教える人が、足りません。


教師は、魔法学校の先生でした。必死に自分を売り込みます。

門番に蹴られました。教師は、諦めませんでした。

なんど怒られても、門の前から動きません。


座り込んでから三日後、門番は教師をお城へ連行しました。

「彼は、私の古い友人だ。魔法学校で雇ってくれないだろうか」

教師は泣いて喜びました。


教師は、呪いを解く方法を探しながら、教壇に立ちます。

教え子たちは、強く優しい魔法使いとして有名になりました。


教え子の一人が成長し、教鞭をとり始めた矢先に、教師は倒れました。

呪いは、すでに全身をむしばんでいたのです。


髪はすっかり白くなり、身体は枯れ木のようにやせ細りました。

まだ五十代半ばだというのに、一人では食事もままなりません。


どんな薬草も、どんな魔法も効果はありませんでした。

門番を定年退職した友人は、教師を励まそうと病院に入り浸ります。


おいしい果物に、きれいな花、そして新しい魔法の研究成果。

友人は、いろいろなお土産を持って行きます。


今日は教師の誕生日ということで、ささやかですがケーキを用意しました。驚かせるために、ピエロの変装もして気合いは充分です。


見慣れたドアを開け、クラッカーを鳴らして祝福します。

しかし、教師はいませんでした。部屋は、とてもきれいです。

友人はいやな予感がして、担当医にたずねました。


医師は、なにも知りませんでした。

二人は病院を駆け回り、教師を探します。

しかし誰に聞いても、どこを探しても、教師は見つかりませんでした。


しばらく経った、ある日のこと。

悪い魔法使いが倒されたという速報が、世界を駆けめぐりました。

上空を飛行していた無人撮影機が、決定的瞬間をとらえていたのです。


もう、怯えて暮らすことはありません。

各国はお祝いムードに包まれました。


しかし誰が倒したのか、知る人はいませんでした。

映像は一部が不鮮明です。解析には、とても苦労しました。


そこに映っていたのは、黒いローブをまとう赤髪の人物でした。

それは髪の長さこそ違いますが、あの教師に似ていたといいます。


あれから一世紀を経た今でも、その教師に似た人を見かけるそうです。もし、あなたが会えたら、本人か聞いてみるのもいいでしょう。

きっと答えてくれますよ。


彼は、なんでも知っていますから。

2015/11/19加筆修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ