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勇者ではない俺の異世界傭兵記  作者: 七十八手也
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序章 漂着者

 

 焚き火近くに座った俺の対面に座るのは、ザームと名乗った猫のような顔をした人。

 獣人と呼ばれる存在らしい。

 人間のような体に猫の顔と尻尾を足したような姿をしており、質素な服を着ていた。飾り気があまり無い服ではあるのだが、どことなく民族衣装のように感じる。少なくとも、Tシャツに上着を羽織り、ジーンズを穿いている俺とは確実に違う。



 俺とザームさんの近くには他に5人がいる。

 兎耳を持つザームさんの奥さんとまだ小さいその子供が2人。子供たちは男の子が兎耳で女の子が猫耳をしている。猫の顔をしているザームさんとは違い、奥さんと子供たちは人間に近く、人間に獣耳が生えているように見える。

 この3人は焚き火から少し離れた幌付きの馬車の中に居るが、此方の話が気になるのだろう。視線を感じるし、幌から覗き見ているのが視界の端に映っている。


 そんなザーム家の他に2人。

 1人は焚き火のザームさんの傍に座っている。

 その姿は戦士や兵士といった感じで、衣服の上にゲームや漫画でしか見たこと無いような革鎧を着込んでいた。緑の髪を後ろでひとつに束ねているため、背後から見れば背の高い女性に見えなくも無い。

 しかし、体つきは細いが男のそれであり、顔も凛々しい。外見としては人間と同じようである。

 緑掛かった目は先ほどから俺を観察しているようだ。武器である槍が手元近くに置かれ、妙な行動をすれば即座に攻撃されそうである。


 もう1人は焚き火の光が届く近くの木に寄りかかるようにして、馬車のよりの場所に立っていた。

 此方の人物に関しては良くわからない。

 と言うのも、この人物は布で頭から脛辺りまでを隠してしまっているからだ。

 顔も目の部分を除き完全に隠してしまっており、たまに見えていた手には布の手袋をつけている念の入りようである。

 一見するだけであれば、盗賊とか野党とか殺し屋とかに思えそうではあるが、他の人物が警戒している様子もない。

 この世界がどういうものなのかはいまだ不明確だが、そういう姿を隠すことが必要な種族なのかもしれない。



 そう、この世界。

 今居るこの世界は俺の生まれ育った世界とは違う。

 なにせ、俺の居た世界”地球”には人間以外は存在していなかった。

 いや、河童とか狼男とか文献が残っているのだから、居ないことも無いのかもしれないが、世間一般として存在確認されてはいないはずである。

 そんな俺がなぜこの場所に居るのかといえば、俺自身も良くわかっていない。

 ゲームやアニメにあるような異世界召還では、神なり王様なりがこの世界がどういうものなのかを説明してくれたりするが、俺の場合は気が付いたらこのザーム一行に拾われていた。

 ”世界の危機を救ってほしい”とか”魔王を討伐してほしい”といったような目的がまったくわからないのである。


 そしてなにより、俺、榊原サカキバラ 大輝ダイキはかなり平凡な男であるはずだ。

 

 体つきはどちらかといえば細い部類である。

 顔立ちだってブサイクと言われるほどではないと思うが、しかし、イケメンと言われるように整っている訳でもない。

 年齢は二十歳。

 性別は男。

 得意といえるほどの特技があるわけではない。

 家柄だって普通である。

 現在、安アパートを借りて1人暮らし。

 仕事の収入は、裕福と言えるほどはもらっていないが、無駄使いさえしなければ1人暮らしと車を持つことができるくらいである。

 家事全般もあまり得意ではなく、部屋は整頓されては居ない。

 洗濯物もあまりきれいにはたためていないし、料理もいわゆる男の料理で、煮たり焼いたり揚げたりといったことをするだけのものばかりしかできない。



 だから、こんな事態に巻き込まれたのは偶然以外の何ものでもないのだろう。

 そんな俺はいつものように、朝食や支度を済ませ家を出た。

 歩いて1分とかからない駐車場にとめてある車に向かう途中にそれはあった。


 それを一言で例えるならば”渦”。


 地上1m辺りを中心として空間が渦を巻いていた。

 最初に見たときは目の錯覚かと疑った。

 しかし徐々に大きくなるその渦や、渦のせいで歪む向こう側の空間が、確たる主張にて知らせてくる。

 紛れも無い現実であると。

 異常を前にして俺は動けなくなっていた。

 恐怖と言うよりは混乱。理解が追いつかない状態に思考が停止してしまっていたのだ。


 そして、渦の中心に黒い点が発生した。

 その瞬間に俺の視界は黒で染まった。

 首を回し体を捻り上下左右前後を確認する。・・・したと思う。

 光が一切無い空間であったため、自分がどこを向いているのかは自分の感覚でしか判断できない。

 必死に手足を動かし確認する。

 ある。俺の手足は存在している。しているはずだ。

 だが、それもすぐに不安に襲われる。


 手足の指の先から感覚が無くなっていっているのだ。

 見えているわけではない。

 だが、俺の五感が告げている。

 先のほうから消失していっていると・・・


 その感覚を最後に俺の意識は途切れたのである。






 次に気が付いたときは、ザーム一行に拾われていたと言うわけだ。


 気が付いた後、当然のことながら、ザームさん達は俺にいろいろと説明を求めてきた。

 混乱していることもあり、良く考えずにありのまま今起こったことを話した。

 話している途中で気が付いたが、こんな作り話のようなものを誰が信じると言うのだろうか・・・


「そうか、サカキバラ君は異世界人なのか。てっきりフソウ連合国あたりの人物かと思っていたのだが」

 サカキバラ ダイキなんていう日本名に近い国があるのか。

 語感で出身地がわかりやすい国だってあるし。

 『なんとかスキー』とか『李なんとか』とか・・・

「自分で言うのもなんですが、こんな嘘みたいな話、信じてもらえませんよね」

「サカキバラ君の世界では、漂着者はいないのかい?」

 少し意外そうな顔でザームさんが聞いてきた。


「漂着者?」

 あまり聞きなれない単語である。

 地球でいうならば海へ流され、どこかへと流れ着いた人のことではあるが。


「”異界の次元”君の言う”渦”に飲まれて異世界へと飛ばされた人の事だね」

 話の流れからはなんとなく察してはいたが、やはり、あの渦に巻き込まれた人のことを表現する言葉のようだ。


 いや、ちょっとまってくれ。

「異世界の人間が広く認識されていると言うことは、俺のような漂着者と呼ばれる存在は多いのですか?」

「多いと言えるかはわからないが、10年に1回は漂着者が異界の次元から現れると言う話は聞いているね」

「ちなみにですが、漂着者が元の世界に戻ったと言う話は?」

「・・・残念ながら」

 

 100年で10人。

 全てが地球から呼ばれるとも限らないが、人間の平均寿命は80歳ほど。

 この世界がどのくらい医療技術の発達を見せているのかにもよるが、衣服や馬車を使っているところからも地球よりかは発達していないように見受けられる。ならば地球世界人であれば50歳も生きれればいいような気がする。

異世界の人々の平均寿命がどのくらいかは知らないが、そこまでの人数しか居ない漂着者を常識として知っていると言うことは、永住したものが多くいるということだろう。

 勇者のように大活躍をして知名度が上がったのかもしれないが、ザームさんたちの反応はそういう歓迎とは違うように感じる。

 むしろ警戒されていると言ってもいい。

 それに、そう何人も勇者がいてはありがたみも何もあったものではない。


 今までの漂着者の中には何が何でも帰還しようと試みた者も居るはずである。

 そして、成功していないところを見るに、ある種絶望的と考えたほうが良い。

 仮に方法があったとしても、帰りたいからすぐにでもというわけには行かないだろう。

 となれば、この世界で生活してゆく方法を考えなくてはならない。

 衣、食、住の確保は大事である。

 そしてこの世界の常識を覚える必要がある。

 ザームさんたちに教わるのが一番手っ取り早いのだが、どうにも警戒されているように感じてしまう。

 本人たちは隠そうとしているのだろうが、目は口ほどに物を言うという言葉の通り。

 こうやって話していても警戒が薄れる様子が無い。


「知らないだけで、大きな町や首都へ行けば知っている人も居るかもしれないから」

 俺が沈黙し考え込んだことを帰還が絶望的であるということに落ち込んだことだと解釈したらしいザームさんが慌てたように付け加えてきた。



 とりあえず生活に支障がない位にはこの世界のことを知らなければ。

 そう考えモノは試しでザームさんに教えてもらえるよう話をしようとした。

 


 だが、奇妙な感覚に囚われ俺はザームさんとは真逆。後ろを振り向いた。

 

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